わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百四十七回
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*法的な扱いに関しては、まったくの創作であり、現実の扱いとは関係ありません。
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杖出首相は、閣議を開催して、《R2P》の発動を国連に通告したいと提案した。
もし、閣僚の同意が得られなかったら、強行する積りである。
そうした場合、首相の座を降りるように勧告される可能性があるが、党の承認が必要となるので、いくらか時間的には余裕がある。
そこで成果があがれば生き残ることが可能になる。
意味が無ければ、自分はお終いだ。
絵江府大臣は、当然、まっこうから反対した。
「王国は、崩壊していないし、政府はちゃんと動いとるんや。ただの内政干渉に過ぎないでっせ、総理。」
「でも、現実に『国王』は逮捕され、『第1王女』も行方不明ですが、王国は何ら有効な対策が打てないでいます。また、内戦の雰囲気さえある。特に、『第1王女様』は、我が国の国民でもあり、我が国の高校生です。王国が保護できないのであれば、我が国が彼女を、『保護』すべきでしょう。問題は、方法があるのか?ということです。」
四日総務大臣は首相を支持する発言をした。
毛葉井大蔵大臣は、何があっても、絵江府大臣の支持をする人である。
次次期あたりの首相を狙っているから、ある意味当然なのだ。
「いやあ、帝国の意向が絡んでるんだぜ。口出しはマズイ。『第1王女様』は、そりゃあ心配だが、いずれ本国に引き上げるお方だ。様子見したが良いでしょう。我が国の安全保障上も、そのほうが無難ですぜ。」
「ああ、諸君は、軽く考えていますな。よろしいですかな、『第1王女様』は、我が国にとって、なにか?
彼女は、我が国の国防の要である。そこをよく考えてほしい。『帝国』が地球を支配しても、その行く先は必ずしもはっきりしません。許される範囲の中ではあっても、一定の防御策は必要です。それは、『地球帝国の防衛』という意味でもあるのですぞ。彼女ほど、いささか非公開ではあるが、我が国の防衛にとって重要な、質の高い通常兵器を、リーゾナブルに提供してくれる方はない。もちろん、製造は、ご実家の企業ですがね。設計は、超天才の彼女であると確信できます。しかも、意図は必ずしも明確ではないが、彼女は『帝国』の運営から外れています。王国の跡を継ぐ使命があるからだ、とされています。ならば、いずれ王国の奥深くに隠れてしまわれる。ただし今ならば、『マツムラ・コーポレーション』に対しても、彼女は大きな影響力がある。『第2王女様』は、帝国の総督であらせられるので、あまり大きな期待はできませんが、私は、彼女の協力は得らえると思っています。」
「総督閣下と首相には、良い関係がおありかな?」
絵江府大臣が皮肉に尋ねた。
「まあ、そうですな。そのつもりですが。」
「それにしても、賛成は出来ない。なんだったら、ここで決議してもらいたい。」
「それはあ、閣内不一致を認めることになるから、よくないですなあ。」
なにごとにも慎重な、恵留霧大臣が抵抗した。
「ここは、いったん任せてほしい、上手くゆかなかったら責任とります。」
杖出首相は、賭けに出た。
「ほう・・・・・興味深い。」
意外と早く、自分が首相になれそうだ。
それに、失敗しても、自分は無傷でいられそうだ。
絵江府大臣は、納得した。
「ま、上手くゆくとは、思えないけどな。」
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「とにかくも、弘子さんを、まずは救出すべきです。」
姿の見えない洋子が発言した。
「あら、お姉さま、聞いていらしたんだ。」
明子が、ちょと例によって皮肉った。
「そんなこと、今、言ってる場合じゃないでしょう?明子さま。」
「はい。すみません。」
文句は言うが、洋子に頭から叩かれると、明子は意外と素直でもある。
「でも、どこにいるかも分からない。それで救出なんかできる?政府のお役目だし、あたくしたちが、出しゃばってよいのかな?」
