わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百六十回
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正晴と、シモンズ、さらに弘志は、警部2051の本体内にかくまわれていた。
プライバシーを重視する警部は、それぞれに、なかなか結構な個室を提供してくれていた。
しかし、特に、ヘレナと正晴が脱出したという情報は、当然、すぐ拘束していた側には伝わるわけだろうから、再び狙われる可能性も高い。
警部は、そう睨んでいた。
実際、ヘレナひとりだけならば、やろうと思えば、相当無茶な方法も講じられるだろうけれど、正晴たちは、そうは行かないはずである。
確かに、ヘレナが、慎重に行動し、不必要な無理をしないのは、第一に、正晴や弘志がいるからである。
人質としては、だから、みな、なかなか効果がある人物なのだ。
シモンズの場合は、少年とはいえ、スパイである。
危険があることは承知で動いている。
それでも、万が一の場合、その本国が、どう出るか、判らない部分が多い。
もしも、2回目の誘拐とかになると、さすがに、特に王国や日本合衆国の国民が、黙っていられなくなるかもしれない。
皇帝ヘネシーによる『独裁』とはいっても、『恐怖による独裁』は、本来彼女が望むものではない。
そこまでの、半分ロボット化するような、完全な意識統制は、現況では行ってはいない。
しかし、ダレルが介入してきていることから、本来のヘネシーの性格や意図が、かなりねじ曲がってきていることは間違いがない。
実際に人類の意識をコントロールする能力を持つルイーザが、うまく細かい調整に入っていることも事実である。
ヘレナは、ルイーザを通じて、間接的な地球支配が可能な体制になっていることも、間違いはないが、直接介入しようとしたことは、『恐竜事件』や、『ブリューリ』が現れた時などを別とすれば、まだない。
こうした状況を、『宇宙警部』は、すぐにきちんと見抜いていたし、注視はしていた。
彼が放った極小の部下たちは、地球のみならず、太陽系中から、細かい情報を収集してきていたのである。
『警部』は、現在のこの状況を、実のところ、相当危険視していたのである。
そうして、誰が、いったい、警部の立場を支持する勢力なのか、よく見極めようとしていた。
もう少し、早くここに帰ればよかったと、反省してもいた。
それに、誰が、本当のビュリアなのか、も。
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「弘志お兄様、聞こえますか?」
一人部屋で、地球のテレビを見ている弘志に、その意識の中にだけ、その姿が、浮かび上がった。
「ゆきちゃん! ああ、よかった。見てくれてたのか。」
弘志は、なぜか少し安堵したのだ。
本来は、いつも自分が雪子を守っていると考えて来ていたのに、このところは、自分が頼ってしまっていることに、実は少し恥ずかしいと思ってはいた。
「大丈夫ですよ、お兄様。雪子は、いつもいっしょです。ただ、そこは、必ずしも安全だとは言い切れません。」
「え? 『宇宙警部』さんの、この不思議な宇宙船に、なにか危険があるのかい? 警部さんは、もし攻撃があっても、絶対に大丈夫だと言ってくれたけど。」
「はい。ほとんど、そのような、つまり、危険なことは起こりえないほど、そこは安全なのですが・・・・」
「よくわからないなあ。ゆきちゃん、矛盾していることを言ってるなあ。」
「唯一、そこに侵入できる存在があるのです。ただ、これまで、けっしてそのような動きはしなかったのですが、どうも、お兄様を奪いに行くかどうか、迷っているようなのです。」
「だれなんだい。その、唯一の存在とか言う、マニアックな奴は?」
「まだ、言いたくありません。」
「はあ・・・・そう言われても、そりゃあ、困るな。」
「はい。でも、もし、その存在が動いたら、雪子が介入していいですか?」
「うううん・・・・ぼくは、ゆきちゃんをいつも信じてきたんだ。ぼくたちは、ほとんど同時に生まれた。わかった、任せるよ。でも、あとで、説明はしてほしいな。」
「わかりました。警部さんのメンツもありますから。警部さんは、本当に良い方なのです。真っすぐで、裏表のない、複雑なマツムラのお家の人からすれば、神さまの様な方なのですよ。」
「ふうん。ゆきちゃんは、なんで、警部さんをそんなによく、知ってるの?」
「まあ、それも、遠からず、お話しできると思います。このまま、動きがなければ、警部さんがうまく運んでくださるでしょう。」
