わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百七十回
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温泉というものは、大変に、よいものである。
シモンズと弘志と宇宙警部という組み合わせは、いささか興味深いものがある。
シモンズは、自分が『宇宙海賊マオ・ドク』という未知の存在の側近である、デラベラリ先生の子孫であるということは、もちろん、まったく知らない事だった。
しかし、ヘレナ=弘子から、先日、そのような話を聞かされたのである。
しかも、彼らは、火星の女王によって不死化されて、今もこの宇宙に生きている。
というのである。
『あたくしの故郷の事は、少しは、判った?』
と、先日、まるで幽霊のごとく現れたヘレナに、聞かれた時のことだ。
最近は、そういう現れ方が多く、実態はなかなか見せなかった。
・・・ただし、2億5千万年後の子孫というわけでもない、・・・つまり、もっと近い・・・という、通常あり得ない状況だということもだ。
もちろん、当たり前に考え付くような事柄ではないし、ヘレナは、『今はそこまでね!』と言って、わざわざ途中止めにしてしまった。
シモンズにしてみれば、自分の祖先が、中央ヨーロッパから出てきたということ程度で、特にそれ以上のルーツを探る必要があるとは思っていなかった。
一方、弘志は、自分がどうやらただ者ではないということを、雪子から聞かされてしまったが、あまり精神的なショックは受けてはいない。
いくらなんでも、途方もない話しだし、それこそ、2億5千万年前のことだと言われても、ピンとくるわけがない。
あなたの祖先は、恐竜だったのよ、と言われた方が、むしろ信じやすいだろう。
弘志は、実は、金星の支配者、ビューナスの末裔だ、というのだから。
ビューナスなんて、実在したと考える方が、明らかにどうかしているのだ。
ただ、雪子に言われたという事は、たいへん重たいとは、思ってはいたが。
ここにきて、金星の『空中都市』だとか、『ド、なんとか集団』とか、さらに怪しい存在が続出してきてしまった。
こうなったら、何が真実なのか、突き止めなければ気が収まらない。
それに、尊敬してやまない弘子だって、もし、そうならば、ビューナスの子孫ということになる。
ところが、シモンズから聞かされた話では、弘子は『火星人』の末裔である、という。
もっと言えば、シモンズは、ほとんど、どれも信用していないらしい。
彼によれば、『そうじゃない回答があるはずなんだ。』
ということだ。
まあ、嘘と誠の、両方が混じることがあったって、ひとつもおかしい事はないのかもしれないが。
弘志の心情からしたら、尊敬する弘子と、大切な雪子は信じたいが、その弘子が、二重人格のような者らしいというから、なかなか、穏やかではいられないことも事実なのだ・・・・・。
まあ、実際に、弘子そのものとも、会話した事でもあるし。
『警部2051』は、そうした話を、二人から聞かされた。
それから、意見を求められたのである。
そんなこと、あり得る話かどうか? と。
どれが事実で、何が嘘なのか?
巨大な宝石のように、真っ青な体の警部は言った。(それ自体が、もうすでに、信じがたいが・・・)
「それは、十分、みなあり得る話し、なのですなあ。」
「根拠があるのですか?」
弘志が尋ねた。
「もちろんですよ。いいでしょう。いい機会だから、何があったか、ぼくの知ってることを、かいつまんでお話しましょう。のぼせないでくださいよ。それはそれは、あなたがた人類からしたら、大昔の事なのですがね。」
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「あなたがたの太陽系は、46億年前に形成されたと考えられています。これは、まず間違いなく正しい。ぼくは、当時はまだ自分の生まれ故郷の星系にいましたが、文明はもう崩壊期でありました。治安は悪化し、法を犯すものは、あまりにも知的になり、それを押さえ摘発するために、ぼくらの治安省が、あらゆる最大の技術を集大成したのが、ぼくたち宇宙警部でした。ぼくらは、宇宙に逃亡した犯罪者や、また、彼らに誘拐されたりした、様々な事情を抱える同胞をも探していました。その範囲は、可能な限りの全宇宙でした。ぼくは、その後、長く故郷には帰っていない。というのも、同僚がひとり、行方不明となり、それを探し回っていたからです。発見しなければ、帰れないのです。ぼくの任務だからね・・・。彼は、無実の罪を背負わされていました。違法な麻薬取引に加担したとされました。ぼくは、無実を信じていたが。いやあ、じっつに長い時間、本当に長い時間でした。」
