わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百四十九回
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松村家の旧本宅は、現在もその広大な敷地の中にある。
木造の大建築である。
数回の大地震にもびくともせず、戦争でもなぜか無傷で生き残った。
もっとも、この屋敷だけが助かった訳ではなく、町内全体が焼け残ったのだが。
残っている証言に、『爆弾が避けて行った』、という話がある。
もちろん、ほとんど誰も信じてはいないが、『超能力』が使われたのだ、と主張するオカルト系の学者も存在していた。
『あんじ』のおじいさんは、この超能力説に加担していたらしい、と言われる。
あんじの家も、同じ町内にあり、なにかと対立することも多かった両家が、戦争をきっかけに良い関係に転じたことは事実だとされる。
「こうして、この夜中に見ると、こりゃあまた、ものすごい圧迫感がありますなあ。うんうん。」
村沢は、大げさに驚嘆して見せた。
しかし、まんざら空言ではない。
たしかに、大きいのだ。
『マツムラ城』と言われただけのことはあるのだ。
もっとも、現在は、新しい本宅の巨大さが、あまりにも目立つので、いささか大人しくは感じるのだが。
「こいつは、一般には入れないんでしょう?」
「ええ。そうです。ただ、ほっとくと痛むので、雨戸をあけたり閉めたりの作業とか、掃除とかはきっちりやります。専属の職員もおります。はい。」
「え? ここに、住んでるの?」
「そういう、わけではありません。あまり人目には触れませんが、裏に従業員用の宿舎がありますから。」
「そおりゃあいいな。知らなかったよ。どうやったら、就職できるの?」
「いまは、募集しておりません。募集するときは、『スローワーク』に、求人出します。あなたは、行かないんでしょう?」
「まあね。好きじゃあないよ。あそここそ、『恐怖の館』とか言われてるとか。」
「はあ・・・いやあ、私は、業務上行くこともありますが、そう、『化け物屋敷』の様なことはないですよ。まあ、もっとも、紹介されても『大泥棒さん』を、雇うつもりにはなりませんなあ。」
「また、人聞きの悪い事を。ときに、この本宅には、幽霊が出るという噂があるが、本当かい?」
吉田さんは、即答した。
「ええ、本当でございますよ。」
「え? 本当に? 本当?」
「はい。出ます。」
「何が出るの?」
「さあて、正体はわかりません。昼夜問わず、廊下や階段を歩く音が聞こえたり、良く分からない話し声がしたり、食器が鳴ったり、まあ、いろいろ、ですな。」
「吉田さんも、見たのか?」
「はあ、しょっちゅうでございますよ。一回だけ、そのはっきりとしたお姿を目撃いたしました。内緒ですよ。」
「そりゃあ、いったい、誰だったんですか?」
「アヤ姫様です。」
少し沈黙があったが、すぐに、村沢が大笑いした。
「まっさかあ~~~~~。『アヤ姫』は、この国に来たことがない。ましてや、この家にいるはずがないでしょう。」
「それがですな。秘密ですぞ!」
「はあ。」
「死後、アヤ姫様の魂は、ここに移住したとかも、言われております。しかも、この本宅と、王国の王宮は、『秘密の通路でつながっているのだ!』、という噂が、また、あります。」
「ぶっ! がっはははははははは。うんうん。そんなの、歩いていたら、一生がかりでしょうな。がははははははははは!」
「あっ、というまに、到着するとか・・・」
「まっさかああ。・・・・・ え? 本当ですか?」
吉田の真面目な顔を見ながら、村沢はつい、本気になりそうだった。
「まったああ! もう。・・・・ぼくをかつごうとしてますな。うんうん。」
「さああて、あくまで、噂ですからな。」
「その、噂とやらの、出どころは? どこですか?」
「『第1王女様』です。だいたいは。」
「むううう。う~~~~~~~~ん。微妙だなあ。あの人は、すごい人だが、まったく、とっぴょうしもないことも、よく言うからなあ。そういうお年ごろでもあるし。しかし、『王女様』が、そのような噂を流しちゃあ、いけませんなあ。」
「ぶふぁわ、っははははははは。さあ、入りましょう。あなたが、確かめたらよろしゅうございましょう。」
「吉田さん。大丈夫ですかあ? ぼくを監禁する気とかじゃないですか? うんうん。」
「ははははは。まさか。さあ、どうぞ。普段は、警報装置が作動していて、おまけに、保安室がばっちり見てます。悪い事は、できません。まあ、いまも、見られてはいますがね。」
吉田さんは、あらぬ空を見ながら、手を振ってみせた。
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「正晴様。どうぞ、キスを。もっと、深く。愛しているなら。もっと・・・・・」
正晴は、自分の体が、まるで映画俳優のように、かっこよく動くのを見ていた。
「そうよ・・・・ううん・・・・いい。うん・・・・。さあ、服を脱がせて。ほら、すぐに、さがっちゃうわ。簡単よ。そうそう。良い感じ。」
弘子は、ワンピースを後ろに蹴っ飛ばした。
「あとは、下着だけよ。でも、その前に、もうちょっと、やさしく・・・・・・そう。ううん。いいわあ。上手よ。・・・ほら、胸のあたりをさわってみて・・・・うん・・・・。」
正晴は、なんとなく、夢の様な気分に包まれていた。
よい香りがする。
最高の肌触りだ。
弘子の胸は、あまりにもふくよかすぎる。
こいつ、ほんとに17歳か。
高校生だぞ。ふたりは。
いいのか?
