わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百五十六回
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『地球帝国皇帝ヘネシー』は、『総督ルイーザ』に、命じたのだった。
「そなたの忠誠心を疑ってはおらぬ。ヘレナ様も、そなたも、わしに忠誠を誓ったのじゃから。違うかな?」
「いいえ、違いませぬ。」
「うむ。よかろう。では、『教母様』の確保が確認されたら、『南島』首相に、『北島側』に防衛隊を『進行』させるように命ぜよ。もちろん、意識の操作でよい。そなたが責任を負う必要はない。」
「攻撃せよと?」
「いいや、そうは言うておらぬ。ただ、『進行』すればよい。『北島側』が、手を出さねば、衝突は起こるまい。そなたは、侍従長殿に、動かぬように、釘を刺せば、それでよいのじゃ。そうして、『王宮』と『教会』を、包囲するのじゃ。さらに、双方がいわゆる『無血開城』するようにせよ。それでよい。あとは、大人たちに任せれればよいのじゃ。」
「いくらなんでも『国王陛下』の、御裁可が必要です。すくなくとも、『第1王女様』の御承認がなくては。私が独断で実行したら、王国自体が自然に内戦状態になります。『皇帝陛下』は、そこらあたりの仕組みがお判りではないのです。まだ、それは伝えられていないはずですから。これは、『王国』の慣例に反しますが、この際申し上げます。陛下。『北島』には、ほとんど誰にも知られていない、一種の隠された『軍』が存在します。それは、実は『南島側』内にも、同じ組織が構築されていますが、固く秘密が守られております。『王室』あるいは『教会』に、存亡の危機が迫ったような場合、その組織が『活性化』されます。その司令官は『第1王女様』ですが、ご不在の場合は、『教母様』あるいは、『侍従長様』が代役を務めます。わしには、なんの権限もございませぬ。特にご指示が出なければ。」
「ははん? 怪しげな話じゃ。そなたは、なぜ、入っとらんのか? ん?」
「はい。わしは、いわば独自の存在ではないのです。本来、わしは、『第1王女様』の影として作られたのです。しかし、『国王様』、とくに『王母様』のご希望が強く働き、『第1王女様』も、わしを正式の妹として、その存在を認めるに至ったのです。」
「まてまて。そなた・・・いや、姉上は、あり得ぬ話をして居られる。いくらなんでも、ちんぷんかんぷん過ぎであろうが。」
「まあ、そうなのですが。しかし、『第1王女様』も、わしも、『ヘレナ様』によって、意図的に、作られたものなのです。あなたは違います。あなたと弘志様は、自由に生まれたのですから。」
「なにを、血迷った話をするのか。」
「おかしくは、ないのです。『ヘレナ様』は、永遠の存在なのじゃ。誰も、その正体は知りませぬがな。」
「ええい、総督。わしの命を聞くと申したであろう。そのように行動せよ。」
「はい。もちろん。仰せのままに、いたしましょう、いたしますが・・・・・内戦には、必ずなるのです。もちろん、『帝国側』は、簡単には、負けないでしょう。それは、『リリカ様』が、おられるからです。『リリカ様』のお力は、『ヘレナ様』から与えられたものじゃ。じゃから、同じ力同士が、ぶつかりあうことになるのですじゃ。簡単には、決着はつきますまい。勝敗を分けるのは、ほんの少しの間違いじゃ。『陛下』、わしは、命ぜられれば、そのように行います。よろしいですか? 『北島』も、『南島』も、大勢が、命を失うやも知れませぬぞ。」
「おどしであろうが。そなたが、そのような事態に、王国を陥らせるはずがない。」
「陛下。これは、『女王様』によって、そのように、決められていた事柄ですゆえ。『女王様』のみが、変更を行えるのです。」
「では、誰が、女王なのじゃ?」
「ヘレナ様そのかたじゃと、わしは、認識しておりまする。じゃからして、ヘレナ様を、解放して下さいませ。」
「ううっむ・・・・。」
「ダレル様のご同意が、必要ならば、ぜひ、お確かめくださいますように、お願い申し上げます。」
「ううん・・・・・・」
皇帝は、回答に窮した。
ルイーザは、しかし、すぐに命令を実行に移したのである。
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「きゃ~~! きゃ~~~! きゅあ~~~~!! 出てけ~~! 来るなあ~~~~! 見るなあ~~~~!!」
小さな明かりが消えた。
それから、枕やら、電話機やら、ペンやら、本やら、様々なものが、宙を飛んできたのだ。
「あの、ヘレナさん、ぼくなんだけど、弟さんも・・・!」
シモンズが言いかけた。
「だから、出てけ~~~! そっからすぐに後ろ向いて、出てけ~~~! はやくう! 全員、カエルと蛇にしちゃうぞ~~~~!!」
「ああ、シモンズ殿、これは、まずい状況ですぞお。早く出ましょう。『カエル・ヘビ』にされるのは、まだ、まずい。」
「はあ・・・・うん。」
シモンズたちは、多少目が慣れたせいか、ぼんやりとした、後ろ側の開いた空間から、外側の通路に追い出された格好になった。
ドアが、後ろ側で、高速で閉じた。
そうして、通路には、瞬間に、明かりが入った。
そこに、突然、あの執事が現れたのである。
まだ、みな、眼が、ちりちりしている・・・警部以外は。
「あなたがた、なんですかな?」
まったく、動揺する気配もない執事は、落ち着いて、何らかの『銃』を構えた。
「おそれいりますが、あなた方は、招かれてはいない。全員、ここにおいて、消去します。」
「ああ、そうかい。しかし、そう、うまくは行かない。」
警部が、『発光』した。
いや、そう見えた。
彼は、いま、銃など持ってはいないのだ。
体全体が、光った、という感じだったのだ。
執事の姿は、すうっーと、消えてしまった。
「まあ、一種の、『実体ホログラム』ですなあ。技術自体は、そう、たいしたものではない。昔の『火星人』も、実用化していましたからな。それと、ほぼ同様のものですな。」
「はあ・・・・これは、どういうことですか? ぼくたち、どこに来たのかな?」
ようやく、誰がいるのかがはっきりしたという感じで、弘志が尋ねた。
「ここがどこなのかは、誰も分かっていませんよ。ぼくは、自己シールドを拡張して、範囲内に、ホログラムなどが入り込めないように処置したのです。あれは、幻ですが、実際に人殺しも可能です。」
「危なかった・・・と?」
「まあ、そうですな。」
「さすが、宇宙警部さんなわけだね。」
珍しく、シモンズが、相手を持ち上げた。
「ははは、恐れ入りますな。」
そこで、さきほど瞬間に閉じたドアが、また、すっと開いた。
そうして、『弘子=ヘレナ』が、赤い、派手な薄いワンピースを、いかにも慌てて、ひっかぶったという感じで、その姿を現したのである。
下着がかなり透けているので、弘志が少し引いた。
部屋の奥側には、もうひとり、誰かがいるらしき『影』が、見えるようだった。
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