わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百七十七回
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「首相、怪しい軍団によって、教育センターが、次々に攻撃されておりますようです。詳細は分析中ですが、つまり、その・・・・」
第1秘書が、言い淀んだ。
「なんだ、怪しい軍団って? どうしたの?」
「その、つまりですね、カメラに映らないのです。まったく。しかし、非常に有名な方がいらっしゃるようで・・・」
「はあ? さっぱりわからん。だれ、それ?」
「はあ・・・目撃者の証言ですが、『アヤ姫』様です。・・・・・はい。」
「はあああ? なんだ、そりゃあ? ゆめでも見たの? もしかして、王女様の超能力だろう。王宮には『アヤ姫』様の幽霊が出るそうだが、まあ、その線が濃いなあ、と思う。我々には、ある意味常識だよ、きみ。私は、見たことがない。首相の、私がだよ。」
「しかし、幻影であれなんであれ、攻撃を受け、破壊されておりますことは、厳然とした事実です。これは、テロです。」
「ふん。警察は?」
「応戦中です。しかし、まったく、無力といいますか、はあ・・・。まさに、幻と戦っているという感じであるとのことだそうです。」
「銃も使ったの? 実弾も?」
「はい。しかし、相手方には、まるっきり、効果がありません。わが施設を破壊するのみとのことであります。弾丸は、みな、素通り、だとのこと。」
「きみたち、バカされてるんだ。」
パブロ議員が叫んだ。
「相手は、『第一王女』、さま、だぞ。他にありえない。相手は化け物だ。これで、わかったろう? 我々の守り神じゃあない。気に入らなければ、殺されかねないんだよ。目を覚まして、粉砕すべし!」
「しかし、どうやって? まったく、弾も素通りの相手ですよ。」
「ふん。おもしろい。ちょっと、聞いて見なさい。マツムラ・コーポレーションに。そいつは、なにものか? 『化け物王女』との関係はないのか? 政府の援助の見直しも、ちらつかせればよいのだ。」
『化け物王女』という表現は、法律で決まっているわけではないし、面と向かってでもなければ、南島内なら、特に処罰もされないが、北島では、恐るべき罪と認識されるし、タルレジャ王国内では、避けられるべき表現である。
神に対する、冒涜と、言われてもしかたがない。
一種のタブーと言ってよい。
しかも、議員は、ついでに、呼び捨てにした。
ただ、もし本人に面と向かって言ったなら、狂喜されただろうけれど。
「はあ?」
第1秘書は、首相の顔を見た。
「いや、議員。それは、ちと、待ちたまえ。関係ないだろ。」
「ほう、具合が悪いのですか、首相殿。あの会社は、王国の儲け頭だからな。いや、大金の献金でもしてもらってますかな?」
「法の範囲内だ。あなただって、そうだろう。アメリカ国のとある大企業との関係が深いとか? かるた財団とか。」
「まったく、問題がない。」
「ほう?」
そもそも、首相とパブロ議員は、犬猿の仲と言われる政党を代表する議員であるから、本来、そりは良くないのである。
「まあ、まあ、そこは、お二人だけでどうぞ。どういたしますか? 首相閣下。」
第1秘書は、緊急回避行動をとったのである。
「ふうん。解決方法を、マツムラに聞いてみよう。わたしが、じかにね。いいかね?それで。」
首相は、譲歩したのだ。
「それがよろしい。さすがは、我が首相だ。ただ、私も、同席する。」
パブロ議員が、首相を持ち上げたのは、これが初めてである。
電話が鳴った。
「はい、ぼくです。はあ・・・・・わかった。10分後だ。10分、待ってもらえ。」
「どなたから?」
第1秘書が、想像は付いてるが、という感じで、尋ねた。
「ご想像通り。日本合衆国の首相殿だよ。」
「そりゃあ、首相、歓迎すべきではないですなあ。国際的、謀反のお誘いだ。今は、王国内に集中すべしですよ。」
「悪いが、議員さんは、引いてください。きみ、副首相を、すぐ呼びたまえ。」
パブロ議員は、閣僚ではない。
ここは、引き下がるしかなかった。