「まあ、いまになって、気の弱い事、おっしゃいますのね。自分たちの妹ですよ。マツムラの力を使って探すことは当然です。王国からの情報では、パブロ議員が絡んでいて、王国政府は、上手く動けないでいる。しかも、北島と南島が、にらめっこしようと動いている。こうしている間にも。わたくしたちは、逆に動ける立場です。『皇帝陛下』がどう出るかは、わかりませんが。」
「陛下が、介入なさって、止めるようにおしゃったら?」
「それは、ご指示に従うしかありません。我らは、陛下の僕ですから。」
『ふうん・・・・・会社が介入するのはいいけど、たぶん、皇帝陛下に、友子に、すぐ止められるな。想像だけど。まてよ、ならば、シモンズさんと宇宙警部さんに、今こそ協力要請すべきだろう。宇宙警部さんは、宇宙規模の人さがしのプロだと聞いた。こいつはすぐに実行だな。』
弘志は、そう確信した。
『お兄様、正解!』
頭の中で、雪子が拍手してくれている。
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「まあ、ぼくが思うに、吉田さんが、その人を知らないということは、ないと思うんだけどなあ。うんうん。」
村沢は、振り向きながら言った。
「村沢様は、この吉田が、200年近く生きてる怪物だと、申されるのですな。」
「いやいやあ。そうじゃなくて、・・・。ね、吉田さん、ぼくはね、ある、仮定を持ってるんだよね。とてつもなく、常識外れで、無茶苦茶だけど。なぜ、あの火星人さんたちは、突然現われたのか? あなた、どう思いますか。」
「どうっ、て。さあ・・・・」
「ふん。はっきり言って、この村沢は、不感応バリバリですぜ。あなたがどうか知らないがね。でも、ぼくはね、すでに『講習』も、ちゃあ~~んと、済ませたんですよ。ほら、『手帳』もある。ね? うんうん。」
それは、『不感応者』だが、政府の所定の講習を受けたという証拠であもある。
一般的には、物理的な『洗脳済み』の証である。
しかし、村沢が、従順になっているとは思えない。
どうせ、なにかのトリックを使ったのだろう。
「で、このかた、ご存知ですよね。」
「いいや、ぞんじませんなあ。まったく。」
「ふうん・・・・堅物ですなあ。あなたは、扱いずらいや。わいろも通じない人だし。」
「村沢さん、あなた、『御本宅』に入ったことが、おありですかな?」
「『御本宅』?あの、でっかい和風建築物ですかい。いやああ、ないない。忍び込もうとしたことはあるんですがね・・・いや・・・・・あははは、あまりに固くってね、入れなかったんですよ。だから、諦めたんだ。うんうん。」
「ほう・・・入って見たいですか?」
「そりゃあもう、お宝満載とか・・・・」
「そうですなあ。それはもう、国宝級といいますか、世界遺産クラスといいますか、ですな。」
「吉田さんが、勝手に入れるのですか?」
「はい。警護も、任されておりますゆえ。ただし、良からぬことをなさろうとしますと・・・・」
「そうすると?」
「地獄行きです。」
「はあ?」
「あの建物は、地獄に直結いたしております、ゆえ。」
「へ? は~~ははははっは。面白い、是非、見たいや。いや、そっちの方がすぐ見たいですな。うんうん。」
「じゃあ、どうぞ。」
『こいつ、何か企んであるなあ。』
村沢は、そう思いながら、吉田に付いて行った。
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弘子=ヘレナは、なんとなく逃げ腰の正晴のくびに、やわらかい腕を巻き付けて、迫っていた。
「もう、待てませんの、正晴さま、どうか、ほら、あたくしの、ここに手を当ててくださいませ。」
正晴の手をつかんで、自分の腰に持って行く。
「キスして、よろしくてよ。」
これは、実は初めてではない。
数回、脅迫しながら、やらせたことはある。
しかし、ちっとも、正晴は上手くならない。
『もう。ぶきっちょなやつね。いいわ、あたくしが、ちゃんと、動かしてあげるわ。』
弘子は、正晴の体を、自分の意識の支配下に収めた。
これで、なんでも、もう、彼女のやってほしいと思うように、正晴は動いてくれるのだ。
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* R2P=『保護する責任』。現実世界で2000年9月に、カナダによって提唱された新しい概念。ただし、ここでは、その名称のみ援用させていただきましたので、内容的には、まったく関係ありません。




