わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百三十五回
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洋子の部屋には、弘志が呼ばれていた。
「あなた、大切なご自分のお姉さまと、本当に戦う気持ちがあるのですか?」
弘志は、ごっくんと、何も無い何かを飲み込んで答えた。
「雪子から、沢山話を聞きました。戦うと言うよりも、これは、弘子お姉さまと道子お姉さまを解放する闘いです。そうすれば、友子もきっと解放されるだろうと思うのです。そうして、最後に、洋子姉さまも、きっと。」
「ふうん・・・・これはね、数億年に及ぶ因縁との戦いなのです。簡単に図式化は出来ません。誰かが悪で、誰かが善だと判断も出来ません。なにしろ・・・火星人と金星人の永遠の争いごともからんでいます。そのふたつが、女王を相手に共同できるかどうか、も重要なのです。しかし、一定の結論を得るべき時は来ました。間もなく、金星の『空中都市群』が、この宇宙に戻って来ます。松村の家は、二つの勢力の対峙する最前線なのですもの。それが、長年仲良く寄り集まって生きてきました。」
「火星人の意識を直接継ぐものが、ヘレナお姉さまなんだね。そうして、ビューナスの末裔が洋子お姉さまなの?」
「はあ・・・そうね。そうして、あなたもよ。いい?あなたは、金星人の子孫だから。偉大なビューナス様のね。それでけっして間違いはない。一方で、火星人の意識は二つの勢力に分断されている。『女王の意識』と、その『分身たち』の意識とにね。ヘレナやルイーザは女王の意識の『籠る肉体』であり、雪子は『女王の分身たち』の魂の『籠る肉体』なのです。私やあなたは、おっしゃるように、ビューナス様の『お籠り先』なのです。しかし、その根源を辿れば、みな『女王様』から派生したもの、あるいは女王様によって、作られたものです。」
「じゃあ、結局は、女王の『独り相撲』なわけですか?」
「まあ、そうなのですが・・・。しかし、いったん独立したものは、操っているようでも、いつの間にか隙間が入るものなんですね。ただし・・・・」
「ただし?」
「これだけがすべての関係者ではありませんけれど。」
「宇宙警部とか?宇宙怪物なんとか、とか・・・」
「それもそうです。しかし、どうやら、我々が、これまでまったく気が付いていなかった、未知の存在があるらしいということが、ここに来て少し、分かってきました。まだはっきりはしません。もしかしたら、それは一種のエコーかもしれない。実体のない影のようなものです。けれども、恐らくそうではない。もしかしたら、女王をも操っている、もっと絶対的な存在かもしれない。女王は、さらにその上の何かの分身かもしれない。でも、違うかもしれない。」
「その、わからないやつとも、戦いになると?」
「そうですね。まあ、始まって見ないとね。まだ、最後はまったく見通せません。あなたも、タルレジャ教徒だから、『真の都』のことは知っているでしょう? あれは、空想ではない。でも、その真の姿は、それこそ女王様しか知らない。『真の都』、ここに大きなカギがあることは間違いがないと、私は思うのです。でも、見えないその未知の存在と、どう関係しているのか、まったく関係ないのかも、まだ分からない。まず、我々の当面の目標は、女王本体を追放することです。そうして、分身たちを宇宙に解放するのです。で、火星人と金星人の和解と、地球人の仲間入りを実行するのです。そうして、この太陽系が、ついに平和裏に統一されます。」
「じゃあ、分身たちは、どうするのですか? 女王と同格に近い力があるとか。ならば、すぐに新しい女王も生まれるのでは?」
「みな、この銀河系宇宙からは去ります。そういう約束ですが・・・全員と直接約束をかわしたわけではないですから、・・・まあ、実際どうなるかは、まだ確かにわからないのです。」
「洋子姉さまは、分身とつながりがあるのですね。それでも、結局、やってみなければ、分からないと言う事かな。」
「まあ、そうですね。不毛の戦いかもしれない。でも、やるしかない。このままでは、火星も地球も金星も、いつまでたっても、なぞの怪物に占拠されたままになるのですもの。」
洋子は、分身とのつながりについては、あえて答えなかった。
「『ダレル』とか、『リリカ』の立ち位置はどこなのですか?」
「あの二人は、女王派です。なんだかんだと言ってもね。いつも反目しているようだけれど、うちわの喧嘩にすぎません。」
「内部の路線対立ですか?」
「まあね。親子喧嘩、兄弟喧嘩と言った方が良いのでしょう。」
「はあ?????」
「まあ、いずれにせよ、弘子や道子本人は、我々の仲間ですが、その中身は敵なのです。ただし、道子に取りついている分身は、まだ新しい分身で、我々との共同は難しいでしょう。」
「あのお、姉さま、はっきり言って、まだ、ぼくにはよく分からないよ。どうも、ピンとこないんだ。まだ、きっと知らないことがいっぱいあるんじゃないのかなあ?」
弘志は、まだ姉が隠していることがさ、たくさんあるに違いないと読んでいた。
「ええ。そうでしょうとも。まあ、でも、簡単に言ってしまえば、全能の女王と、それ以外のモノの戦いと言うわけなのです。でも、それ以外はそれ以外で、それぞれ主導権争いをしている。ただし、この先、宇宙警部と怪物ブリューリは、おそらくどちらの側にも当面付かないでしょうね。ここは、要注意なのです。あなたはすでに、その相手と接触し協力を依頼した訳ですね。」
「やっぱ、まずかったかなあ?」
「いいえ。そんなことはないですよ。ときに・・・・」
洋子は、話しを移動させた。
「はい?」