これで・・・・・
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「やっと、連絡が付いた。なになに・・・・・」
シモンズが、通信文を読もうとしている最中に、『警部2001』が現れた。
「遅くなりました。おじゃまします。」
「ちょっとまってよ、これから、あなたに連絡するという通信が今来たのに、なんで、もう、ここにいるの。」
「通信の予測をしてるからですよ。シモンズさん。未来の通信は、少しだが、先読み可能だ。まず間違いは起こらない。これは予言ではない。通信が発せられたという事実が、過去に与える影響を読み取るだけなんですよ。」
「むむむ。それ、教えてください。後でいいから。」
「まあ、ビュリアさんが許可してくれたら。」
「ビュリアさんは、つまりヘレナなのかい?」
「まあ、最初はそうも思っていたが、どうも実際の行動と、ビュリアさんの痕跡が途中から一致しない。したがって、過去のある時点まではそうだったが、現在は大方、違うと思われるんです。」
「じゃあ、今は、大方、誰?」
「それがですな。わからない。見事に雲隠れしているんだよな。伝えたいことが、たくさんあるのだが。」
「『愛してる』とかですか?」
「む。シモンズ君は、やはり、ただ者ではないな。どこの宇宙から来たのですか?」
「ぼくは、地球人です。それよりも、まず、とにかく、ヘレナを探すの手伝ってください。」
「いいですよ。人探しは、ぼくの職務だから。」
「ダレルが拉致したらしいんだけど、どこにも見つからないんだ。どうも、この『宇宙空間』ではないかもしれない。」
「ほう・・・・。じゃあ、リリカさんに、まず聞いてみよう。」
「え? そんなこと、できるの? アニーさんにも、やんわりと拒否されたし。」
「まあ、シモンズさんは、いろんなとこに関わってるから、警戒されてるんでしょう。」
「ヘレナには、話しているよ。」
「ダレルさんとヘレナさんは、親子だけれど、敵でもあるのです。」
「そうなんだ。ダレルがお父さんかい?」
「逆です。ヘレナさんが、お母様です。ただし、肉体は別。」
「そりゃあ、親子と言うのかなあ。最近、少々のおかしなことには、すっかり慣れてしまったけどもなあ。」
「精神的に、親子です。」
「ふうん。とにかくじゃあ、リリカさんと話してください。ぼくは、アブラシオの中で会うには会ったが、まともには話をしていない。」
「了解。通信開始。・・・・・・・あああ、リリカさん? ぼくです。」
『まあ、警部さん。無事地球にお着きか? 今は? 温泉とかですか?』
「いやあ、シモンズ君に呼ばれましてね。今、トウキョウのマンションの彼の部屋ですよ。ヘレナさんの、今の弟さんからも依頼があるのです。」
『ああ、ヘレナさんが、行方不明の件ですか。』
「そうです。そうです。」
『なるほど、まあ、そうでしょうね。・・・・・わかりました。そこに行きましょう。』
「おおお、助かります。」
警部が、シモンズに、まるで地球人のように、目くばせした。
リリカは、直ぐに現れたのである。
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