わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百四十五回
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シモンズは、弘志に連絡を取ろうとしていた。
しかし、松村家の『こどもたち会』のまっ最中だったため、うまく通じなかったのである。
「アニーさん、急ぐんだけどなあ。」
シモンズは、中空に呼び掛けたが、アニーもまた回答しなかった。
このあたりは、アニーの自己判断である。
生きた意志を持つ、宇宙生態コンピューター・アニーは、面倒ぐさがり屋であり、『緊急事態』と判断できないときは、あえて返事をしない場合がよくある。
相手がヘレナならば、まず、そうしたことはないが、『絶対無い』と、言い切ることはできない。
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部長は、『こどもたち会』の、顧問でもある。
マツムラ本社は、これを『趣味の範囲』として、あえて問題にはしていなかった。
『創業者一家』であり、現在なお『経営主体』の家族であるということも、まあ、あるにはあるが、役員たちは、そう大事だとは、考えても見なかったのである。
むしろ、将来の為にも、上の3人は別として、他の兄妹たちの理解を深める意味でも、有益だと思っていたくらいである。
もっとも、『部長』にとっては、いささかやっかいな『仕事』でもあった。
なにしろ、この席には、『社長』『副社長』が座っているわけだし、姿は出さないが、恐るべき『会長』・・・つまり、洋子が見張っている・・・まあ、そう考えざるを得ない・・・からである。
『部長』は、言わなければならないことと、言ってはならないだろうことを、注意深く、言葉を選びながら、選別する必要性を感じていた。
もっとも、本来、一番に気を付けなければならない存在が、『弘子』であることは、意外と見過ごされがちである。
『ヘレナ』にとっては、そこも、実のところは、結構重要な事実だったのだが、どちらにしても、今日は姿が無かった。
『ルイーザ』は、結局、まだ画面に現れない。
洋子は、部長に遠慮したのか、腕が見えることもなくなったが、そこにまだ、いるのはいるらしい。
ときどき、薄い影が揺らぐのだ。
「・・・・ああ、つまり、そうおいう、状況でありまして、『北島』と『南島』が、具体的に、にらみ合いになりそうなことは、事実でありまして、歴史上、私の知る限り、かつて例がありません。」
「ほんと、聞いたことないわよね。」
明子があっさり同意した。
「うん。で、部長さんは、どうすべきと?」
昭夫が、すっきりと尋ねた。
「え、ああ。まあ、私が、政治向きのことを申し得る立場ではないのでして・・・」
「いいじゃない、ここならば、何しゃべったって、責任問われない。そういうお約束なんだから。無礼講と言ったら失礼ですけど、そのために来たんですし。あたしたちの会社での立場は関係ないという事で、どうぞ。」
「はあ・・・では、まあ、せっかくですから。私、思いますに、やはり、こういうものは、原因を取り除かなければなりません。」
「うんうん。」
「今回の原因は、そもそも、北島の『在り方』に、問題があるのです。トウキョウ本社としては、確かに、タルレジャ本社の意向が問題にはなりますが、そこは、幹部が何とかするとして、『北島改革』を具体的に打ち出し、パブロ氏の口を事実上、封じる必要があります。」
「あっさり言うわね。さすが部長さん。」
「はは・・・いやあ、あの、言い過ぎましたか・・・・」
「いえいえ、その通りでしょう。しかし、その最大の問題は、弘子さんが言うこと聞かなきゃだめよね。」
と、明子。
「皇帝陛下が、命じればよいではないか。今なら、出来る。その後押しをすべきだよ。『国王』も『第1王女』も不在なんだから。」
昭夫が言う。
『・・・・お待たせいたしましたあ・・・』
『王国』の画像に、ようやく『道子=第2王女』が姿を現した。
「いいタイミングね、どこかで見てたんじゃないの?」
『いえいえ、明子お姉さま。そんな暇はございません。対策会議が相次ぎまして。』
「ふうん・・・・良い案が決まったのかな?」
『ああ・・・まあ、そこは、まだ、開示できませんわ。』
「あそ。ま、そうよね。じゃあ言うけど、ここでは、いま部長様から、『北島』の改革案を、まず示すべきだと。昭夫さんは、『皇帝陛下』が、じきじきにご命令すればよいと。あなた、『国王陛下』も、『第1王女様』もいらっしゃらない、いまの状況下では、あの、失礼ながら、あなた様が、『王国』における、独裁的な権限をも、事実上持ってると考えられます。だって、退位してないんでしょう。まだね。どうするの?」
