わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百六十一回
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ヘレナは続けた。
「あたくしの見解といたしましては、現在の『地球帝国』の方針を支持いたします。」
「え?」
ダレルが、相当驚いたように大口を開けた。
「そりゃあ、『おどろきもののけさんずのき』だろう。」
「ぶ! あなた、ときどき、地球の言葉を勘違いしていますね。まあ、もともと、しゃれことばらしいですから、悪くはないけども。」
「いやあ、火星語でいえば、『晴れの日のあまがっぱははだかよりましだが扱いにくい。』というのだよ。
」
「それは、地球人は、金星人を、受け入れないという意味でよろしいのか?」
ブリアニデスが確認した。
「あら、『地球帝国政府』は、まだ、なにも発表はしてはおりませんもの。あたくしは、なんであれ、その『発表』を支持すると申し上げたまでです。まあ、友好関係を築くのはよいことですが、『地球』でのあなたがたの『権益』を認めるなんて、『地球政府』が、認めるはずがないですわね。」
「つまり、『皇帝』に従うと?」
ダレルが確認した。
「まあ、そうですわね。」
「それは、・・・まあ、意図はともかく、よい方針ですな。」
「まあ、ダレルちゃんが褒めてくださるなんて、何億年ぶりかしら。」
「ふむ。意味の深いお言葉ですな。いまのは・・・。・・・まあ、非常に残念ですがな。ああたは、『地球帝国総督』の双子の姉であるということですが、特に決まった地位にはなく、また総督の『承認』を受けているとはいうけれども、われわれにはその証拠も示されてはいない。それどころか、『皇帝』により監禁されていると聞いた。ああたは、犯罪者ではないのかね? しかも、地球人は、『火星』の権益を、大幅に認めているではないのかね。おそらく、『地球人』の多くが、かつての火星人と同様に『精神的な支配』を受けているのだろう。そうしたことが可能なのは、『火星の女王』か、その力を与えられれた『奴隷』か、どちらかですな。かつての、『魔女ビュリア』のようなね。すると、ああたは、もしかしたら、本当は、我々の敵ではないのではないのかな? ダレルさんがいるから、やむ負えずそう言っているとも思える。そこで、もうひとり、地球からの参加者に、ご登場頂きましょうか。」
ブリアニデスが、手を振った。
現れたのは、ほかならぬ、杖出首相であった。
『くそ、捕まらないと思ったら、こんなところに、出てきたのか。』
ダレルが内心で呪った。
「首相閣下。『ああた』は、どのように思われるのか? まず、『地球人』は、『火星人』による、強制的な『精神支配』を受けているのですか?」
「しかり。実際のところ、その不可思議な技術で『地球人』の多くの精神を支配しているのは、『皇帝』と『総督』である。と、考えますな。しかし、ぼくのような『不感応者』は、その影響を受けない。その変わりに、地球各地に物理的な洗脳施設が作られ、毎日多くの人々が、『皇帝』と『帝国』と、その背後にいる『勢力』の支持者に変わって行きます。強制的にね。まあ、ぼく自身が、その手先をしているわけですけどもね。」
「ほう。あなたは、地球でのご自身の出世をもくろんでいるのですかな?」
「いや。そうではない。『自称火星人』の支配を、終わらせたいだけです。」
「そのためには、力が、必要だ、と?」
「まあ、そうですな。」
「もし、我々が、ああたがたに『協力』をして、『火星人』を、排除すると申し出たら?」
「あなたは、さきほど、自称『火星人』の半分でいいから『地球』の権益を渡せと言った。なら、あなたがたも、同じ存在にすぎないですな。」
「ほう。地球人が、火星と金星、両方と闘って、勝てるとでも?」
「自信はないが。今の段階では、それもありですな。もっとも、地球政府には、その能力も意思もないですが。」
「面白いお人だ、じゃあ、あなたひとりでも、戦うと?」
「『ひとり』、ではない事だけは、間違いがない。」
「ほう! 誰がいると? ああた・・いや、あなた、は、いま、この『王女様』が、『地球帝国』を、支持すると公言なさったのを聞いた訳だが、やはり、それは、『本心』ではないと見ますか?」
「仲間を売るようなことは、しませんよ。」
「ほう、ごりっぱだ。いいですかな、首相閣下。『火星人』は、かつて『女王』と『宇宙怪物ブリューリ』に操られたとはいえ、多くの人々を無残に殺戮した。しかも、なんとお互いに共食いし合ったのですぞ。ダレルさんは、よくご存じでしょう。合法的ではありましたから、いまさら罪は問えないが。『金星人』は、ビューナス様の下で、そうした残虐な制度は一切受け入れず、ひたすら平和を希求してきていたのです。もし、このままであれば、『地球人』も、共食い制度の餌食になりかねないと我々は推測します。・・・(ヘレナが、きっと顔を上げた。)・・・『ブリューリ』がすでに『地球』に出現したことから見て、その危険性は非常に高いと言えます。しかも、待ったなしですぞ。しかし、もし、三者による基本的な和平の方針が成り立てば、ブリューリも敵ではない。しかも、すぐさま、かつてない、繁栄がもたらされるでありましょう。地球上の科学技術は、遥かに高いレヴェルに跳躍できる。たとえば・・・・『空間跳躍』の技術を、お持ちかな?『火星人』は、その『技術』を、我々から奪って、かつて一時的に持ったことはあるかもしれないが、火星文明は、はるかむかしに『崩壊し』、すでに、その多くの『技術』は、ダレルさんが言っているほどには、もう、維持はしていないと、我々は見たがね? いかが? ダレルさん? たとえば・・・あの『アブラシオ』は、『女王様』の所有物だった。きっと、いまも、そうだろう。『火星人』のものではないんじゃないかな? 違いますか?」
ダレルは、そこには答えなかったが、変わりに、こう、言った。
「我々としては、『金星人』が、『金星』に、住める方向にて、話し合いをしてもよいとは、思う。ただし、『ド・カイヤ集団』との交渉成立が必要だ。その、同意を得られれば、我々も、あえて邪魔はしない。しかし、もし、すぐには、それが出来ない場合は、たとえば、太陽系外縁部の『氷惑星』や、その衛星に仮に住まう方向がある。それに、あなたがたがかつて開拓していた『第十惑星』は、いまも、まだほとんど手つかずのままだ。もっとも、あそこは、具合が悪いのかな?」
「冗談じゃあないわ。金星の権益は渡せない。・・・まあ、それなりの『賃料』を払うなら、部分的に貸し出すやり方は、考えても良いとは思うがね。」
ポプリスが、やや、・・・いや、かなり、『高慢』に言った。
「自分たちの『惑星』に住むのに、なぜ、『賃料』を払う? ありえない。」
「だから、時代が変わったんだよ。あんたがたは、2億5千万年以上、いなかったんだよ。その『所有権』をいまになって、主張できるわけがない。むしろ、『地球人』の方が、まだ主張できるかも、しれないくらいだね。もっとも、地球人には、そうした『技術』が、ないがねぇ。」
「受け入れられない。」
ブリアニデスは、当然、一蹴したのである。
『第1王女ヘレナ』は、大方においては、さも面白そうに、こうしたやり取りを眺めていのだ。
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