わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第十六章
ミアとくっこは、応接室で事情を聴かれていた。
聞いていたのは、田中警部の子分の宮田刑事、の子分の竹下刑事と吉中刑事であった。
「じゃあ、アンジの超能力が始まったのは、皇帝陛下の帝国創設宣言直後なのね。」
「そうなの。本当に直後です。急に体がふわっと浮き上がったの。びっくりした。それから、おかしなことを言い始めた。」
「どんなこと?」
「地球は終わった、とか、人類は全員食べられてしまう、とか。王女を倒せ、とか。」
「で、さっき言ったみたいな超常現象が相次いだということか。」
「はい。アンジは、もともとちょっと変わり者だったけど、何だか人が変わったみたいになったの。神がかりしたみたいに。」
「ふうん。」
吉中刑事が、次いで尋ねた。
「弘子さん、つまり、タルレジャ王国の第一王女様だけどさ、今日暴漢に襲われた時、どうだった?」
ミアとくっこが、顔を見合わせながら言った。
「そりゃもう、怖くてあたしは震えてたけど、あんなに強いなんて。それは、もともと勉強もスポーツも、万能だったけど、すごかった。ビデオを早回ししてるみたいだった。」
「あたしは、少し離れてたけど。まるで、”ブルース・ビーン”の拳闘映画か、”キュア・ボンド”の、”魔!トリックス”みたいだった。すごかった。」
「ふうん。君たち、いま平気かい?」
「ううん、今日はもう休みたい。目が回る感じなの。」
「そうだろうね、いや、疲れているのに、申し訳ありませんでした。一応病院に行こうね。そのあと、また聞くことがあるかもしれない。」
「はい、わかりました。」
二人は、保護者と供に、マツムラ総合病院に連れて行かれた。
第一王女は、総督閣下のおかげで、同じ病院で検査だけ受けた後、大使館にも送られることなく、自宅に戻されることになった。
そこで、ミアとの約束は、病院で実行されることとなった。
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杖出首相は、第一王女から思わぬ応援が入ったことで、(あまり意味もなく)強気になっていた。
実際のところは、”四面楚歌” ”風前の灯火” ”笛吹けども踊らず” 状態だったけれども。
野党からは、辞任要求が一斉に叫ばれていたし、与党内からも孤立していた。
いまは、国会が開かれていない時期であった。
しかし、与野党から、いっしょに迫られてはどうにもならない。
解散総選挙したって、自分はもう勝てない。
打つ手なんかなさそうなのだった。
ところが、どうしたわけか、その日の夜、何かが起こっていた。
何とかと言う団体が開く『総決起集会』が突然行われるという。
『火星人撃滅総決起集会』
が開催されるというのだ。
同じころ、そこに時間を合わせて、タルレジャ王国でも『国王応援大決起大会』が開催されようとしていた。
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「まったく、お姉様は、いったい何をなさろうとしておるのじゃ。」
皇帝陛下は、『怒り心頭に達す』状態だった。
彼女は、まずルイーザに連絡をしようとしたが、『腕輪』が外されたという情報が入ったので、それはやめにした。
そこで、秘密回線でダレルに連絡を取った。
『陛下、ご機嫌麗しゅう・・・』
ダレルはひざまずいて言った。
「そんな訳がなかろう。いったい、どうなっておるのじゃ。ダレル殿。わしは、状況が良く掴めずにおるのじゃ。」
『いや、ご心配をお掛け致しております。少し手違いがありました。』
「手違い?』
『はい。すでにご承知ではありましょうが、第一・第二王女様の腕輪が外されましてございます。少し、甘く見ていたようですな。しかし、よろしいですかな、あなた様にとって必要な事は何か?』
「なんじゃ・・・その意味は・・・」
『全てにおいて、あなたに敵対するものは排除するのです。』
ダレルの洗脳装置が働いていた。
「わしに敵対するものは、排除するのじゃ。」
「そうです。手加減は、なしです。」
「手加減は、なしじゃ。」
『さようです。予定通り、地球帝国創設の儀式は、行います。』
「地球帝国創設の儀式は行うのじゃ。」
『そうです。総督閣下は勿論参加していただきます。』
「総督閣下には参加してもらう。」
『はい。第一王女様にも、来賓としておいでいただきます。』
「第一王女にも、来賓としておいでいただく。」
