わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百七十九回
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『パブロ議員、ここは停戦しよう。でないと、王国民の反感を買うことになる。」
首相は停戦を渋る議員に談判していた。
本来ならば、パブロ議員はそれほど大物ではないから、無視したってその力の及ぶ範囲は比較的限られてはいる。
しかし、こと、この問題に関しては、いささか事情が違う。
議員は、非常に不可思議にして、有力な、ある証拠を、いくつか握っていた。
それは、例の考古学者殿が発掘し、議員に秘かに渡していた箱の中身の一部である。
議員は、先日になって、ようやく、それを首相にも見せたのだ。
すべてではない。
議員は、革命的な証拠を、ひとつ、まだ握っている。
小さな手帳くらいの冊子が一冊。
それから、何かの機械類が一個。
金属のバッジのようなものが二個。
「こいつは、何だね?」
その時、首相は、たいして興味もなさそうに議員に尋ねたのだ。
「秘かに調べたところでは、まず、この小さな本ですがね。最新の特殊レーザー光サンプル検査では、こいつは、2億年から2億5千万年ほど前の物だそうですな。うそみたいでしょう? ほら、いいですか、ちょっと手ぶくろして、慎重に見てくださいよ。」
「この文字は? 見たことないような、見たことあるような。なんだか、ヴォイニッチ手稿みたいだ。」
「まあ、似てますがね、まだ、関連性はわかりません。時代が違い過ぎる。恐竜さんがいた時代ですからな。しかし、現在地球上で使われている、どのような言語とも対応していないようですな。もちろん、解読も出来ていません。いや、できていませんでした。ただ、王国語には、かなり近いようです。」
「いませんでした?」
「そうです。こいつ・・・この機械の使い道が分かるまではね。」
「なんだか、金属みたいな、プラスチックみたいな・・・」
「さすが、首相さんですな。我々には作れないしろものだそうです。ただし、削る事さえできないし、電子顕微鏡で見ても、まったく凹凸が見当たらない。まっ平だそうです。でも、これと同様のものが、すぐそばにある。」
「すぐそば?」
「そうそう。この首相官邸ですよ。この建物。」
「ああ、こいつは、先先代の首相の時に、マツムラに作ってもらった建物だそうだね。核の直撃でも壊れないという。信じられないがね。」
「そのとおりりみたいですな。ぼくも、最初は信じてはなかったが。どうやら、この外壁と同じ素材らしいですよ。」
「はあ? そりゃあまた、おかしな話だ。」
「まあね。しかし、さらに問題は、こいつの用途ですよ。なかなか見つからなかった。一昨日になって、偶然わかったんです。これは、翻訳機のようです。いいですか。この表紙のページの上に置く。それだけなのに、気が付かなかった。ほら・・・・」
『・・・翻訳開始プログラム作動するものなり。このものは、『第1期王国時代の標準文字』なり。火星の最終『標準言語』に応え合う『基本文字』であるものなり。翻訳開始しませう。・・・・・』
「なんだ・・・・これは、えらく、古臭い表現だな。」
「1000年くらい前の標準的王国語であると考えられます。」
「ふうん・・・・2億年と、千年か?」
『表題・・・《タルレジャ教手本》・・・日頃のお祈りの手引書。』
「おなじみの内容とは、かなり違いがありますよ。ここでは、王国外に旅する場合の危険巨大生物・・・恐竜さんなど、でしょうなあ。・・・などとの、かかわりの注意事項なんかも書いてある。具体的にね。つまり、実際にその危険性があったわけでしょう。」
「ばかばかしい。」
「ばかばかしいけど、1000年前の地層から出たものです。2億年前の手帳は、たぶん、長く保存されていた。この箱自体は、閉じて以降、手つかずだそうです。この箱自体も、その証拠。箱自体は、当時のアジアで作られたものだと確認しました。大変貴重な文化財だそうです。古い王宮の跡地から出たものです。ただし、土に直接埋もれていたのではありません。一種の保管庫があったようです。まだ、発掘は途中のママですよ。王宮と教会が、急に、ストップをかけてきたんです。解除をもとめていますがね。」
「ふうん。ぼくは、聞いてないが。」
「王宮と、王立大学の契約がありましてね。まだ、公開不可です。ぼくは、まあ、ある筋から、契約違反して、入手した訳ですな。こりゃあ、本物ですよ。」
「つまり?」
「首相、つまり、火星には文明があった可能性があり、王国民は、火星から移住してきたという宗教的伝説の、傍証になりうる。ぼくらは、その子孫かも。まあ、それが単なる妄想であるにしてもて、2億年前には、ここに文明があったことは、おおかた間違いがない。王室や、教会は、当然知っている。ずっと、隠してきたが。そして、そうならば、今、現れている火星人と王宮や教会は、共同作戦を行っているのかもれないという推測が、あながち間違いではないのかもしれない。まあ、まだ、あなたがおっしゃるように、あまりに年代がかけ離れ過ぎている。これだけではね。」
議員は、多少、なにかを含んだ様な言い方をした。
しかし首相は、そこではないところに、反応したのである。
「君は、不感応者か? 背徳者か?」
「さあて。首相、我々は、北島の開放を目指している。あなたは、もうそれに乗っているわけだ。」
「しかし、それは、第3王女様、つまり、皇帝陛下のご意志なんだ。」
「そうです。そうです。ぼくは、そのご意志に沿ってやっている。そうでしょう? そうして、皇帝陛下は、火星人に操らている。」
「まった、まった、頭が割れそうだ。考えが、まとまらない。考えらえない。」
首相は、頭を抱えた。
「お気の毒な。首相がそうなんだったら、みなそうですよ。ぼくを逮捕するか。あるいは、味方につけておくか。どっちがいいか。ぼくの見るところ、感応者でも、まだ自分の考えを作る能力は残っていると見たのですがね。あなたは、意志が弱いのかな?」
机に頭をこすりつける首相を、議員は憐れむような眼で見降ろしていた。
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