わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百三十七回
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『第1王女』が地球帝国政府によって拘束されたらしい、という情報は、即座に王宮を駆け巡った。
侍従長は、直ちに情報の確認を指示した。
王宮からは、地球帝国政府(王宮のすぐそばの『第1タルレジャタワー』に、すでにその大部分が引っ越して来ていたが・・・)に対して、事実かどうかの問い合わせがなされた。
しかし、なぜか『地球帝国側』は、すんなりとは回答しなかった。
実のところ、『地球帝国』自身が、必ずしも十分な情報を持っていなかったのだ。
もちろん、『皇帝』ヘネシーは、何があったか知っていた。
ダレルが、地球人には手が届かない、別の次元空間に拘束したということ。
けれど、その情報は『帝国政府』の高官でさえ知らなかったのだ。
元、国連事務総長にして、新たな『地球帝国首相』にも、知らされていなかった。
『総督』=『第2王女』ルイーザは、アニーからの情報でこの事実は知っていたが、妹である『皇帝』の許可がないと、公表は出来ない。
そこで、侍従長は、これまでにない事態に、直面したのだった。
今までは、『王宮』の意志の上位に立つ存在などは、まずありえなかった。
もちろん、政治的な向きには、王宮は関与しないのが建前であリ、そこを崩したことは、今回の事態以前にはなかったのだ。
現在は、『第1王女』が『国王大権』を発動したことから、王国は『第1王女』の事実上独裁体制になっていた。
その『第1王女』が、失踪したとなれば、これはまさしく異常事態である。
パブロ議員あたりが、すぐになんらかの行動を起こすであろうことは、容易に推察できた。
最悪、『地球帝国』が、『王室』と『教団』を軍事的に制圧するような事態もあり得ないとは言えないと
、いや、その可能性が高いと、侍従長は見た。
『第3王女』=『地球帝国皇帝』が、どうやら『火星人』に完全に操られているらしいということも、侍従長はきちんと見抜いていた。
侍従長自身は、『不感応者』である・・・ということは、周囲には当然秘密だったが『第1王女』は、もちろん知っていた。
侍従長は、ただちに『タルレジャ王室・タルレジャ教団自警団』、通称『王室警備隊』に緊急事態を通告した。
『帝国』の軍、あるいは、王国政府の『防衛隊』が迫ってきた場合は、応戦する構えを取ったのだ。
もし、戦闘になれば、それは『内戦』ということになる。
王室は、『第1王女』によって作られた、『無限警備隊』とも言われる兵力を持っている。
もちろん、秘密裏にだが。
この兵士たちは、当然ながら人間ではない。
かつて、火星で開発されていた『コピー人間』たちだ。
何万人でも、何十万人でも、短時間で製造可能である。
彼らが使う銃器も、同じように『無限』に製造できる。
その原料は、宇宙空間自体から調達するので、事実上限りはない。
しかも、王室には、『アブラシオ』が、背後にいる。
この巨大な『宇宙戦闘艦』に敵対可能な航空機などは、地球には無いし、火星人もそこまでの軍備は、実は、持っていない。
しかし、侍従長は、『第1王女』が、事実上の『人質状態』にあるのではないか、ということは、考慮する必要があった。
いささか、相手の出方を見る必要があった。
また、ダレルも、実はヘレナを拘束したからと言って、安全だと確信していたのではない。
『ヘレナは一人ではない』
これは、昔からの大きな警告だからである。
自分の側に、分身のひとりが加勢してくれていることは事実であり、『彼女』によれば、あの『女王』とは、互角に渡り合えると、豪語している。
今回、うまく異空間に閉じ込められたら、こちらの勝ちだとも主張していた。
けれども、ダレルは必ずしも信用はしていなかった。
『女王』は、そんなに簡単な相手ではない。
必ず、何かの手を打ってくる。
自分たちが、およそ知り得ないことが、きっとまだ、数多くあることも、間違いはないだろう。
そこは、駆け引きにも、なるだろう。
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侍従長が予想したとおり、パブロ議員と例の警部は、『王国政府』と取引きをしていた。
王国政府首相は、帝国から、この先、ずっと睨まれてしまうことは好ましくないと考えていた。
もっとも、『地球皇帝ヘネシー』の意図がどこにあるのか?
首相は、そこを測りかねていたのだ。
自分が知っている『第3王女』は、確かに北島の開放と民主化を目標としていた。
しかし、王室を廃止するというところまで考えていたとは思えない。
「いいですかな、首相。『第3王女様』は、現在いわゆる『火星人』との協力関係にある。ただし、不肖パブロは、『火星人』というのは、あまり信用していない。信用してはいないが、我が王国が、この『地球帝国』と言う枠組みの中で、たくましく生き残るためには、それなりの対策が必要だ。しかし、どうやら『王室』と『教団』は、『地球帝国』に敵対姿勢を取りつつある。それは、マズイ。主導権は、どうあっても、我々政府が握らなければならない。そこで、やむ負えず、超法規的措置ではあるが、北島を一旦『封鎖する』必要があります。ただちにね。」
「封鎖だって?」
首相は、怪しげな顔つきになった。
「そう、封鎖です。簡単でしょう。北島の最大の弱点は、入り口がひとつしかないことですよ。そこを封鎖したら、物資の調達が行き詰まることは明らかだ。また、経済的な封鎖も必要ですな。食料の自活はある程度出来ても、エネルギーの供給、資金の調達、大きな影響が出るはずだ。第一、帝国の本拠地は、北島にあるのです。」
「北島の底力は、あなどれないですよ、議員。南島と対立したら、彼らが何も持ち出すか、かならずしもはっきりしない。おかしな話しですがねぇ。同じ国なのに。けれど、帝国の『タワー』が北島にあることは、むしろ、危険要素だよ。」
「しかし、いいですか、背後にいる『マツムラ・コーポレーション』の主力は南島にある。これは、かつて『王室』が王国の一体化の象徴として、王国政府に妥協せざるを得なかったところだ。つまり、弱点ですよ。マツムラからの資金や物流を止めましょう。『タワー』には、独自の防衛システムがあると言う。彼がね。」
議員は、警部に顔を向けた。
「いやあ、それでは、本当に内戦になりかねない。」
「だから、この方が、ここにいるんですよ。『帝国』が援助してくれるでしょう。」
「ああ、まあ、そうですな。もしも、軍事的な必要性が生じれば、援助しましょう。」
警部は、あっさりと答えた。
「あなたに、そこまで言い切れる権限があるのか?」
「うむ、まあ、これまで隠していたが、私の事実上の職責は、こうであります。」
警部は、一枚の小さなカードを、懐から取り出した。
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「ダレルさん、ヘレナ様を、どこにやったの?」
火星人形態のリリカが、ダレルの隠れ家に、立体画像通信で押しかけて、こう、迫っていた。
「なあに、安全を確保するために、身を隠してもらったんだ。暗殺の危険性が高くなってきたからね。相手は、極悪ミュータントだ。並じゃあない。あの体は、女王のお気に入りだよ。守らなくてはならない。そうだろう?」
「誰が、相手だと言うの?」
「聞きたいかい?」
「そりゃあ、そうでしょう。」
「『第1王女』の、お姉さまさ。」
「はあ? え、え、え? なんだ、それは・・・・・・・」
リリカは、この答えは、さすがに予測していなかった。
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