わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百七十三回
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《びゅわ~~~~~!!》
あやしい、ガスの固まりみたいなものが、村沢の正面にまで飛び込んできて破裂した。
しかし、どうやら、この室内と、その外部の間には、まだ何かの障壁があるらしく、特に影響は受けなかった。
また、あの《赤い文字》が、空中に飛んだ。
『そうそう・・・追伸です。外の観察が出来たら、いったんドアを閉めてね。で、次に開けたときは、『婚約の儀』の翌日になります。《地球帝国創立式典》の日の朝よ。あなたが、いま、見ているのは、王国の『北島』と『南島』の内戦風景ですわ。そこに、あたくしが、現れるわけよ。あなたは、そのドアの陰から、あたくしを打ち抜くわけ。それは、あなたの腕ですわ。で、ドアを閉めてしまえば、もうそこは、本宅の部屋に逆戻りですの。あなたは、犯行時間には、トウキョウにいた。あなたが犯人であるはずがないわね。北島の戦場から見たら、何も無い空間のど真ん中から狙撃されたことになる。しかも、見たこともない、おかしな銃創。弘子さんは体を貫かれ、おしまいなわけ。でも、あなたは心配する必要はないわ。弘子さんは、死なない。彼女は不死だから。ただ、頭は撃たないでほしい。弘子さんも、女子だから。かわいそうでしょう? でも、そこらあたりの処理は、こちらに任せてね。じゃね。』
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侍従長は、王国政府に通信を送った。
『『第1王女様』と『第2王女様』の『婚約の儀』は、予定どおり行いたい。『帝国創立式典』は、そちらも、王国の責任で、伸ばしたくはないでしょう。帝国から、にらまれますぞ。停戦しませんか?』
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「ヘレナ様ご自身は、お帰りにならない。ヘネシーさまは、『火星の女王様』付きの秘密警察に保護されてしまったらしい。まあ、居場所はわかっていますが、まあ、だれも手は出せない。困ったものですわ。思い通りともいえますが。なんか、複雑な気持ちですわ。」
珍しく、ルイーザがぐちっている。
彼女の立場は、あくまで『地球帝国総督』がメインである。
しかし、ヘレナが雲隠れしたままなので、国王大権の特例法が実施中であり、その絶対的権力の代行者であるヘレナがいない以上は、その大部分はルイーザにまかされてしまっている。
『いいじゃありませんか。やり放題ですよ、ルイーザさん。いやあ、ヘレナさんかな。あなたの独裁だ。今だけ! このさい、やっちゃいましょう。』
アニーがやたらにあおってくる。
たしかに、いま、ルイーザの自意識は、ヘレナ自身でもある。
ただ、ルイーザが消えてしまっているわけでもない。
なぜか、ヘレナは、いくらか、手加減をしていたらしいのだ。
おかげで、ルイーザは、ヘレナの自意識と、ルイーザ自身の自意識に、挟まれている。
『ヘレナさんの意志もあり、あすの『婚約の儀は実施する』方向で指示されていますしね。』
「わかっております。へレナさまのご意志は、わしの意志でもある。北島からは、そのための停戦が提案されました。南島政府は、皇帝陛下のご威光をバックアップとして、さっさと勝ち逃げしたかったのですが、つまり、それが、パブロさんの考えだったわけですが、まあ、そういうわけにも、もう、ゆかさない。というわけですわね。停戦を指示します。皇帝陛下はおいやでしょうけれども。」
『そうですよ、ルイーザさん。いや、ヘレナさん。でも、『婚約の儀』を行うならば、ご本人が必要でしょう? そこんとこ、さすがに、よく、聞いてないんですが。』
「儀式は、ヘレナ様のコピーが行うが、会見などは、一切行わない。もともと、神聖な儀式故に、それが習わしじゃから、問題もなにもない。夜間のみ、へレナさまご自身が、つまり、まあ、実施なさいます。たぶんね。」
『なるほど。よくできてますね。習わしというものは。』
「あなたが言えるものじゃあないでしょうに。憎たらしいこと。」
『おやおや、そりゃあ、失礼。ルイーザ様は、だいたい、ヘレナさんよりきついけど、やっぱり、そうなんだ。』
「わしは、いま、へレナじゃ。」
『はいはい。わかっておりますが、けっこう、ルイーザ様が混じってますな。』
「むむ。まあ、そうらしいが・・・。そこが、心憎いところじゃ。さすが、ヘレナ様というか。何と言うかじゃのう。・・・まあ、よい、停戦を指示せよ!」
『了解。政府には、あなたのお名前で、規定通り指示します。それと、侍従長につなぎます。あなたから、お話しください。火星側はどうしますか?』
「リリカ様に報告せよ。」
『了解。誰かさんが、カンカンかも。』
「わかっておる。」
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「くそ。どうなってるんだ。帝国政府が『停戦指示』? 皇帝が、創立式典まで、一時保養? なんだそりゃあ。」
ダレル議員が、不満をぶち上げている。
「帝国内部の問題だ。われわれには手が出せないよ。」
首相が答えた。
「くそ。ヘレナの仕業か。化け物め。」
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『ほほほほほほほ!いい気分だ。それに、パブロさんが、あんなに褒めてくれるとは思わなかったわ。』
『ヘレナさん、あれは、褒めてないんですよ。』
『いいえ、あれ以上の、ほめ言葉はないわよ。『化け物』よ、『化け物』、最高じゃないの。』
『ほうら、ダレルさんに報告が入った。どうしますかねぇ?』
『さああてね。リリカさんが位は上だわ。さあ、怒れ! だれるちゃん。お母様に盾つけるかな。それとも、まだまだ、赤ちゃんかな。』
『そりゃあ、怒る、ほら来た。』
会議場内で、つかつかと、ダレルはヘレナに近づいた。
唐突な行動だったので、一同が話を止めた。
「ちょっと、話したい。外に出てもらおうか。」
「はあ。なにを、失礼なことを。これでも、わしは、タルレジャ王国第1王女じゃ。」
「ぬあんとぬかす。太古の鬼婆のくせに。さっさと出てもらいましょう。ソー、まかせる。」
「はい。」
「おんどりゃあ、わしに、喧嘩売る気かのう? そっちのほうこそ、大古青鬼じゃろうが!」
ヘレナは、急遽、火星標準語はやめて、日本語で応対した。
『ヘレナさん、場所柄、態度、悪いです。』
アニーが割り込んだ。
『おどりゃあ、ルイーザみたなこと言うんじゃねーわ。だまっとれ。』
『はい・・・・』
「いいわ。出てやりましょうよ。けんかなら、わいは、負けんけーのお。」
ヘレナは、ダレルの青い大きな顔を、じっとりと、なめるように見回した。
普段の美しい、優雅で貴族的なヘレナとは、ちょっと、思い難い。
それから、二人は、会場から出て行ったのである。
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