「はあ・・・・」
シモンズは、温泉の湯の中で、ぐるぐると回りながらつぶやいた。
「彼の痕跡を辿りながら、ついに、この星系に近い、あなた方の言う『宇宙クジラ』さんたちが住む恒星系で・・・」
「アルファ・ケンタウリ?」
「まあ、そうです。ケンタウルスは三重連星ですが、あなた方に、プロキシマ・ケンタウリと呼ばれる、恒星の周囲にある、ふたつの惑星が、彼らの根城です。もっとも、彼らには母星というものは、すでに必要がなくなっていましたが。彼らの本来の出身地がどこなのかは、いまだ、明らかになっていません。プロキシマ・ケンタウリの惑星は、大変、生物には住みにくい環境で、あんなものすごい生き物が、そこで生まれたとは考えにくいのです。しかし、その当時は、彼らには大変都合の良い住処になっていたわけです。彼らのエネルギー源が入手しやすいことと、また、あなたがたの太陽系が近い、ということだったようです。火星の女王様は、遥かな昔から、彼らとかかわりがあったと考えるべきですな。太陽系の開発について、彼らと秘かな約束をしたのだろうと、ぼくは、推測します。もしかしたら、彼らがケンタウリ星系にくる以前から知り合いだったのだろうと、まあ、これは、推測ですが。で、ぼくはそこで、友人に関する有力な情報を得ました。火星に海が出来たのは、40億年くらいむかしのことです。しかも、地球人が考えているよりも、ずっと後まで海はあったのです。その火星に『火星人類』の直接の祖先が、はっきりと現れたのは、5億年近く前です。この形成には、火星の女王様が関わっていたのは間違いがありません。火星の第1次文明は、4億5千万年前に始まったのですが、その後の発展は、非常に早かった。一方、金星の方が、もっと早くに、金星人類の文明が始まっていました。どちらの人類も、女王様が手を加えたので、よく似ています。地球人もね。また、金星にも、一時期海があって、温暖な気候の時期もあったのですが、次第に温暖化により、廃墟のような風情となりました。火星の女王様・・・・金星では、もちろん、当初は『金星の女王様』と呼ばれていたようです。・・・彼女が、『金星文明』にも関わっていたことは間違いがありません。金星や火星の環境は、女王様とその手先の、奇怪なコンピューターと、いわゆる『金星のママ』によって、なんとか一定の状態に、維持されていました。2憶5千万年前までは、です。しかし、火星には、いずれにせよ、巨大火山の終末噴火が迫っており、金星の環境は、とっくに今の様な状態になっていて、金星人は『空中都市』で、やっと生き残っていました。」
「まあ、そんなことを言ってはいたな。」
シモンズがうなずいた。
「それは、あの、シモンズさん、つまり、弘子お姉さまが、そう言った、のですか?」
「まあ、そうだよ。他にいないだろ。ぼくの雇い主なんだから。」
「はあ・・・・・・・・・」
弘志は、もちろん、大体そうだったらしいことは、雪子からの情報でも知ってはいたが、『宇宙警部』さんに、こう、はっきり言われてしまうと、いささかショックだったのである。姉は、実際化け物である、あるいは、化け物が乗り移っている、とうことである、という、お墨付きをいただいたわけだ。
「ぼくが太陽系におじゃましたのは、金星と火星文明が崩壊した時です。宇宙クジラさんから聞いた情報は、非常に古い話で、『火星近代文明』が初期段階のころ、ぼくの友人であり、同僚である彼が、太陽系に向かったということでした。それで、崩壊間もない火星に降り立ったぼくは、非常に危険な放射性物質の蔓延した火星の大地に、彼の痕跡を認めました。しかし、その場所は、不可思議なフィールドで、まあ、なにかの異常な力で封印されていました。ぼくが開封できないフィールドなんて、それまであり得なかったのですから、たいへん驚きました。つまり、ぼくを超える力を持つ何者かが、仕組んだに違ないのです。それは、『火星の女王様』以外にはあり得ないだろう。ですが、友人がすでにこの世から消えていたことは事実であり、それ以上探しても、恐らく無駄だとは思ったのですがね。この美しい地球上に、多くの生命体が集まっていることが分かったので、そこでしばらく過ごすことにしたのです。・・・・・と、まあ、一息いれましょう。ああ、いい湯ですねぇ・・・〽ああ、ちょいな、ちょういな、と、お湯の中から、現れましたる青大将~~~それが、ぼ~~~~くだよお~~~あ、ちょいなあ、どっこいしょ~~~〽やれやれ、宇宙警部たあ、因果な仕事だあなあ、ああそれ〽・・・」
「ひどい、うたただなあ・・・・音楽だけは、実際、ヘレナが数等上だな。」
シモンズが弘志を振り返りながら言った。
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