わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百三十二回
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ルイーザ(『地球帝国総督』=『タルレジャ王国第2王女』=『タルレジャ教第2の巫女』)は、聴衆にあいさつを行った。
「『第1王女様』は、緊急のご用件にて、急遽お帰りになりました。皆さまに、大変申し訳ないと申しておりました。しかし、いたしかたのないことです。そこで、皆さまには、わたくしが、たっぷりと演奏をお贈り申し上げます。どうか、お聞きくださいませ。」
一部で『おわ~~~??』という声もあったが、大方は盛大な拍手で迎えたのだ。
20世紀以降のヴァイオリニストに、巨大なレパートリーを用意してくれたのが、クライスラー氏である。
氏の功績は誠に大きく、そのおかげで、多くのヴァイオリニストが生活の糧を得ているわけだ。
『第2王女』は、今夜、クライスラー氏の作品をたっぷりまとめて用意していた。
CD一枚分に相当するくらいの分量である。
つまり、約1時間に及ぶものだった。
もともと、『第1王女』と二人で分担するつもりだったものを、ひとりでぶっ続けに演奏する。
大変な体力が必要である。
音楽は一般的に『文科系』と考えられているのだろうけれど、こと楽器の演奏は、むしろ『体育会系』に分類したほうがよいくらいの『肉体労働』である。
クライスラー氏の音楽は、大変気が利いていて、聞く側にはじっつに楽しいが、弾くのは、けっして簡単なものではない。
ルイーザは、しかし、軽々と弾いてしまうのだ。
緊急ピアニストの男性は、ここが勝負とばかりに、最初、やや気負いがあった。
「先生、あまり緊張なさらないで、気軽に行きましょう!」
『王女様』から、しかも、いまや、地球帝国ナンバー2の『総督閣下』から、『先生』と呼ばれたこともあり、彼はぐっと腹に力を入れた。
根性を固めた訳である。
すると、なんとなく気が楽になった。
2曲目からは、自然体で臨めるようになったのだ。
1曲目は『愛の喜び』。
2曲目は『愛の悲しみ』。
聴衆は、大いに喜んだのである。
そうして、3曲めの『ウイーン奇想曲』が始まったのであった。
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シモンズは、『第1王女』が拘束されたことを、アニーからすぐに知らされた。
『シモンズさん、なんとかしてくださいよお!』
アニーは、コンピューターらしくなく訴えた。
「あのね、アニーさん、それは君の役目であって、ぼくの扱う範疇じゃないよ。ダレルさんに交渉するのが一番だ。」
「しましたよ。とっくに。でも、相手にしてくれないです。ダレルさんを強制する権限は、アニーには無いです。ヘレナさんから禁止されています。」
「ふうん。そのことを、ダレルに言ったのかい?」
「もちろんです。ヘレナさんの親心です。でも、軽くあしらわれました。あの二人は、ちょっと普通の親子じゃあないですから。」
「じゃあ、しょうがない。ぼくは、その『異次元監獄』なんて、探せないよ。」
「弘子さんの機械がありましたよね。」
「む。いやあ。あれが使えるはずがない。使えるくらいなら、ヘレナができないわけがない。」
「弘子さんは、天才ですよ。ヘレナさんが出来ない事を可能にする可能性は、十分あります。」
「ぼくも、天才なんだけどね。この機械、まだ解明できないんだ。」
「仕組みはわからなくても、使えればいいんですよ。」
「ふうん・・・・ね、アニーさん、ちょと待ってくれないかな。」
「まあ、アニーは、いいんですけどね。」
「うん。ダレルを騙す必要があるんだから。」
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「お姉さまは、確保したか?」
ヘネシー皇帝は、コンピューター『カイヤ』に尋ねた。
『はい、すでに王宮に向かって護送中です。間もなく到着されるでしょう。』
「そうか。ダレル様が、厳重に保護すると申されておる。わしは、姉上を生かさなねばならぬ。そうして、『皇帝』の座を譲らねばならぬのじゃ。それが、わしの務めなのじゃ。」
ダレルとジャヌアンに操られたままのヘネシーが言った。