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「なんだか、ごたごたに巻き込まれたな。最初からね。」
武が、正晴に言った。
顔を合わせるのは、何百年ぶり、という感じである。
あまりに、わけのわからないことが、爆発的に連発している。
「ぼくは、金星にまで行ったしなあ。」
「こうなったら、否定しがたいよな。まったく。」
少し、ふたりの間には、意図しない沈黙が流れた。
「この状況で、予定通り儀式を行うそうだから。どうなってるんだか。日本合衆国では、まず、考えられないだろう?」
武が尋ねた。
「さあ・・・・どうかなあ。もう、世界中どこも、変わらないんじゃないの?」
「ふん。そうだな。君は、それで、うれしいのかな?」
「いやあ。うれしくはないよ。でも、実は、うれしがらなきゃならない立場かもしれないが。」
「もし、インタビューされたら、目出度いと言うべきだと?」
「目出度いと言っちゃあだめなんじゃない? 王国民が苦悩してるんだ。控えめなコメントじゃなきゃあならないだろ。まあ、でも、そういうことは、起こらないよ。きっと。」
武は、目を、きっと見開いて言った。
「そうかい。弘子は、いや、ヘレナは、開かれた王国を再構築したいと、発表するらしい。ならば、ぼくらにインタビューに答えさせるに決まってるさ。ただし、ぼくらの頭とは関係なく、口が勝手に答えるんだ。」
「ふうん・・・・・そうれが、真実に近そうかなあ。逆らえないよ。ぼくらには。」
「そうだな。きっと、そうだな。くそ。」
武は、言い捨てた。
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「ほら、あなた、お式の服装とか、もう、ちゃんとできてるの?」
秘かにタワーに戻ったヘレナは、着替えながら、ルイーザを急き立てている。
「それは、王宮の女官たちが行うと、お姉さまがおっしゃいましたし。ドタバタ続きでしたし。」
「確認するのが、あなたの務めでしょう?」
「じゃあ、お姉さまが、確認なさったらいかが? すぐでしょう? そんなこと。あたくしは、総督ですよ。命令いたしましょうか?」
「お~~~~~~! そう来たか。はいはい。総督閣下。いいわ。わしには、そなたには歯が立たぬわ。ふんふん。アニー、準備できてる? あたくしは、帰る。替え玉にタッチじゃ。くそ。てめぇ。」
「お姉さま、お言葉が、よくございません。」
「おどりゃあ、てめぇ。わいに喧嘩売っとるんか?」
「お~~。やったるわい。ねえちゃん。わいに、勝てると思うんかいのう?」
『まったまった。姉妹げんかは、儀式以降にしましょう。それでなくても、世の中込み入っております。池の女神様たちに、乱入と破壊を命じたのは、ヘレナさんですか?』
アニーが割って入った。
「ま、そうじゃのう。」
ヘレナは、そっけなく、答えたのである。
『なんで? どうしれ? 話がこじれるだけですよお!』
「あなた、言語機能が不調化したの。また?」
『いえ、問題はない。アニーは正常です。今までになく、正常です。あなたが、おかしいのです。ヘレナ。論理の整合性がない。ですよね、ルイーザ様?』
「いやあ~~~~~~。わい、そう、聞かれてものう・・・・お姉さまは、わい自身じゃからのう。お姉さまのご指示は、わし自身の声じゃ。」
『聞いたアニーが、悪うございました。おふたりの、お好きにどうぞ。』
「おどりゃあ、てめぇ・・・わいに逆らう意志ありかのう? ならば、しっかり、改造するがのう。すぐじゃ。ふんふん。」
ヘレナが凄んだ。
『あわわわわ。いえいえ、そのような。アニーハ、コンピューターレす。反逆ノ意志ハ、モテマセン。ハイ。』
「ふうん・・・・あやしいわねえ。このところ、みんな、アヤしいわ。陰でこそこそやってるのは、わかってるわよ。ま、あなたが言うように、アニーハ、反逆できん。誰かが、操作しなければのう。ふふん・・・無駄だよ。あなたがたの能力では、わいには、歯が立たん。ほほほほほほほほほほ!」
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