「あなた、自分が『両性具有者』だと、分かっていたかな?」
「はあ!!?? あの・・・・弘子姉さんに、強制的に、女の子にされたりはしたけど・・・あ、これは、秘密事項で・・・。」
「いいのよ、しゃべって問題ないわ。強制的にねぇ。・・・弘子は、あなたの認識していない能力を刺激していただけ。実際は、あなた自身の能力で性転換していたわけなのよ。雪子は、上手に、そこを利用しただけだと思うわ。」
「じゃあ、僕の意志で、女の子になることが、可能なんですか?」
「本来は、そうなんだけれども、なぜか、あなたは自分では力を使えない状態みたい。かかっているカギを、自分で外せるようにしなくてはならないみたいね。そこがよくまだ分かっていない。雪子が、それは探している。」
「できるんですか?」
「まあね。自分で、やりたい?」
「ああ・・・・いやあ。やはり、いいです。化け物になっちゃうような気がする。」
「化け物じゃあない。生物としての、ひとつの形態だもの。女の子でいることを、男の子でいることを、対等なものとして、自分でうまくコントロールできれば、役には立つわ。女子化だけなら、雪子に頼んだらいいわ。ただし、妊娠したりしたらやっかいよ。そうなったら、あかちゃんを、ちゃんと生んでしまうまで、元には戻れないから。いい、あなたは、ビューナス様の力を受け継ぐ人よ。その力を解放するカギが見つかれば、あなたはものすごい存在になるわ。」
「はあ・・・・・いやあ・・・そんなこと、考えもつかないな。気持ち悪いや。」
「姉さんはね、本当はみんなで仲良くいつまでもやって行きたい。弘子の中のこの世の物ではない化け物がいなくなれば、また、その分身たちも、いつ消されるかわからないと言う恐怖から解放されれば、やがて、すべては終わる。まあ、宇宙警部さんとか、いくらかの変数はあるけれども。もちろん、出来てしまった『地球帝国』のこともあるけれど。まあ、こうなった以上、また分裂するのか? 戦争を始めるのか? もっと、かしこく振舞えるか?そこのところは、私たちが、人類を主導する必要があるかもしれない。それは、『松村家』の力と言うものよ。でも、あなたの真の力が使えればね、女王に対抗する大きな戦力となるわ。ビューナス様には、未知の力が多かったとも伝わるでしょう?。あなたのなかには、きっと、その巨大な能力が眠っているの。」
「はあ・・・もう、危険がいっぱいという感じだなあ!・・・ああ、そうだ、あの、『教母』さまは?」
「そうね。あのかたは、どうやら、弘子さんの中の怪物にとって、とても大切な人らしい。」
「ふうん・・・・姉さんが今度『教母さま』になったら?どうするんだろう?それと、シモンズさんは?」
「さあねぇ。そこは、私にはわからないわ。それから、その彼はね、普通の人間よ。天才ではあるけれど。ま、大きな害にはならないでしょう。」
洋子は、シモンズを重要視はしていないらしい。
「ぼくは・・・」
「うん?」
「あ・・・いや、まだ、いいです。」
「・・・あら、そ!」
こうした言い方は、確かに弘子と洋子は似ているところがある。
弘志は、シモンズとの約束に付いては、どうも話すことが出来なかった。
『いいかい、君は、地球奪還にとって、重要な人物になる。くれぐれも、慎重にね。たとえ身内であっても、あまり信用しすぎないことが肝要だと思うよ。君の兄弟姉妹たちは、みな普通じゃない。各自がそれぞれに、なにかの秘密を抱えていて、それぞれの立場はきっと同じじゃないんだ。全員、敵どおしかもしれないくらいだよ。気を付けるんだよ。特に、いいかい、一番上のお姉さんは、絶対にただ者ではない。はっきり言ったら気の毒かもしれないけど、人間であるとは言えないのかも、だよ。正体がまったく分からないんだ。ただ、他にもし、家族内に君の絶対の味方がいるなら、その絆はすごく大事かも知れない。ぼくはね、あくまでも、地球人類のために動くんだ。君もそう思うなら、協力してほしい。でも、今は、ぼくはヘレナの部下をやってる。それは、あくまで『地球人』のためになんだよ。『虎穴に入らずんば・・・』という君たちの諺の通りをやってるわけなんだ。同様に、ダレルやリリカは、火星のために動いているんだ。そこをよく考えて。ぼくはね、場合によっては、『対女王』と言う立場でなら、火星人と協調できる可能性だってあると思ってるんだ。』
弘志は思う。
洋子姉さんが言うところによれば、自分は、『金星のビューナス』の子孫だと言う。
『ビューナス』の事は、タルレジャ教の『経典』に謳われているから、信徒ならば、みな知っている。
巨大な超能力を秘めながら、『光人間』の創造半ばにして、『真の都』に吸収されたと言う。
それが、宗教上は『事実』だと言われるが、今の時代にそのままを信じている人間は、さすがに少ない。
しかし、こうなると、誰が誰の味方なのか、何が真実なのか、もう、さっぱりわからないが、弘志は、結局のところ、自分の道は、自分で見出すしかないんだろとう、と考え始めていた。
シモンズが言う、『地球人類の為に』ということ自体も、そう簡単な意味合いではない気がしてきていた。
また、この謎ばかりの一番上の姉が、実際に、どこまでの真実を知っているのか、結局、姉は何なのか、まだなにも分かっていないかったのだけれども。
『姉さま、あなたは、実は、なんですか?』
本当は、いますぐ、そう聞くべきなのだろう。
弘志は、今の今まで、それは我慢してきた。
けれど、ここまでに至ったら、聞かなければならないと、とうとう決心したのである。
だから、そう尋ねた。
洋子は、しばらく黙ってしまった。
それから、こう、回答した。
「あなたの、姉です。」
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