『そうです。あなたは、そこで、死ぬのです。』
「わしは、そこで死ぬのじゃ。」
『そうです。それこそ、皇帝陛下の最大の務めなのです。』
「わしの、最大の勤めじゃ。』
『はい、この銃で、自らを撃つのです。タイミングは、ダレルがお伝え致しますゆえ、合図があったら、ご自分を撃ちなさい。』
「そなたの合図があったら、わしは、自分を撃つのじゃ。」
「それが正しいのです。」
『それが、正しいのじゃ。』
『はい、しかし、その時まで、あなたと、ダレルだけの絶対の秘密ですよ。』
「そのときまで、わしとそなただけの絶対の秘密じゃ。」
『よろしい、では、またお目にかかりましょう。』
「皇帝陛下!」
邪魔が入った。
第三王女は、我に返った。
「なんじゃ?」
「タルレジャタワーへの移転準備が完了いたしました。あとは、陛下にお入りいただくのみでございます。」
「わかった、わしは、あす、午前中に引っ越しするであろう。」
「は、かしこまりました。」
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弘子は、二人の病室に訪問していた。
「いやあ、実はすっきりしたわあ。」
ミアが言った。
「男どもを、ぼこぼこにした、弘子がすごい。」
「こらこら。」
くっこが、たしなめた。
「あの人たち、自分じゃなくなってたみたい。可哀そうよ。・・・ちょっとね。」
弘子が答えた。
「まあ、そうみたいね。誰かに操られたんだと思うの。すこし、やり過ぎたかもね。でも、わたくしも勢いがついちゃったのよ。ピストルがあったからね、ゆっくりできなかったの。」
「当然よ。やっぱ、弘子は強い。でも、操られたって、いったい誰に?超能力者、やはり。」
「ううん、そこは警察が調べるでしょう。」
「まさか、アンジ?」
ミアが言った。ミアは、アンジをかなり心配している。
小さいころから、ミアはアンジの事が気にかかっていた。
「さあて、どうかなあ。アンジがもし、わたくしだけを殺す気だったら、核爆弾を吊るせるくらいなんだから、手は他にもあったはず。自分も巻き添えで、みんなを殺す気なら、見せびらかすだけじゃなくて、さっさと実際にやるでしょう。なんだかおかしい。ちょっと筋が通りにくいわね。だから、核爆弾の件と、お昼の襲撃事件は、黒幕が違うんじゃないかなあ。」
「ふうん・・・。弘子でも、明日からどうするの?」
「さあて、大使館は、わたくしが学校に行くのは、禁止したいみたい。王国に連れ戻したいんでしょう。どうせ、行く予定にはなっている。演奏会があるからね。」
「この前の演奏会、あたし聞きに行ってたのよ。」
ミアが言った。
「まあ、そうなんだ、ありがとう。」
「でも、最後に叫んだ人がいたでしょう。『危ないから早く帰って!』って。」
「そうね。」
「実際、危ないよ。」
「心配してくれてありがとう。でもね、わたくし、強行するつもりなの。」
「はああ・・・・・意地?」
「まあね。一言で言えば、そういうことね。負けたくない。」
「誰に?」
「ううん。誰にも、かな。」
「やっぱ、弘子様は意地っ張りなんだ。」
「まあ、王女なんて、そのくらい意地っ張りでないと務まらないわ。でも、外の皆様方に、ご迷惑がかかるのは避けなくちゃね。だから、警備は厳重にするわ。仕方がない。」
「相手は、ミュータントなのね。地球人の敵、火星人の敵だわ。」
くっこが言った。
「断定はできないわよ。まだね。まあ、でも、おふたりとも元気そうでよかった。ご迷惑をおかけしたことは、深くお詫びいたします。お家の方にも、さきほど謝罪いたしました。」
「気にしてないって。友達だもん。弘子のせいじゃないし。だって、第一の被害者は弘子なんだから。」
「ありがとう。」
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第一の巫女は、教会にやって来て、祭壇の前で黙想していた。
もうすぐ、午後8時だ。
アンジは来るだろうか?
弘子は、故意に捜索したり、アニーに探させたりはしなかった。
まあ、それでも、アニーは独自に捜索はしたのだろうけれど。
もしも、来なかったら、実際に保護しなければ、ならないかもしれないけれど・・・。
教会の前の、暗くなった通りに、ふいに人影が現れた。
その人は、教会の前ですこし佇んだ後に、中に入って行った。
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