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「ううん。この展開は、いささか予想外だった。本当は、すぐに帰るつもりだったんだけどな。まあ、あの『宇宙警部』とか言うあやしい『宇宙人』さんらしき存在に、興味を惹かれたもんだから、つい、ヘレナの言うことも聞いたけどな。金星上で、なにやってるんだか。そうだ・・・この魔法の小箱さんに頼めば、金星にも行けるんじゃないかなあ。やってみるかな? でも・・・まず、アニーさんに聞いてみようかな、アニーさんがちゃんと、監視してるかどうかだなあ。最近、アニーさん、すこし、さぼってるしなあ・・・。」
『はいはい、アニーさんですよ。いやあ、さぼってなんか、いませんよ。この空間に帰った時から、きちんと監視してますよ。はい。甘く見ないでください。シモンズさん。その箱は、使わないでほしいです。』
「おやおや、出て来たか。なんで? 使うなと?」
『しまった、ヘレナさんから止められてたんでした。』
「ほう・・・なにを。」
『まあ、仕方ないか。アニーは独立した存在ですからね。自分で、判断可能だ。まず、そこから、出すなと。あまり、相手するな、それだけ。』
「くそ。ヘレナは意地悪だな。」
『危険があるからですよ。いまは、そこが一番安全です。』
「おかしな情報も、出したくないとな。」
『あなたがたの為です。いいですか、そこで『箱』を使うには、危険性が高すぎる。安全性が確認できません。ただし、もちろん、ヘレナには言ってないですよ。その『箱』のことはね。約束したからですね。逆に使うと、ヘレナにばれますよ。あそこに行けたのも、『箱』のおかげじゃなくて、ジャヌアンさんの装置のおかげと伝えています。まあ、アニーの内部を徹底捜査されたら、ばれますが、ヘレナはそれは、まずやらないですから。めんどくさいからね。』
「でも、情報、貰えないと、ぼくの役目は、果たせないんだよ。アニーさん、弘志くんと約束した事を守るためにもね。金星上でなにやってるの? せめて、様子、見せてくれないかなあ。」
『許可がありません。』
「ふうん。ヘレナは、アニーさんに、ぼくを、ここから動かすなと、言ったんだろう? 余計な口きくなと。」
『はい、そうです。』
「じゃあ、動かないから、余計な事は聞かないから、ただ、見せてくれたっていいじゃないか。テレビ見るだけだよ。アニーさんには、無理なのかなあ・・・・」
『いいえ、簡単です。』
「じゃあ、いいじゃないか。」
『秘密会議ですからねぇ。』
「見せたら、へレナにすぐ、ばれるかい?」
『ううん。いえ。そうでもないです。』
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「われわれの要求は、簡単ですよ。」
ブリアニデスが自分たちの要求を述べていたのである。
「まず、金星に帰ることを、認めてください。ここは、我々の故郷です。それから、地球における、権益を認めてほしい。火星と同等とは言わない。火星の持つ権益の半分でよい。それだけです。」
彼は、席に着いた。
「むゃくちゃですな。」
ダレルが、一言で、粉砕した。
「まったくだよ。ぬすっとたけだけしい。」
ポプリスが、ダレルに同意した。
そのようなことは、かつて誰も見たことがない。
「ならば、闘うのみ、ですなあ。我々は、この宇宙を追い払われるとき、地球の確保をしようとしていた。その続きをやらせてもらおう。」
「あまり、甘く見ないでほしいなあ。あなたがたこそ、今度こそ、絶滅するだろうさ。アブラシオさん相手に、戦うつもり? アブラシオさんは、現在、地球の保護を行っているんだから。」
ダレルが脅迫した。
「ちょっと、いいですか?」
宇宙警部が割って入った。
「みなさん、『教訓』というものを、学んでないですな? そうじゃなくて、平和裏に解決すべきですぞ。譲り合う事も、考えてください。」
「あなたが、口をだす権限はない。」
ブリアニデスが厳しく反論した。
「いいや、あります。我々『宇宙警察』は、『ダカバニア条約』によって、全宇宙の治安と平和の維持を行う権限を得ております。それは、この宇宙がある限り有効であると認められた。条約の未加盟勢力に対しても、その行使を要求できます。ヘレナさんは、ご存じではないですかあ?」
「ばかばかしい。そんな条約なんて聞いたこともない。」
ダレルが言い捨てた。
しかし、このように付け加えた。
「まあ、『宇宙警部』さんが、想像を超えた能力を持っていることは知ってますよ。ぼくたちはね。太陽を一瞬に吹っ飛ばすくらい簡単なこともね。」
「確かに。」
ヘレナが、ついに、口を開いたのである。
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