わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百三十六回
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「ついに、時はきた! てめぇら、腹くくってミュータント連中を壊滅すんじゃ!」
「おー!」
紅バラ組の新しい秘密基地に終結した少女たちは、支給された揃いの戦闘服に身を包んでいた。
壇上で演説していたのは、ほかならぬ『くっこ』だった。
あの大人しいくっこが、どうしてこんな激しい気性になれるのか?
ひとえに、『紅バラ組』が使用していた、不完全な『洗脳剤』が原因だった。
あの薬は、人間の性格を過激な攻撃的性格に変貌させる効果が強い。
テロリストの製造には向いているが、思想家や指導者の創造には、まず使えない。
ただし、独裁者は別である。
かつて、火星の女王だったヘレナが、さまざまな人体実験を行っていた恐怖時代の、失敗産物のひとつである。
しかし、その物質をはるか後のこの時代の地球で製造したのは、もちろん『マツムラ・コーポレーションン』以外の何者でもなかった。
ヘレナ自身は、その製造を指示したわけではなかった。
いつのまにか、会社が作ってしまっていたのである。
そうして、秘密ルートを通じて、特殊なお得意先に少量ずつだが、販売していた。
ただし、『マツムラ・コーポレーション』自体が、製造・販売していたわけではない。
あくまで、国外の、『別の』軍事関連会社が実施したものだ。
それが、なぜか『紅バラ組』に流れたらしい。
そこに関わっていたのは、『リーダー』と呼ばれる少女だったのだ。
彼女の素性は、誰も知らない。
『紅バラ組』を立ち上げたのも、彼女である。
もともとは、タルレジャ王国の『王女様』とは、何の関わりもない組織だった。
それが、いつの間にか、『第1王女』と極秘協定を結ぶことになり、資金や武器を提供する代わりに、『第1王女』を組長として担ぎ上げることになった。
もともと、『政府打倒』という、まずは実現不可能な、とてつもない目標を掲げていた彼女たちであるが、『火星人』の登場がある意味目標を達成させることになったのである。
現状で、『地球帝国』の支援団体の様な感じになっているが、感応者だったリーダーは、自分の変節というか、ある種の『転向』というか、そうした意識は持たなかった。
彼女自身が『洗脳』されたことは、分かっているようで、しかし、はっきりとは自覚できなかった。
もちろん、ヘレナの狙いは、『紅バラ組』を適度に利用することにあったわけだ。
しかし、『ミュータント』との『戦争』は、リーダーが自主的に決めたことだ。
「わいらの武器は、新型の対ミュータント用兵器じゃ。『組長』から、提供されたもんじゃ。あ~、けーを照射することで、きゃつらの戦闘意欲を消去させることができるんじゃ。そうなれば、捕獲して仲間として改造できるじゃろう。」
くっこは、『望遠鏡の様』な、筒状の武器を持ち上げた。
重さは、あまりなさそうな感じである。
「けーは、身体には障害を及ぼさん。精神的な闘争心を消去するだけじゃ。味方に向けて、撃たんようにせぇ。つけぇーかたは、こうじゃ。」
くっこは、捕獲していたミュータントの個体を引っ張り出させた。
それは、アンジであった。
「ここのスイッチを押しだすと、ロックが外れる。それから、ここが発射スイッチじゃ。簡単。しかも、けーつは、ミュータント探知機にもなる優れもんじゃ。試してみるけん、よう見とれ。ふん、覚悟せえ、あんじ、おんどりゃあも、わいらの仲間になるんじゃ。」
演説台の脇に、人数分の武器が並べられてゆく。
ミュータント検知機能が働いて、くっこの手にある、その怪しい銃が『びゅわ~・びゅわ~。』と、うなっている。
しかし、くっこは、あんじを見くびっていた。
あんじが、自分から捕虜になったとは、考えてもいなかった。
その時、基地内の空間が突如として歪み始めたのだ。
『なんじゃあ!』
そこにいた『紅バラ組』の隊員たちは、おかしな、まるで『幻覚』の様な、視覚と聴覚の異常を感じて、立っていられなくなった。
あんじは、この基地全体を、異空間に移動させていたのだった。
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『あのお・・・ルイーザさん、ルイーザさん。』
「え?・・・ああ、これは、アニーさんね、どうしたの?」
演奏会はとにかく無事に終了した。
『ルイーザ第2王女』=『地球帝国総督』は、控室で休憩中であった。
「ヘレナさんが、隔離されました。」
「ああ・・・・そうですか。」
「それから、日本合衆国で、『紅バラ組』とサッポロに本部があると思われる、『穏健派ミュータント組織』が戦争を始めそうです。次元跳躍をしましたよ。そこに決戦の場を設定した様です。一般市民には、従って現状ならば、害はないと思われます。どうしますか? ほっときますか? 観戦しますか。それとも、ちょっかいを出しますか?」
「わたくしに、決めろと?」
「あなたしかいません。まあ、もっとも、あなたは、へレナであると言っても間違いじゃないですから。」
「そうね。いいわ。まずは、見に行きましょうほどに。」
「そうきましたか。観戦コースですね。いいでしょう。この程度の異次元世界ならば、アニーの掌握できる範囲ですから。おとなりくらいにしか、移動していないです。」
「まずは、着替えるから、まってくださいな。見ないでね。」
「アニーハ、イクラデモ、アナタノカラダハ、アカチャンノコロカラ、シッカリ、と、ミテオリマス。」
「でも、見ないで。」
「あい。わかりました。」
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************ ふろく ************
「引き続き、洋子さんです。」
「あのお。なんか、洋子さん、怖くなってきましたよお。洋子さんは、人間ですか?」
「こらこら、幸子さん、根幹にかかわる質問は、ご法度ですよ。」
「ほほほ。まあ、やましんさんのお気持ちひとつで、なんにでも変身するの。昔からそうでした。あまり、良い扱いじゃあ、なかったんです。世間からは隔離されてばかりだし、ちょっと外に出たら、まるで怪獣か化け物扱いだしね。」
「ええ~~~~! それは、また、可哀そう。まるで、幸子みたい~~。」
「そうですね。幸子さんと、共同作戦を打ちましょうか。」
「さんせ~~~い。」
「こらこら。勝手にやらないでください。あなたがたは、重要な脇役なんですから。」
「ぶ~~~! 幸子は、『準主役』、という約束です!」
「ああ、そうでした。もちろんそうだし、この『ふろく』では、幸子さんが主役です。」
「なんだか、仲間割れをさそっているなあ~~! やましんさん、ずる~~い!」
「ほほほほ。まあ、むかしからそうですのよ。」
「洋子さんの話かたって、『女王様』になんだか、似ているなあ。」
「まあ、姉ですから。弘子たちが、まねているのです。」
「もっと、奥が深そう~~~~~。」
「ああ、いやあ。良いお話でした。今日はここまで。」
「え? ここからが、大切なんですよお~~~。」
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*************** どこかに、つづきます ***************




