わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百七十二回
************ ************
ジャヌアンは、いささか焦った。
自分の偽物が、帝国政府に逮捕されたというニュースを見たからだ。
しかも、『これからは、帝国政府に協力したい』とか、ご丁寧にもインタビューで答えている。
まさか、こうした情報を、帝国政府が公開するなどとは、思ってもいなかったし、知ってる歴史の中にもない。
歴史の中には無いという事は、歴史が曲げられたか、消されれたか、まあ、変わってゆくということだ。
もちろん、ジャヌアンの脳内にある高性能コンピューターは、全てを記憶する。
歴史が変わったとしても、それは別の宇宙に分岐がつながっただけであって、なくなった訳ではない。
ただ、そこには通常は帰れない。
時間の流れは一歩通行で、過去には帰れない。
それが、常識。
その常識をひっくり返したのは、外ならない『第2王女様』である。
女王ヘレナが、さかんに自分を説得しようとしていたことは分かっているし、しろうとじゃあるまいし、そんなことわざわざ言ってもらう必要もない。
そう思っていた。
しかし、自分は、もっとヘレナと話をしておくべきだったのかもしれない。
2億5千万年前にだが。
********** **********
北島側の、思わぬ攻撃(防御というべきかもしれない)に出会った南島の『防衛隊』は、完全に立ち往生となった。
相手の黒の兵士たちは、あきらかに不死身だ。
「隊長、ダメです! いくら撃っても効かないです。まるでゼリーみたいなやつらだ。」
副官が報告に来た。
「ゼリーねぇ。いいかい、考えても見ろよ。やつらの兵器も、我々の兵器も、オーソドックスなもの以外は、みな『第1王女様』が、開発したものだろ。」
「まあ、そうですかね。」
「そうさ。まさに、東洋で言う『矛盾』そのものだろ。この闘いで儲けるのは、マツムラ・コーポレーションだけだ。つまり、王室と教会が儲けるんだ。」
「はあ・・・・そりゃあ、士気が下がりますな。」
「まあな。とは言え、我々が勝手に戦いを止めるわけにもゆかない。『細胞不活性化銃』を出せ。」
「あれは、まずくないですか? はっきり言って、最終的に、どういう効果があるのか、誰も知らないです。」
「ここで、今使わなくて、いつ使う?」
「はあ。もし、人間に当たったら、死ななかったとしても、後遺症が、かなりあるかもしれませんよ。下手したら、生きた蝋人形みたいになるかも。」
「悪影響を受けるのは、北島側だ。使用権限は、ぼくにある。つまり、まあ、まだ、最終兵器じゃないよ。そう君が悩むな。」
「了解です。おい、『秘密兵器No.5』、出せ!」
「了解。」
連れて来ていた兵器輸送車から、あやしい兵器が運び出された。
設置すること自体は難しくないが、一般的な銃器に比べると、やはり大きい。
かつて、超大国『南北アメリカ国』が開発していた『小型核兵器』くらいの大きさである。
もちろん、『第1王女様』が、中学生の時期に、学校の授業中に1時間程度で設計し、マツムラ・コーポレーションが極秘に製造した兵器である。
もっとも、ヘレナにとっては新兵器でもなんでもなく、火星時代に実用化していたものの、リメイク版であった。
「準備完了であります!」
副官が報告してきた。
「よし、やれ、ぶっちぎれ。」
「ぶっちぎります!」
副官は現場に戻り、操作担当に言った。
「やれ、ぶっちぎってしまえ!」
「了解。」
砲塔は地上に出ているが、操作は遠隔操作である。
砲塔自体には、ヘレナ特製の防御カバーが搭載されていて、発射する瞬間しか外部に開かない。
球が飛ぶわけではなく、小さなガスの固まりが、連続放出される。
呼吸器からでも、皮膚からでも、表面だけでも、防御マスクからでも、どこからでも浸透し、体内に侵入すると、ガスが一瞬で広がり、あらゆる細胞も電子機器も、瞬時に活動が停止する。
無害化は、ヘレナ以外には不可能である。
相手が、黒の軍団だろうが、ミュータントだろうが、アンドロイドであろうが、ロボットであろうが、機能は停止するはずだ。
ただし、実戦で使ったことは、ここの誰もない。
実験もしたことない。
扱い方を、一部の担当者が習っただけである。
それでも、マニュアル通りに、その砲塔からは、無数の固まりが相手めがけて打ち込まれた。
驚いたことに、相手が高速で動いても、まるで意志がある様に、そのまま標的にコースを修正しながら突っ込んでゆく。
「こりゃあ、びっくりだ。」
副官が叫んだ。
黒の軍団は、一瞬固まったようにも見えた。
「やったか?」
緊張が走った。
しかし、結果はダメだったのだ。
黒の兵士は、再び動き始めた。
「くそ~~~~~。効かないじゃんか!」
誰かが叫んだ。
まあ、無理もないのである。
相手の黒の兵士は、ヘレナが指導して、リリカが開発したコピー人間である。
つまり、この兵器に対する防御対策は、実施済みな訳だ。
***** *****
『ヘレナさん、見てますか?』
アニーが、金星のヘレナに問いかけていた。
『もち。うんうん、ちゃんとどっちも機能してるじゃないの。』
『あのお、このままだと、南島における、あなたの権威は、がた落ちですよ。』
『ううん、そうね。そんじゃあ、あなた、現場のパソコンに、あたくしの名前でメール入れなさい。発射体のガス比率を変更。わざと対応してない比率があったでしょう?』
『ざーとらしいなあ。いんちきでしょ。みんな、あなたのひとり相撲だ、気付いてますよ、もう。』
『こらあ! ・・・そうかな。いいわ、巨大ロボを出しなさい!』
『ありませんよ。そんなもの。』
『あそ、いいわ、とりあえず、それでやってなさい。もうすこししたら、あたくしが、そこに行く!』
『え? え? 来るの? ここにですか? ヘレナさん、いいんですか?』
『おう、おどりゃあ、わいに、まかしとき!』
******** ********
村沢は、博物館にいた。
確かに、いたのだ。
ドアがあった。
なぜか、日の光が漏れている。
壮絶な音が聞こえる。
『なんだ、戦争でもやってるのか?』
ドアの懐のちいさなテーブルに、不可思議な銃がある。
村沢は、手に取ってみた。
非合法な殺し屋でもある村沢だが、こいつは見たことがない銃だった。
『村沢さんに! すいっち入れて、標的を確認したら、赤ボタン押すだけ! よろしくね。ヘレナより。』
赤い文字が空間に踊り、そのまま、消えていった。
『むむむむ・・・・・』
村沢は、ドアを開けた。
そこは、まさに、戦場だったのである。
************ ************
********** **********