『はい。『第1王女様』のお命を狙っているものがあることは間違いがありません。しかし、その正体はまだ解明できません。『ミュータント組織』であることは、確実である、と思われますが、既知の団体ではないと考えられます。』
「自爆したエージェントはまだ見つからんのか?」
『防衛隊が探していますが、深海に沈んだので、なかなか難しいです。ミュータントが回収した可能性も否定できません。』
「帝国は、各国に捜索を要請したのじゃろうが。」
『はい。アメリカ国も、日本合衆国も、艦艇を出しました、いずれ、時間がかかりそうです。』
「むむ。『火星側』の協力を依頼すべきじゃな。」
『陛下、それを狙っている人物がいる可能性があります。慎重になさるべきでしょう。』
「例えば、だれじゃ?」
『例えば、『日本合衆国首相』。彼は、『火星人』の正体を確かめようと考えています。』
「ふん。取るに足らぬじゃろうて。」
『甘く見てはなりません。日本合衆国政府の後ろには、マツムラ・コーポレーションがいます。あの会社は、何を考えているか、分からないところがあります。もちろん、王国の後ろ盾でもありますが。』
「わしは、一応、松村家の娘じゃ。姉上ものう。」
『ああ、失礼いたしました。』
「いや、よい。しかし、そなたは、本当にコンピューターかのう? いかにも人間的じゃ。」
『間違いなく、コンピューターです。しかし、人格を持つ『将来型』のコンピューターです。』
「わかっておる。姉上とは、繋がってはおらぬと、誓ったであろうが。」
『はい。その通りです。』
「ならば、よい。あの『地球そのもの』に会いに行くぞ。」
『わかりました。準備いたします。』
皇帝は立ち上がった。
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『ブリューリ』は、自らの罪を、すでに自覚していた。
なぜ、ああなったのかも、よく考えてみていた。
自分は、本来、いったいなにものだったのか?
そこから、始める必要があった。
まだ、禁断症状が、抜けきってはいないらしい。
『火星』から解放された時点では、自分は、『怪物』のままだったと思う。
しかし、地球に潜入して以来、急速に自らを拘束していた、何かの呪いが砕けたように感じたのだ。
ヘレナが撒いた、新しい『抗ブリューリ剤』が、有利に働いたようだと、ダレルは言う。
「予想外の効果があった。」
と、彼は言うのである。
「それでも、ヘレナには復讐するべきだ。」
そうも、進言された。
自分を、あのような恐ろしい怪物にしたのは、誰だったのか?
そこが、問題なのだ。
『火星』の閉ざされた歴史では、自分が、当時開明的で優秀な指導者であった『女王』を取り込んで、怪物に仕立て上げたことになっている。
自分でも、そう考えて来ていたのだ。
しかし、遠い過去の記憶が、少しずつ蘇ってくる。
自分は『宇宙警察』の警察官だった!
ようやく、そこに行き当たったのだ。
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************ ふろく ************
「やましんさん、世間はお休みですよお。」
幸子さんが言うのです。
「やましんは、ずぅ~~~~~~~っと、お休みですよ。」
「でも、書いてるじゃあないですかあ。」
「収入がゼロですから、これは仕事には当たりません。」
「じゃあ、やっぱ、失業中の、おじさんかあ。」
「働きに出る意思がないので、雇用保険法とかの『失業』の意味には当たりません。」
「食べられなくなたら? じゃあ、どうすんですかああ!」
「ま、野垂れ死にです。」
「はあ・・・・・女王さまに、助けを求めましょう!」
「あの人は、『自らを助けるもののみが救われる』の主義ですからね。」
「『働かざるもの食うべからず』とか、人間は言いますよね。」
「そうそう。まあ、またく働いてないわけじゃあないけど、働いていると言う範疇には入らないんですよ。」
「人間の世界は、難しいなぁ。幸子、人間は無理!」
「まあ、そうでしょうなあ。」
幸子さんが、いやあな顔になりました。
幸子さんだって、今は女神様だけれど、昔は、人間だったんですからね。
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