わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百四十二回
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トウキョウの松村家にも、『第1王女』が帝国に『拘束』された、という情報がすぐに入った。
兄妹たちのトップは、もちろん洋子なのだが、兄弟姉妹全体を実質的に取り仕切っているのは明子である。
現状を鑑みれば、全兄弟姉妹による全体会議が、今、まさに必要だということが明らかだった。
明子は早急に、全兄弟姉妹の集会を行うべきであると結論した。
全員の都合を聞いて回っていたらきりがないので、実施日時は明子が独断で決めた。
両親を除けば、兄弟姉妹たちの中で、ここから独立しているのは、『第3王女』である友子のみである。
だから、そのようなものならば、しょっちゅうありそうなのだけれど、実際は滅多にないものなのである。
その日の夕刻、兄妹姉妹たちは、会社の『取締役会議室』のような、長方形の大きな机を取り囲んで座っていた。
前方にあるスクリーンには、洋子の部屋が映し出されているが、本人の姿はまだ見えていない。
それ以外で、いま、ここに来ていないのは、まず当然ながら『第1王女=弘子=ヘレナ』である。
それから、『第2王女=道子=ルイーザ』は、『第二タルレジャ・タワー』の『総統室』から参加する予定になっているが、これはまだ映像自体が来ていない。
寝たきりの雪子は、自宅内のここにでさえ、来ることが出来ないし、話すことも出来ないので参加はできない。
それでも、公平を期するためにも、この会議の音声は、雪子の部屋にも中継されるのがしきたりである。
問題は、『皇帝陛下』である。
参加の打診は、秘密ルートから直に行われた。(明子が、本人の携帯電話に掛けただけである・・・)
しかし、『地球帝国皇帝=友子=ヘネシー』は、当然ながら参加を拒否してきたのである。
「あの子、大分おかしいわね。」
明子が言った。
「そうかい。だって、こんな会議には、『皇帝陛下』はお出にならないのが普通だろう。実際、具体的に言うと、どう、おかしいんだい?」
昭夫が突っ込んだ。
現在の世相は、すでにこの『程度』のやり取りだけでも、もし密告されたら、例のシブヤの『教習所』に強制収容されても仕方がない位である。
「どうって、だって、おかしいのよ。ああ言う子じゃなかったもの。『わしは、参加せぬ。世の為じゃ。』だって~。おかしいと思いません? 実の姉に対して、もう少し、ものの言い方というものが、ありそうじゃございません?」
「そりゃあ、『宮廷ことば』だろう。ぼくたちは使わないが、弘子や道子は内輪では良く使うらしいから、別におかしくはないんじゃないかな?」
「まあね。そうじゃなくて、なんというか、礼儀というものに欠けてるのよ。」
「おいおい。我が『皇帝陛下』に向かって、そうれは、『失言』だろう。『皇帝陛下』が、なんで君に礼儀を行う必要があるの? まあ、しかしだ、弘志は、もしかしたら実際、『宮廷』に召されるかもしれないんだから、練習しといた方が良い。とくに、こういう事態になったらだな。もし、『第1王女様』が自由の身にならないのならば、また国王があのままならば。弘志が、次期国王という線が出てくるんじゃないかな?」
突然話を振られた弘志は、一瞬ぎくっとした。
「恐ろしいこと、言わないでくださいよ。まあ、確かに、姉さんから、練習はさせられましたよ。実際。」
「え?!・・・・ああ、そうなんだ? へ~~~~。あたしたちには内緒で?」
明子が会話に飛び込んで来た。
「まあ、特に明子姉さんに、いちいち報告する必要はないかと。」
「うん。そうさ。その通りだよ。実際、ぼくは『宮廷』なんか御免だしね。会社の方が良い。」
昭夫が、いかにも、うっとおしい、という感じで言った。
「兄さんは、まあ、『ご指名』で、呼び出されることはないわよ。もとから、『王位継承権者』に指名されてないもの。」
「お世話様。君もね。」
