わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百五十七回
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ダレルの宇宙船は、もう、金星近傍までやってきていた。
杖出首相は、指令室に案内され、宇宙空間での移動をつぶさに見学していた。
それでも、彼は、これが『現実』であると、信じ切れていない。
いや、意地でも信じたくない。
ダレルは、このタイミングで乗員全員に、火星人形態に戻る様に指示した。
首相は、巨大な鬼たちに囲まれる状態となった。
大概の地球人なら、それだけで、もう卒倒するかもしれない。
けれども、そこは首相である。
脅しが効く相手ではないことくらいは、ダレルもよく分かっていた。
「首相閣下。あなたが少々のこけ脅かしのようなもので、びっくりすることなどがないのは、良く分かっています。しかし、それだけに、事実を正確に受け止める必要性があります。まずは、我々の存在を認識する。そこが、始まりですよ。あなたが見ていることは、すべて事実だ。あなたは、『女王』が、手を加えて創作した、ひ弱な地球人に過ぎない。なぜ、金星人や火星人のような優れた存在から、あなた方が生み出されたのか、ぼくには、いまだに、理解ができないのですよ。」
「ふん・・・見てることが、すべて真実であるという保証はないからね。」
「しぶとい人だ。」
「ダレルさん、出ましたよ。アブラシオです。」
「出たか、怪物め。全面スクリーン。」
「了解。」
「首相閣下、この部屋の全体が、必要な計器以外、すべてが、透明になります、すなわち、宇宙空間に直に立っているのと、同じ状態になります。足元にご注意を。」
「ふん。プラネタリウムかな。」
ダレルは、返答しなっかた。
この、堅物の男に、下手な説得なんか、無駄だろう。
床も含めて、周囲、天井、すべてが宇宙空間になった。
さすがの杖出首相も、反射的に手すりを探した。
なぜだか、それは、そこにあった!
そうして、誰であろうとも、その姿には圧倒されたに違いない。
もちろん、首相は、こいつを見たことがある。
いや、多くの地球人は、テレビ画面で釘付けになりながら見た。
しかし、ここで、こうして見るその姿は、言葉では表現不可能な、ものすごいものだった。
アブラシオだ。
最初は、首相の身体から見て、下方から、ずわんと上がってきた。
圧倒的な迫力だ。
そいつは、やがて右側の壁から、天井全てを支配する位置に来た。
「こいつは、全長、地球の尺度で8キロメートル以上あります。まだ相当距離があるけれど、こういう状況ですよ。こいつだけは、地球人でも火星人でも、化け物にしか見えない。」
「あなた方から見て、こいつは、友軍なのか?」
「理論上は、そのはずなんですがねぇ。しかし、こいつは、『女王の』命令しか聞かない。おそらくね。女王の行動は、ぼくにとっても、しばしば不可解だ。まして、ぼくの指令になんか従わない。やなやつだ。」
「なんだ、そりゃ。」
「そこが、あなたと話し合う余地がある証拠ですよ。」
「話し合う? なにを?」
「協調です。協力と言ってもいい。」
「ばかな。侵略者と協調なんかしたら、そいつは、むかしのフランスの、とあるうらぎりものと同じになる。ごめんだね。」
「ふうふん。首相閣下、ぼくは、あなたを、短時間でロボット化したり、もう少し緩やかに隷属化させる確実な技術はいくつか持っている。しかし、そのようなことは、あなたにはしたくないし、そうする気はない。あなたは、惜しい人だ。地球の指導者でも、そのように改造しているのは、ごく少数の者だけです。それが誰かは、まだ言わないがね。まあ、もう少し、ここを見て行きましょうよ。ぼくも気になるんだ。ほら、金星の方は、雲が厚いから、ご承知のように内部がよく見えない。もちょっと、接近しましょう。怪物は、恐らく何もしては来ないでしょうから。あいつも、偵察に来たんでしょう。」
「まてまて、頭を改造した地球の指導者がいるということ?」
「まあ、そうです。当然と言えば、当然だ。」
「誰なんだか、言ってほしい。」
「ですから、まだ、ダメです。」
「ほう・・・脅迫しておいて、途中出しかい。卑怯な。」
「ふん。あなたは、お立場を考えなさい。」
「ほう・・・甘く見ないでほしい。」
「ははは。あなたに、いったい、何が出来るのかなあ?」
部下が小さく叫んだ。
「ダレルさん、あれは、何ですか?」
「うん? なに?」
「あの、真っ青な球体です。ものすごくでかい。水星くらいのサイズがあります。アブラシオも、真っ青です。」
「はあ、しゃれてるのかい? ちょっとまて・・・・・・・むむむ、やなやつが出た。なんで、あいつがここにいる? 時間を超えて来たのか?」
「なんだあれは、『天王星』みたいな。でも、筋もないな。」
首相も応じた。
「あれは、『宇宙警察』の、パトカーですよ。温泉が大好きな、おかしな『警部』とかいう宇宙人が乗っていた。おそろしく巨大にも、あなたがたのサッカーボール位にもなれる。2億5千万年前に地球に来たことがある。アブラシオを超越するような、化け物です。得体の知れない能力があるらしいが、全部は見てない。火星人の文明などは、どうやら子供の遊びくらいらしかった。」
「ほう・・・・来たのか・・・・」
「なに? あなたが、呼んだとでも。」
「そうだよ。」
「ばかな。」
「ダレルさん、アブラシオとあの球体が通信していますが、内容は解読不能です。どうしますか。」
「金星の周回軌道に向かって超高速移動。」
「はい?」
「繰り返すよ。金星周回軌道に向かって、超高速移動したまえ。いいかな?」
「了解。金星の周回軌道に向かいます。超高速移動。すぐに到着します。所要時間、5秒。」
「首相さん、おもしろくなってきたね。こうでなければ。」
「そうかな?」
「そうですよ。あなたが、あいつと、どうつながってるのか知らないが、面白い。」
そこで、ダレルが隠し持つ、あの『機械』が、警報信号をダレルの視覚に送ってきた。
『あらららら。脱出したのか? 誰が手引きした? ふふん。なるほど、あの警部かな。ちょっと、嫌な感じだな。』
「金星軌道到着です。」
すぐ目前に、雲に覆われた金星が見えている。
ダレルが命じた。
「大気圏侵入。戦闘準備。防御システム全起動。」
「了解。大気圏に侵入します。『ド・カイヤ集団』の攻撃型宇宙艇3機接近。警告がありました。これ以上大気圏内を降下すれば、攻撃すると。」
「ほっとけ。降下継続。『空中都市』は?」
「このあたりには、いないですね。1000キロ先に集結してます。『ド・カイヤ集団』と、抗戦中とみられます。」
「そこに行こう。」
「巻き添えになりますよ。」
「止めようじゃないかい。」
「はあ? 連中、このごろ、随分と、おかしいですよ。いんですか? それに、『空中都市』の、今の実力が、まったく未知数です。」
「はい。いいよ。だから、行こう。コケツニイラズンバ・・・なんとかだ。」
「なんですか、そりゃあ。まあ、了解。攻撃してきます。・・・・・着弾。・・・被害なし。問題にならないです。」
「そうさ、遊んでやりながら、振り切れ。」
「了解。逃げます。攻撃、はずれ!」
杖出首相は、戦闘機の訓練など受けたことがない。
体に異常な重力は、まったく感じないが、視覚がおかしくなりそうだ。
「首相閣下、気分がおよろしくなければ、目をつぶって結構。」
「くそ。ばかにするな。」
「はっははははははは!」
ダレルが、大笑いした。
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