わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百五十四回
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杖出首相は、月のかなり近くまで連れて行かれた。
ダレルの旗艦は、そう大きな宇宙船ではない。
全長は、500メートルほどで、コンパクトなものだ。
全長が、8キロはあるアブラシオに比べたら、実に小さい。
それでも、抜群の防御力がある。
攻撃より、防業に力を入れた宇宙船である。
もし、アブラシオが攻撃してきても、こいつを破壊するのは非常に難しいだろう。
もっとも、そう思っているのは、ダレルだけかもしれないが。
ときに、ダレル自身は、2憶年前の自分と、いまの自分が、そう変わっているとは考えていない。
もし、変わったとするならば、それは周囲の方である。
しかし、リリカは、それは間違いだとさかんに指摘して来る。
「あなたは、変わった。別人みたい。今は、ただの権力者みたい。むかしは、もっと純粋だった。」
とか、なんとか、文句を言うのである。
「あんたは、女王の傀儡だし、とっくに出家したような存在じゃないか。『魔女』そのものだ。ぼくは、現役ばりばりの、『火星人』なんだ。」
『火星の再興。それがすべてなんだ。他に何もない。別に地球人をさげすんでるわけでもない。彼らはほろびかけている。かつての火星や金星のように。それは阻止してやりたい。両方成り立たせるんだ。いくらかの無理は出るさ。』
ダレルは、そう思う。
『ダレルさん、杖出首相をお招きしました。』
部下には、『ダレルさん』と呼ばせている。
自分は、悪役宇宙人の柄じゃあない。
「ああ、わかった。応接室にお通しして。地球のコーヒーを出してください。ぼくが、このまえ、あの温泉で買ってきたのが、まだ賞味期限内だろう。」
『はあ・・・ええと、・・・はい、まだ、大丈夫のようです。』
「よかった。大切に扱ってくださいよ。ぼくとしては、協力者として同意し合いたいんだ。」
『了解。』
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杖出首相は、いくらか不気味ではあるが、それほど違和感のない部屋に通された。
そこに、ごく、当たり前のように見える、コーヒーが出て来た。
「大丈夫ですよ。首相。ほら、これが、そのコーヒーの入ってた、ぱっくです。」
すぐに、身長2メートル半はある、巨大な人物が現れた。
「ダレルです。首相閣下にお目にかかれて、光栄です。あなたは、地球を代表する有力者のおひとりと認識しております。」
威圧感を感じながら、しかし、まったく、そういう雰囲気は出さないまま、杖出首相は答えた。
「日本語がお上手ですな。杖出です。」
ダレルは、握手を求めてきたが、首相は無視した。
「まあ、地球上の言語は、すべて習得可能です。もっとも、だいたいは、そのたびごとにですが。しかし、この言語は、『女王』も使う、重要な言語ですからな。常識として、習得しました。」
「なるほど。『タルレジャ王国語』も、ですかな。」
「もちろん、そうです。あの王国は、地球上に誕生して2億5千万年経ちます。地球人は認識していないようですが。」
「あなたがたの存在自体が、信用できないと、まともな地球人なら、考えて当然でしょう。」
「ここに、来ても、なお、そう思いますか?」
「地球上では、ほぼ、どのようなトリックも、可能になった。簡単には信用できないのですよ。あの王国の『第1王女』が持つ、異常な能力はわかっています。そこまで否定はもはやできない。それでも、あの荒廃した『火星』に、生命があるとは考えにくい。まして、今に続く文明があるなんて、どこからも証拠が見つからない。」
「まあ、もちろん、そうでしょうなあ。あなたがたの力ではね。しかし、トリックはトリックだ。必ず、どこかにおかしいところがあるものです、ときに、首相閣下。今、太古の金星の『空中都市群』が、金星を再び手に入れようとして、その『金星』を根城にしている、ある『勢力』と闘っています。見に行きませんか? おそらく、この後、『火星』にも、そうして、『地球』にも侵攻するでしょう。話し合いはするつもりですが、場合によっては、軍事衝突になるかもしれません。地球人だけで、対抗できますかな?」
「そらあ・・・・まだ、聞いてない情報だ。いいでしょう。行けるのなら、行ってもらいましょうか。それと、地球と連絡したい。」
「よろしい、では、まず金星に行きましょうか。そうこうしていたら、さすがの地球側も、異変に気が付くでしょう。・・・・・『金星に進路を取って。ただし、慎重にね。』」
『了解。進路、金星。』
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「事務総長。これは、おかしいです。」
「ふん・・・・これは、『金星』じゃないか?」
「そうですが、ここ・・・・ほら。大きなものが、たくさん集まっているような・・・・」
「何時の写真かね?」
「さっき、『南北アメリカ国』の、『金星探査衛星』が送ってきた最新画像です。でも、こっちは、ほら、数が減っているでしょう。ドーバー博士の見解では、大気中に入ったんじゃないかと。」
「ふうん・・・『地球管理局』は、何と言ってる?」
「確認中ですが。まだ、返事がない。」
「早く返事しろ! と、言いなさい。組織上、私の意向は尊重されるはずだ。『皇帝陛下』と『総督閣下』には、伝わっているのか?」
「はい。そのはずです。」
「『総督閣下」と、話がしたい。すぐに、伝えてください。」
「はい。事務総長。」
「『地球帝国創立式典』まで、あと一週間だ。おかしなもめごとは、起こしたくないが、気になる。」
「ええ。同感ですよ。」
「王国の『第1王女様』は?」
「行方不明のままですが・・・・、あの杖出首相も、消失したらしいです。」
「そりゃあ、『火星人』が、絡んでるんじゃないのか?」
「わかりません。もしそうなら、我々の手には負えないかもしれないです。」
「ふうん・・・・」
事務総長・・・『初代地球帝国大統領』・・・は、机の上でじっと手を組んだ。
けっして、ただ、座って居るだけの人ではない。
それでも、『総督ルイーザ』の、意識統制下にはある。
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『アブラシオ』は、じっと太陽の周辺で、様子を窺っていた。
ヘレナからの指令は、まったく、何も出ない。
アニーとは、連絡し合っているが、アニーもヘレナの居場所が分からないままにいる。
いますぐ、介入する理由はないが、もし、『地球』が金星の『空中都市』などに攻撃されたら、話は別である。
『どんな事態でも、地球は守りなさい。』
それが、ヘレナからの変わらぬ指令だったからだ。
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