わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百四十三回
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松村家の『こどもたち』による『兄弟姉妹会議』が始まろうとしていた。
この会議は、まったくそのまま、『マツムラのこどもたち会』と呼ばれている。
兄弟姉妹全員が、各自のおこづかいから、一定の会費を支出している。
社会人である、上の姉と兄は、それなりに会費負担が大きく、またその上に『寄付金』なんていうものも収めていた。
多額の個人収入を上げているであろう『双子の姉妹』、つまり弘子と道子は、それにもかかわらず、学生会費だけである。
かなりの『寄付金』を出しているらしい洋子の姿は、スクリーンの中に、時々動く美しい腕だけが見えているのみである。
通常考えたら、それが洋子かどうかさえ怪しいということなのだけれど、それは明らかに洋子なのである。
背景の部屋の壁に映っている絵は、500年ほど前にベネチアで、ある著名な画家によって描かれた絵で、『世界芸術遺産』クラスのものでありながら、世間では、全く知られていない絵画である。
ただし、3人の専門家の鑑定を受けていて、間違いなく本物とされている。
さらに、この洋子の居室の中でも『中央の部屋』と呼ばれる特別な部屋には、どうしたって洋子以外は
絶対に入る事は不可能である、とされる。
双子の姉妹以外の、ほかの『こどもたち』は、もちろんまったく知らないことだが、あのリリカでさえ、この中央部に直に移動してくることはできない。
司会は、明子である。
いつも、そうだ。
「では、始めます。今日は、これまでになく深刻なお話し合いをしなくてはなりません。このような事態が生じたのは、本当に残念なことです。」
明子はそう切り出した。
「今日は、特別に、『松村コーポレーション技術本部』の『本部長様』に、『職務外』にてお出で頂いております。もちろん、『こどもたち会』の会計から、講演に対する既定のお礼はお支払いいたします。」
明子は少し間を開けた。
「さて、現在、お父様・・・つまり王国の国王様は、ずっと拘束されたままの状態です。それも、今日は出席していただけなかったのですが、『皇帝陛下』、すなわち、友子さんの指示によってです。さらに、『第1王女様』、すなわち弘子さんも、同様に拘束されたようなのですが、居場所さえわかりません。これも、おそらく『皇帝陛下』のご指示によるものです。わたくしたちは、もちろん、『皇帝陛下』に全面的な忠誠を誓うものですが、なぜ、拘束なさったのかが、ご説明いただけないのです。お姉さまは、なにか独自情報をお持ちですか?」
明子は、さっそく、洋子に話を振った。
姿は見えない洋子が、答えをした。
「いいえ。」
「・・・・それだけ、ですか?」
「はい。」
「うん、まあ! お姉さまともあろうお方が。そこにじっとおられて、情報収集なさっているのでしょう?何もないはずが、ないんじゃあないですか?」
明子は、昔から、わりとずけずけと、洋子にものを言う。
まあ、昭夫がさっぱり役に立たないので、それが自分の役割だと確信もしている。
「そうはおっしゃられましてもねぇ・・・わたくしも、『侍従長様』や、さらに『教母さま』にも随時状況をお伺いしておりますし、『王国首相様』にもお伺いいたしました。しかし、誰一人、詳しいことをご存知ではないとおっしゃいます。仕方がないので、本日ついに『皇帝陛下』に、じきじきにお尋ねいたしました。お話しは、していただけました。光栄なことです。お父様が、お元気であることは、お認めくださいました。しかし、直にお話することは、まあ、元々、弘子さん以外は出来ないわけですが、やはり、お認め下さいませんでした。お父様のお世話は、王宮の女官さまたちが、そのままなさっているそうです。なぜ、解放していただけないのか? お尋ねしましたが、ご回答はいただけませんでした。弘子さんに関しては、ノー・コメントでした。それだけです。残念ながら、弘子さんも含め、よい手立てはございません。今のところは。推測では、お父様が『核廃絶』に関して杖出首相の肩を持ったことが『皇帝陛下』のお怒りを買っているということだとは思われますが。」
「はあ。でも杖出さんは、『核廃絶』に結局賛成したでしょう。おかしいですよ。じゃあ、『日本合衆国政府』は? 協力してもらえないのですか?『杖出首相』は? あれほど、企業としても協力しているのですよ。でしょう?」
「はい、『杖出様』とも、先般お話しいたしました。『努力する』というご回答はいただいておりますが、進展は見られません。」
「あのお・・・・」
弘志が手を挙げた。
「どうぞ、弘志さん。」
「この際、『火星人』に頼んだらどうなんですか?」
「まあ、あなた、『火星人』に連絡が取れるくらいなら、苦労しません。」
明子が、いらいらしたように答えた。
「そうかなあ。ぼくはね、そこが不思議なんだ。相手は、きっと話しに応じてくるよ。先の一騎打ちの際、王国側が使った武器の多くは、マツムラ製なんだろう? 弘子姉さんがからんでるんでしょう。きっとね。良い関係を築きたくないと思うはずがないよ。彼らにも利益があると考えるさ。」
弘志は、自分自身が『女将さん』や『宇宙警部』と接触していることは、話すつもりがない。
ましてや、雪子の事は。