『まあまあ、お姉さま。まだ、そうした状況ではございません。王室も、教団も、現在の状況では『第1王女様』の権限が有効であって、わたくしがでしゃばる時期ではないと見ておりますし、あたくしも、そう、思いますわ。第一、あたくしの立場の主体は、すでに王国にはございません。』
「ふうん。あなた、見た目もしゃべり方も、弘子さんそのものだし、やろうと思えば、あの気に入らないパブロさんを抱き込んで、一気にクーデター起こせるでしょう?しかも、地球帝国の『総督閣下』であらせられるんだから、『皇帝陛下』を納得させて行えれば、一挙に『王国』を手中にできちゃいますよ。チャンスよ、あなた。いつも二番手で、あたまに来るでしょう。やっちゃいなさいよ。このさい。そしたら、問題は一挙に解決に向かうわ。『マツムラの立場』も、きっと守っていただける。『地球帝国』も満足。もう、すばらしいではないですか。」
『こらこら、お姉さま、そのような、『むたくた』を、申されてはなりませぬ。わが『王国』は、不法国家ではありませぬ。きちんとした『法』にもとずく法治国家です。』
「だから、いまは、あなたが『法』でしょう。いまだけよ。二度と来ないチャンスよ。」
「ははは。いやあ、ぼくの居場所はないようなので。これにて・・・」
『部長』は、さっさと帰りかけようとした。
「部長様、まだ用事がございますの。今日ここにきたのが、あなたの運命よ。ここで、決めるわ。地球の運命をね。今回は、『こども会』でも、特別。」
明子が一喝した。
「ひえ~~~~~!」
部長は、高級なハンカチで額の汗をぬぐった。
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松村家張り付きの、フリー・ジャーナリスト『村沢健司』は、実はフリーの『ギャング』でもある。
いわゆる『パパロッチ』でもある。
しかしながら、その正体は、フリーの『戦争屋』であり、国際的なプロの『犯罪者』でもあり、また時には、不法監禁されている民間人や政府のエージェントを秘かに救出することもあったりして、金次第では、一種の正義の味方にもなる。(相手から見れば、りっぱな『犯罪者』である。)
要は、闇の、『何でも屋』である。
しかし、彼は頑強な、『不感応者』でもあった。
また、有名探偵小説クラスの、変装の名人でもある。
したがって、『地球帝国』の成立は、彼の『商売』を、危うくする重大な危機だったのだ。
地球上に争いが無くなれば、彼の『商売』は、大部分、あがったりになる。
その、鍵を握る大きな存在のひとつが、『マツムラ』であることは、間違いがない。
なので、今日も、松村家に入り込んできていたのである。
きわめて、興味深い、危ない情勢になってきていたから、今日は、絶対に、良いネタが欲しかった。
ときに、彼は、『第1王女様』の、お気に入りであった。
だから、普通なら、絶対に門前払いになる、やっかい者なのに、彼だけは、しっかり裏口から家の中に入り込めた。
ただし、弘子との約束がある。
『ある、一線は、許可がない限り、絶対に超えない事。ダメな時は、諦める事。』
その一線とは、『応接室』と、そのお『トイレ』以外には、絶対に無断で立ち入らない事、だったのである。
『もし、破ったら、食べちゃうからね。』
と、言われていたが、まさか、そこまで本気にしてはいなかった。
この夕べは、家の中には、お約束通り、いつもの通り、入れてもらえたが、誰も応対に出て来ない。
あまり気が長くない村沢は、いささか、いらついてきていた。
『こいつは、実際、なにか起こってるな。『会議中』だと?全員でか?ふん。『本人』がいなんだから、多少お約束をまたいでも、仕方ないよな。』
村沢は、静かにドアを開け、異常に広い廊下に出た。
そうして、この豪邸の奥に進もうとした。
「おやあ、お風呂でも、お探しですかな。」
「あちゃあ・・・いたのかあ・・・」
彼は、しっかり『吉田さん』に、監視されていたのである。
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************ ふろく ************
「やましんさん、だいじょうび?」
幸子さんが覗き込んできました。
女神様とは言え、鬼でも幽霊でもある幸子さんに、直近から覗き込まれると、ちょと怖いです。
「いやあ、不覚にも、熱出してしまって、まだ動くとつらいですよお。」
「ふうん・・・・・でもまあ、やましんさん、いつもつらいから。つらいのが、普通じゃんか。気にせず、お饅頭どうぞ。」
「はあ・・・・どうも。血糖値が上がるので・・・・・・」
「病は気から。お饅頭は元気の元ですよ。」
「ぐすん。ありがとう。」
幸子さんは、やさしいなあ。
「あの、ときに、最近、幸子が出ないんですけどお・・・・・」
来たか、やはり!
「ああ、またまた、熱が上がりそう。寝ます・・・・」
「こらあ!」
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