わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第十七章
絵江府太朗之介大臣は、この国の超名門の出である。なんでも、その先祖は古墳時代の初めの大豪族にまで遡る系統だという(確実な証拠はないらしい。)
けれども、実のところ、彼は火星からタルレジャ王国に移住してきた火星人の子孫にあたるという「事実」は知らなかった。
ダレルが初めて地球の王国に立った時に、分厚い本を読んでいた人物が、その人なのだけれども。
彼は今「防衛大臣」であったが、今夜は総理を除くほとんどの閣僚が出そろって、秘密会議となっていた。
秘密と言っても、マスコミは地球帝国誕生以前と同じように各大臣に張り付いていたから、会議が開かれていることは明らかだったし、それはつまり、杖出総理に対する辞任要求の集まりであることは、誰が考えても間違いようがなかった。
大多数の国民は、当然だと思ったし、首相が「不感応者」で「背徳者」なら、すぐに逮捕すべきだと考えていた。
「あんな集まりして、圧力かけてくるとは、嘆かわしい限りだ。」
首相は、ようやく見つけ出した「不感応」の秘書を横にしてつぶやいた。
「しかし、火星人に対抗する決起集会も、実際にもう始まっているようです。」
秘書が、言った。
「うん。でも、ぼくは呼ばれていない。これまた怪しいもんだ。誰が主催してるのか分かったかい?」
「それが、「はっきし」とはしなくて・・・そうそう、帝国が運営する、新しい『教育施設』が、来月には渋谷にできるとのこと。入れられたら、何されるかわからないと、ネットワークが言っています。不感応者の場合、脳の手術もあり得るだろうと。」
「君の、そのネットワークというのは、誰が運営してるの?」
「さあ、帝国創設後すぐに立ち上げられたとのことですが、幹部が誰なのかとか、そのあたりはまったく分かりません。しかし、私は独自の情報網からコンタクトに成功しました。会員にはなっていませんが、「不感応」であることが証明されれば、情報がもらえます。」
「不感応であることを、どう証明するの?」
「わかりません。いつの間にか、『証明された』ということです。」
「あやしいなあ。ミュータントとか言う連中が背後にいるんじゃないか?」
「そうだと、思います。あなたにも、ぜひ協力してほしいと言ってきています。」
「ばかな。」
「それが、言いにくいのですが、このままだと、あなたは、明日の夕方には逮捕され、「教育施設」に送られるだろうと・・・。もし、火星人への忠誠を誓ったとしても、一か月後には逮捕されると、ネットワークは言うのです。未来予知の結果であると・・・」
「ばかばかしい。」
「しかし、首相、間違いなく世界は変わりました。ここは、お逃げになった方がいいと思います。明日の朝までに。」
「君は、どっちの味方なの?」
「あなたの味方ですよ。実は、タルレジャ王国の第一王女様が、あなたの救出に協力すると申し出て来られております。『時間はしかし、もうあまりない』、とも。」
「タルレジャ王国? 正直言って、まだ信用しがたい。火星人の一の子分としか思えない。国王と第一王女は、もしかしたら、そうじゃないかもしれないが。」
「しかし、実際に最も火星人と互角に戦ったのは、事実あの王国です。どうやら、王室内で分裂があるようです。首相、ここも周囲はすでに、やんわりと警察に取り囲まれております。お出になることは、まだ出来るでしょうけれど、またここに入れるかどうかは、微妙です。ご決断を。」
「逃げろと言うのか?」
「はっきり言って、そうです。最後の機会だと思います。おそらく閣僚の代表が、今夜あなたに辞任の要求を突き付けるでしょう。それまでに動かないと、軟禁される可能性が高い。」
首相自身も、自分の身が危ないという事は、十分に分かってはいた。
「君の正体もよくわからなくなったよ。ふうん・・・分かった、出てみよう。ただし、どこに行くの?」
「第一王女様が、場所を指定してきておりますが、ぼくがご案内いたします。信じてください。ぼくはタルレジャ教徒なんです。」
「タルタル教か・・・・」
「違います。」
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「巫女様、お客様でございます。ご予定の方です。」
受付の女性が、アンジを連れてきた。
「どうぞ。」
弘子は立ち上がって、祭壇から降りた。
「ようこそ、アンジ。さあ、座ってください。」
アンジは椅子に腰かけた。
信者の方が、ジュースを持ってきてくれた。
ここでしか飲めない、ババヌッキジュースと言う、抜群に美味しい飲み物だった。
「どうぞ。ねえ、アンジ、なんであんなことするの?わたくしはいい。そうは気にならないもの。でも、周囲の人たちは違う。脅迫よ。」
アンジは、ジュースを飲みながら答えた。
「脅迫じゃやない。警告よ。」
「やはり、あなたがやったのね?」
「まあ、おおまかね。」
「そう。まさか、わたくしのお友達に、副作用が出るとは思わなかった。」
「あたしだって、何が起こったのか分からなかった。でも、ネットワークがすぐに介入してくれた。真実を教えてくれた。あんたたちの正体も。ずっとあたしを、いえ、あたしたちみんなを、宗教の名前で、だましてきていた。許せない。」
「だましたんじゃない、とは言えないわね。でも、地球人に平和を達成させるためには、もう時間が無くなってきていた。ここで何とかしなくては、人類の滅亡は近いの。」
「いえ。それは、たぶん違う。人間はそこまでばかじゃないよ。」
「ネットワークって、誰がやってるの?」
「知らない。」
「そう・・・あなたから連絡できるのね。」
「知らない。」
「ふうん。わたくしのこと、どう聞いてるかわからないけど、魔女くらいに聞いてるのかしら?」
「悪魔だって。あなたが、ボスだって。」
「正しいと思うの?」
「今日、そう思った。あの核爆弾を持ち込んだのは、実はあたしじゃない。ネットワーク全体の力だった。あんたは、ひとりで簡単に、はねのけた。ものすごい魔力だ。人間じゃない。」
「なるほど。でも、あたくしは人間よ。間違いなく。」
「人間の皮を被った、悪魔。」
「アンジ・・・あなた操られてるのよ。」
「地球人を、操ってるのは誰?」
「アンジ・・・無駄みたいね。階段で襲ったのも、あなたの仕業?それとも、その、ネットワーク?卑劣なやり方よ。他人を操って襲わせるなんて。」
「人のこと言えない。でも、あれは、あたしじゃない。ネットワークかどうかはわからない。正直に答えたよ。弘子は、それでもあたしをたくさん助けてくれた。だから、今は攻撃しないように頼んだの。でも、今度会う時は違う。きっと。じゃあ、さようなら。弘子さん、ありがとう。」
「待ってよ、アンジ、あなたどうする積りなの?」
「言わない。でも、力がもっと必要なの。火星人を打ち負かして、地球を元に戻すには。」
アンジは出ていった。
弘子は、力ずくで止めることは簡単だったが、そんなことはしなかった。
「アニーさん、アンジのあとつけなさい。どこに行くか見極めて。」
「了解。あららら・・・・・」
「なによ?」
「消えました、追跡不能。」
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