わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百六十四回
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村沢は、吉田さんについて、とうとう、本宅の中に入った。
真っ暗やみの中で、吉田さんの懐中電灯がふわふわと漂っている。
村沢には、何がどうなってるのやら、わかるはずもないが、吉田さんは、何も明かりがなくとも、おそらく平気なくらいに、ここは知り尽くしているのだろう。
どこかにある、電灯のスイッチを入れたらしい。
ぶわ!っと、あたりが、まばゆいばかりに照りかがやいた。
「おわあ!」
村沢は、思わず声を上げた。
そこは、当然、『玄関』であるはずの場所だが、すでに、あたかも『宮殿』そのものの様な面持がする、きらびやかな場所だった。
天井からは、大きなシャンデリアが、みごとに下がっている。
純和風な雰囲気の外側とは、かなり、いや、まったく、異質な感じがする。
といっても、ヨーロッパ風というのとも、かなり、違っている。
非常に不可思議な彫刻やら、わけのわからない、変わった装飾に満ちている。
一瞬にして、別の宇宙に、ワープしたようなものである。
「これは、また。悪趣味と言うか、素晴らしいと言うか・・・・」
村沢の顔を面白そうに眺めながら、吉田さんは言った。
「どっちですかな?」
「そりゃあ、まあ、立派なものだとは、まあ、思いますがなあ。しかし、この建物、見た目は和風の木造ですが、中身は違うんではないの?」
「ずばり。その通り。さっすがですなあ。まあ、当時はこの世になかった素材です。今も、あんまり、ないかな。王国の王宮とか、大使館とか、日本合衆国政府の危機管理センターとか、首相官邸とか・・・」
「どうやって、建築許可が出たんスか? 元々は、火星人が作ったとか?」
「まあ、そこは、私が関与したものではございませんので。でも、まあ、そこらあたりが正解ですなあ。もちろん、そう、ずばりと言った訳じゃあないでしょうがね。当然、日本政府には、そうした見返りがあったわけです。極秘ですぞ。ここを建てた技術は、タルレジャ王国が太古から持っていた、というわけですな。今もね。こいつは、もし、核爆弾が直撃しても、平気なんだそうで。」
「はあ・・・・そりゃあ、あやしいですなあ。で、なんで、ぼくにここを見せようと?」
「まあ、こちらにどうぞ。」
この本宅の外周は、今は、がっちりと雨戸が閉められており、中で煌々と照明が付いていることは、ほとんどわからない。
いや、もしかしたら、雨戸が開いていても、わからないのかもしれない。
「なんだか、異様に広いですなあ。」
「まあね。外から見るより、内部は遥かに広いわけですな。」
「なんで?」
「まあ、それも、王国の技術というわけで。あえて言えば、魔法瓶みたいなものですかな。」
「さっぱり、判らないですよ。」
「ははは。さあ、ここです。どうぞ。」
吉田さんは、入口の『管理ボード』に、なにかの番号を打ち込んだ。
ほかの、センサー類も、稼働しているようだ。
案内された部屋は、『首都博物館』のメイン展示室を、遥かに超えるくらいの広さがあるように見えた。
いや、そんなものではない。
むこうがわの端が、もう、見えないのだ。
まるで、無限の空間のような感じがする。
ありえない広さだ。
「おわ! こりゃあ、お宝だらけじゃないですかあ。なんですか、ここは。どうして、こんな広いの?」
村沢が絶句した。
「みな、本物ですよ。それぞれにね。たとえば・・・まあ、この国土に初めて住んだ『人』が、最初に作った『かご』とかもありますが、価値は専門家以外には、あまりないでしょうかな。ここは、現実の中の、『異世界』とか、いうべきか・・・。つまり、かならずしも、この部屋には、入れないのです。ふつうは、当たりまえの部屋にすぎません。本日は、特別な『暗号』を弘子お嬢様から頂いておりましたので、こうして入れましたが。でも、もう次回は使えません。また、新しい暗号を、いただかなくてはね。あ、で、あなたがお好きなものを、いっこ、差し上げます。ご自分でえらんでください。」
「あやしい・・・・なんでだ? なにもかも、あやしいじゃないか。」
「まあ、弘子お嬢様が、機会を見て、そうするようにと、おっしゃっておられましたので。」
「ふうん・・・・で、あの子は、ぼくにどうしろと?」
「いやあ。べつにどうしろとは、おっしゃってないんですが。ただ、ぜひ、仲良くしてほしいと、おっしゃっておられまして。」
「言うこと聞け! とか?」
「ははは。まあ、そのように解釈いただいて、よいかと思いますが。」
「ふうん・・・・まあ、いっこだな。じゃあ、選んで、その価値分だけ、言うこと聞いてやろう。」
「おおお。さすが、村沢さんですなあ。じゃあ、じっくりと、御検分ください。わたくしは、あそこの椅子までさがっておりますゆえ。ご質問があれば、どうぞ。あ、この『館内スクーター』を、ご利用いただきますと、早く見て回れます。」
吉田さんは、タイヤもなにも付いていない、不可思議なものを差し出した。
「おう!」
そいつにまたがり、ちょっと床を蹴ると、ふわっと浮き上がって、すすす、と前に進む。
床に足を付けようとすると、ふわわっと着地する。
「こりゃあ、いいなあ。これもほしいなあ。」
「ああ、そいつは、この『空間』でないと、動作しないんですよ。いまのところは。」
「なんだ、その、いまのところ、というのは?」
「弘子お嬢さまの、ご意志次第ですから。」
「やっぱ、あの子は、化け物か?」
「ああ、そう言って差し上げると、すごく、喜ばれますよ。ご存じなかったんですか?」
「え? あ、そういえば、なんだか、以前、あったまきたときに、そんな冗談言ったら、確かに、むちゃくちゃ、喜んだような・・・。おかしな子だとは思ったが。まあ、『王女様』だから、ぼくなりには、気は使ったんだがなあ。」
「ああ、あなた、それで、気に入られたんですな。みなさん、『王女様』ということで、やたら、ちやほやするが、実は、『悪魔』『魔女』『化け物!』と言われるのが、弘子さまは、一番お好きなんですよ。」
「やっぱり、おかしいんだ。あの子は。」
「いやあ、そういう方ですから。」
「正体は、何なんだ?」
「だから、『化け物』ですよ。」
「くそ。わけがわからない。吉田さん、久しぶりに、本人に会わせてくださいよ。」
「いいでしょう。そのうちに。申し上げておきますから。」
「たのむよ、まったく、ここまで見せたんだ。」
「そうですな。」
村沢は、その、膨大な展示物を見て回った。
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