「あんた、自分で、そう考えたの?」
明子が詮索するように尋ねた。
「そりゃ、もう。他に誰が考えるの?」
「誰かが、入れ知恵してないの? と言ってるのよ。」
「たとえば? 誰?」
「そりゃあ、まあ、色々いるでしょう。それこそ、両方の政府筋とかどこかの諜報機関とかさ。弘子さんは、あなたと『意識』が通じるとか、そういう噂もあるし。」
「ない。です。」
弘志は、強く否定した。
かえって、おかしかったかな・・・と本人も思ったくらいに。
「あ、そう。」
明子は、それ以上は、追及して来なかった。
「ねえ、君たち、しかしだ、これが『皇帝陛下』がお決めになった事ならば、仕方がないよ。」
昭夫が口を出してきた。
「そこで、やはり、『総督閣下』しかないだろう。仲裁できるのは。あたりまえなんじゃない?『閣下』には連絡してるんですかな。渉外担当役員様は?」
「そおりゃあ、あなたがするべき事でしょう? 長男様? あなたの役割ですわよ。」
明子が言い返した。
「わたくしが、お伺いはしております。」
洋子が間に入ってきた。
「弘子さんの、この情報が入ってすぐにも、お尋ねいたしました。」
「ほう、で、なんと?」
昭夫が救われたように尋ねた。
「驚いていらっしゃいました。どうやら、『総督閣下』にもお知らせなく、実行されたようです。まあ、からんでいらっしゃるのは、『パブロ議員』さんのようですね。」
「やっかいな・・・!」
「天敵ね。我々『こどもたち』の。」
「議員さん側には、接触できないんですか?」
珍しく、優子が発言した。
全員がびっくりした様だった。
「そうですね。優子さん、あなたがおっしゃる通り、議員さん側にもお尋ねはしました。ご本人は、忙しいということで、応じてはいただけませんでしたが、秘書のガヤックさんがお答えくださいました。」
洋子が答えた。
「あの人は、良い人だ。」
昭夫が言った。
「それはそうです。ただ、弘子さんの件は、極めて政治的な問題も大きく、今の時点では回答できないとの事です。ただ、身体に危害を加えるようなことは『させない』とも。それだけは、自分が保証したいと、おっしゃいました。」
「思い切った事をおっしゃいますのね、あの方らしいわ。」
明子がつぶやいた。
「まあ、ガヤックさまは信頼できる方です。」
洋子もそう言った。
「パブロは信頼しにくい人だよ。都合のいい時は、いい顔するがね。」
昭夫は、個人的にも、あまりパブロ議員が好きではない。
「どちらかと言うと、わが社と王室や教団との関係を、悪く宣伝したいらしいからな。」
「あのひとは、政権を狙ってるのですから、必ずしもマツムラを叩くだけでは、うまくない事は、分かってるはずよ。」
明子が机をこつこつと叩きながら言った。
「パブロ議員は、ババヌッキ社との関係が深いと言います。ババヌッキ社は、ご承知のように『食料から軍事まで』と、わが社との競合分野が大きい。なにか、考えていらっしゃることが、あるのでしょう。」
洋子が珍しく、他人を疑うようなことを言った。
「うちも、お饅頭製造からやってるんだもんね。」
弘志がちょっと、からかうように言った。
「あんたね、将来会社背負う気があるなら、もうちょと、真剣に言いなさい。王室に渡すわよ。『不思議が池お気楽まんじゅう』は、重要な関連会社です。」
明子である。
「おお、こわ。」
全員が、大きく笑った。
「ま、そういうわけで、さっぱりお話しが進みません。そこで、ここで、本部長さまに講義を頂きましょう。」
明子は、内線電話を『吉田さん』に入れた。
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********** ふろく **********
「やた、お饅頭が出ました!」
その、おまんじゅうを頬張りながら幸子さんが言いました。
「ぼくにもください。」
「や、弘志クン、どうしたの。」
突然、弘志クンが現われたので、びっくりしました。
「いやあ、それがですね。弘子姉さんもいないことだし、ちょっと休息に来ました。やましんさん、元気ですか?」
「まあね。変わりはないです。」
「じゃあ、よくないんだ。」
「まあ、ね。」
「あの、洋子姉さんが、ビュリアさんだというのは、本当ですか?」
「あれ、君は知らないはずだよね。」
「またまたあ、やましんさん、お人が悪い。このものがたりの特徴は、多くの主人公が、2憶5千万年前から不死になって生き続けていることでしょう。なら、きっとぼくだって、誰かの引き続きなんでしょう?誰なのかなあ・・とか、思って。聞きに来たんだ。」
「ふんふん。そらあ、幸子も知りたい。」
「君は君。それ以外じゃない。それが回答です。」
「そんなあ、たとえば、パル君とか・・・」
「予約済みです。」
「え? 誰だろう・・・正晴さんかな・・・・」
「まあ、いいじゃないですか。自分は自分。他の誰でもない。」
「ふうん。じゃあ、幸子は、誰なんだろう?」
「幸子さんは、神さまでしょう。」
「まああ、そうだけど。でも、元人間ですよ。ならば、誰かでしょう? きと。」
「まあ、もう少し先になったら、分かるかもしれないけどお。」
「少しだけ教えてください、せっかく、来たんだし。」
「じゃあ。・・・・・・いやあ、まだ決めてません!」
「ぶっ!」
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