わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百五十二回
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ついに、金星の『空中都市群』が帰って来た。
2億5千万年ぶりの帰郷である。
『へレナリアの星』に永遠に残った人々が、約30万人いたが、それでも、本来の人口10億人のうち、太陽系を離れる時の戦闘や、その後の事故、病気、寿命、そうしたもので亡くなった人以外、約7割が生き残った。
ヘレナリアの星では、なぜかまったく歳を取らなかった。
それ以外の航行では、空間転移と光速に近い速度で移動した効果から予測された値とほぼ等しい時間が経過したが、それでも、いささか歳は取った。
火星時間で言えば、50年分くらいだろうか。
それは、しかし、『ヘレナリアの星』に到着するまでが大部分で、そこからあとは、実質5年も経っていない。
金星人は、もともと寿命が長いこともあり、多くの人々が生き延びてきた。
それでも、あの状況になって、今日でこうして、生きて故郷を見られるというのは、奇跡的な事だ。
天才的な技術を開発していたキッチン少佐と、全ての空中都市を改造する手伝いをしてくれたヘレナリアには感謝してもしきれない。
「金星ですな。」
「ああ、歳取ったなあ。そうだろう?」
「そうですか? 全然変わってないようですな。」
情報局長が、星の事を言ったのか、人間の事だったのか、ブリアニデスは、まったく気にしてはいなかった。
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キッチン少佐は、スパイの訓練も受けていた。
金星人は、比較的地球人に混じりやすい。
ややこしい病気とかしなければ、まずは正体が見破られることはない。
それにしても、なぜ、キッチンはこの『宇宙』に到着したのか?
ノリちゃんがいたからだ、と考えたいところなのだが、『火星』は完全な崩壊状態で、誰からも応答はなかった。
じつは、地底にいた『火星人」は当然気が付いていたのだが、ダレルの指示もあって、だんまりを決め込んだのだ。
金星の『空中都市』は、まさに、この宇宙に出現しようとしていたその瞬間だった。
キッチンが地球に到着した時、金星の『空中都市』は、水星と金星の中間地点に集合していた。
まだ、『地球人』は、気が付いていなかった。
だが、当局からの連絡を受けた『地球帝国』の公安職員のうち、火星人出身の者が、キッチンの身柄を押さえようとして動いた。
彼らは、まずキッチンの宇宙船を確保しようとしたが、その姿は、なぜか地球上で消滅してしまった。
本人の行方も、まったく、掴めなかったのだ。
金星の『空中都市』に、地球側で最初に気が付いたのは、当然アニーとアブラシオだった。
普段なら、ヘレナに報告する訳なのだが、相手が行方不明で、連絡が付かない状態のままである。
ならば、ルイーザに報告するべきかどうか、という問題になる。
アブラシオは、それは実行しないと決めた。
『どうせ、すぐ見つけますよ。地球人もばかじゃない。』
『いや、そりゃあ、メンツの問題だ。アニーさんが泣く。』
『じゃあ、どなたに、報告しますか? ダレルさん? リリカさん? でも、どちらにも、我々に対する指揮権はございません。ルイーザ様は、ヘレナ様から代役には指名されておりません。』
『そうだなあ。そいつは、ちょと、めんどうちいな、ここは、様子見するかなあ・・・・・』
『はい!』
『でもね、ちょと、相談なんですがね・・・・・・』
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実際、警戒中の『宇宙警部2001』の小さな部下が、すぐに『空中都市』を発見した。
王国の一般からは隔離されている特別な『牢獄』に、移動しようとしていた、その時であった。
「ちょと、まった。部下たちから報告が来ました。『水星』と『金星』の間に、多数の『空中都市』が出現。異空間から移動して来たものと推測される。金星の、かつて消滅した『空中都市』と一致。とのことです。どうしますか?」
「どうするって、決まってるさ。まずは、ヘレナの救出が先。ぼくはね。リリカさんはどうするの?帰るかい?」
「そうね。まあ、そこはダレルさんに任せましょうか。軍事的な事柄からは、手を引きましたから。それに、金星の『空中都市』が出て来たのなら、彼らはまず自分たちの惑星を確保するでしょう。次に、地球かな。こうなったら、ヘレナがいないとまずいですね。ダレルさんは、ヘレナ抜きで、交渉を進めるかもしれないですね。彼の最大の目標は、火星の再興ですが、ヘレナはむしろ、邪魔。ジャヌアンさんの目標は、歴史の流れを元に戻すことです。ヘレナさんを皇帝にし、5000年後に、妹によって、つまりルイーザさんによって、次元の隙間に放逐すること。このままだと、ジャヌアンさんの未来は、それとは違う方向に行ってしまう。また、かつては存在しなかったヘネシーさんは、そこには余計な存在です。だから、ここで消そうとしているわけ。」
「あなた、そんな重要な事、これまで黙っていたわけ?」
シモンズが、批判した。
「あえて、お話する必要は、ないでしょう? ヘレナさんは先刻ご承知だし。わたくしには利害関係がない。」
「やっぱり、みんな鬼だ、それぞれが、何か隠してるんだ。金星の『空中都市』とか、やって来ることは分かっていたの?」
「いえ、それは、可能性はあると思っていたくらいです。ここで、来るとは予測できていませんでした。千年先か、一億年先か・・・。」
「ふうん・・・・。」
「まあ、でも、こうなったら、ヘレナさんが必要です。ダレルさんとは、仲たがいになりますが、行きましょう。あなたがおっしゃることがどういうことか、よくわからないけども。」
『まったまったあ・・・アニーさんですよお!』
アニーが声をかけてきた。
「こら、さっき応答しなかったくせに、なにをいまさら。」
シモンズが再び、かなり苦々しく文句を言った。
『忙しかったのでね。ああ、アニーさんが送りましょう。そのほうが安全確実ですよ。全面バックアップしますから。警部さんとも共同作業にしましょう。』
「そりゃあ、まあ、いいけども。」
警部が、あっさりと同意した。
『ジャヌアンさんがいる監獄の上に会議室の様な空き部屋があります。そこなら、監視の目もない。弘志くんも、おまとめパックでお送りします。』
「弘子さんの弟の弘志くんか?」
シモンズが確認した。
「そうですよ。彼は必要でしょう? あなたがたのお仲間としては。」
「私は、仲間では、ないですよ、アニーさん。」
『いいえ、あなたはヘレナさんの、味方ですからね、リリカさん。じゃあ、いきます! 映画『スター・トレーラー』みたいに、『転送!』・・ほい。』
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