「もちろん。あ・・・でも、洋子お姉さまは、次期『教母様』だから、大いに関係アリよね。ね、お姉さま、聞いてらっしゃる?」
明子は、空っぽの映像に呼び掛けたが、返事はなかった。
「あら、やけに静かね。」
この、天才・秀才・隠れミュータント・大企業トップ・王位継承資格者というような、まず普通じゃない松村家の兄妹姉妹たちの中で、唯一、ほぼ何でもない、ごく普通の存在だったのが、3女の『優子』だった。
こうした『兄弟姉妹会議』の中でも、まず何か意見を表明する事は滅多にしない。
しても、ほとんど意義がないからである。
それでも、なんでもない優子は、道子のお気に入りだった。
その道子の姿がまだ見えないことに、優子は少しだけ寂しさのようなものを感じていたのだった。
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シモンズは、弘子が作った、例の真四角のキューブ状物体を、じっと眺めていた。
「ねえ、きみ、弘子さんの居場所が特定できるかい?」
少しだけ、ブ~~ンとうなった後、キューブはパソコンの画面に回答を示した。
「探索可能範囲には、見当たりません。」
「ふうん・・・・・いつも、同じか、これじゃあ、どうしようもないな。」
『アニーさんには聞かないんですか?』
非常に珍しい事に、アニーが声をかけてきた。
「聞いてもいいけどね、分かったの? 居場所。」
『いいえ、分かりません。探索可能範囲に見当たりません。』
「だから、一緒じゃないか。」
『まあ、そう言わずに。ここは、洋子さんに聞いてみましょうよ。』
「ばかな。相手にしてくれないよ。」
『やってみなくっちゃ、分からないでしょう?』
「まあ、そうだけど、ふ~ん、アニーさん、なんか企んでるなあ。大体、君、洋子さんの正体を知ってるんじゃないの?」
『おや? そう思いましたか?』
「そおりゃあ、思うさ。ぼくは、『火星文明』から地球の『超古代文明』を、ここんとこ研究してきた。オカルト学者さんでも、そこまではさすがに言い出せないほどの昔さ。でも、なかなか王国図書館とかも、結構ガードが固くてね、うまく、ハッキング出来ないんだ。ただの伝説だけじゃあない、真実をがっちりと含む情報が欲しいけど、上手く分離ができない。でも、当たり前のことを、ふと思ったんだな。アニーさんは、全部見ていたのではないか? とね。」
『大当たり。』
「じゃあ、全部教えてよ。」
『ダメです。秘密情報に関するロックがかかっていて、あなたには開けられません。』
「じゃあ、だれなら開けられる? 弘子・・いや、あの、怪物的魔女の化け物『へレナ』かい?」
『ヘレナさんが聞いたら、泣いて喜ぶでしょう。だから、洋子さんに聞いて見ませんか? 洋子さんの『正体』には、興味があるでしょう?』
「ほう。そりゃあ、あるある。会ってくれるなら、是非。でも、会ったら、精神錯乱を起こすとか。」
『はい。直に会うのは危険すぎです。ただし、秘密中継による映像によって、しかも後ろ側からなら大丈夫です。たぶんね。』
「たぶん?」
『あひ。そうです。あの方のオーラは、映像でも伝わります。ただ、お顔を見なければ、危険性はぐっと下がりますから。』
「ゴーゴンさんみたいな人だね。」
『まあ、実際そうですから。』
「む・・・。いいだろう、会わせてよ。」
『段取りいたします。実は、洋子さんも、あなたに会いたがっています。』
「なんだ。出来レースか?」
『まあまあ、アニーハ、ナコウドサンミタイナモノデスカラ・・・・・・。』
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演奏会の後、クークヤーシスト女史が消えた。
中村教授は、彼女と、夫婦で、屋上レストランにて、夕食を一緒に取る約束をしていた。
教授は、会場内を探し回ったが、その姿は、どこにもなかったのである。
携帯電話も、呼び出し自体が出来ず、まったくつながらなかった。
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