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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百三十一回


   ************     ************



 曲はいよいよ最終場面にさしかかっていた。


 カール・ニルセン氏独特の、いくらかニヒルな音程感で構成された舞曲調の終曲部分である。


 今夜のプログラム前半の、シベリウス氏の協奏曲ほどには音の跳躍が激しくないが、また一方で、近代的な客観性は一切手放さない。


 第1楽章よりも、むしろ一見地味な感じの音楽なのだが、演奏はやはり、大変に難しい。


 けれども、ルイーザは、最後まで絶好調だった。


 絶好調と言うよりも、明らかに人知を超えるような演奏、と言った方がよかっただろう。


 聴衆にすると、シベリウス氏の協奏曲ほどには、まだ耳に馴染んではいないと思われる音楽である。


 まして、この一年中、暑いタルレジャ王国とは、かなり異質な音楽だとも思える。


 けれど、ルイーザにとっては、そうした環境的、文化的な壁と言うものは、まったくないに等しかったのである。


 彼女の、あまりの迫力に、聴衆は圧倒されてしまったのだ。


 突然の終末。


 これも、いかにもニルセン氏らしい終結である。


 ホールが爆発するような拍手が巻き起こったのは当然だった。


「いやあ、やっぱり、王女様とか、総督閣下なんて、もったいないことだ。」


 妻の前で、言ってはいけないセリフなことは分かっていたが、教授は、はっきりそう言った。


 妻には聞こえたはずだが、反応は皆無だった。


 総督閣下そのものを賞賛した言葉だから、「あれはいいのよ」、とは、あとでホールを出がけに聞かされたことだ。


 本割の演奏は、ここまでである。


 しかし、このふたりが演奏会をする際は、ここからが言ってみれば本番のようなものだった。


 聴衆が大好きな、ポピュラーでアクロバティックなヴァイオリン曲を、たくさん聞かせてくれることが通例だからである。


 その姿が、抜群な人気を誇っていたことも事実だが。


 もちろん、今夜の聴衆も、そのつもりだし、本人たちもそう考えていた。


 しかし、『地球帝国警察』は、誤りを犯した。


 彼らは、王女様たちの音楽に関して、あまりに無知だったのだ。


 『第1王女』は控室に戻ったところを、拘束された。


 『第2王女』=『地球帝国総督』はその場で抗議したが、『皇帝陛下の指示である』と言われてしまうと、それ以上の対抗措置は取りにくかった。


 さらに『第1王女』は、あっさりと妹に、こう告げたのである。


「あと任せたから、ふたり分、弾きなさいね。」



  **********   **********

 


 ふたりの演奏会には、緊急事態に備えて、常に控えのピアニストが待機していた。


 その役割は、現在のところ、3人の若いピアニストで構成されたメンバーが受け持っていた。


 女性がふたり、男性がひとり。


 もっとも、彼女や彼が、本来の意味で登場したことは、まだ一回もなかったのである。


 それでも、いつも、アンコールで、王女様がふたりでデュオをする際には、必ず登場をして伴奏をする。


 それだけでも、彼女や彼にとっては、計り知れない利益がある。


 まあ、それなりの収入もある。


 もちろん今夜も待機して準備していた。


 もちろん、アンコールで演奏されるすべての曲を、いつでも完璧に伴奏できるようにしておく必要がある。


 そうして、この王女様お二人の『婚約記念演奏会』という大舞台で、たまたま順番に当たっていた『彼』は、大チャンスを得たことになる。


 いずれにしても、『帝国警察』は、発足直後に、さっそく思わぬ大失態を演じることとなった。


 パブロ議員は、彼らに同行していたおかげで、これまた意図してはいない事項で、批判の対象者になってしまった。



 ************   ************



『ヘレナさん、ヘレナさん。』


「なあに、アニーさん。」


『いいんですか、逮捕なんかされちゃって。』


「逮捕じゃなくて、保護だって。飛行中に爆破されるわ、それになんでも、誘拐予告があったとか。だから、あたくしの身の安全を図るのだとか。」


『悪魔とか、魔女とか言われるヘレナさんを、檻に入れとくだけでしょう。』


「まあ、うれしい。アニーさんが褒めてくれるなんて、何千万年ぶりかしら。」


『もうすこし近いです。でも、ダレルさんが、付箋のついてない『異次元監獄』を用意してますよ。今回は改良版みたいで、入れられると、アニーさんにも探せないですよ。それと、今確認した情報ですが、武さんも捕獲されましたよ。』


「はあ。鬼の目にも涙、お上のお情けとかいうものね。」


『さっさと、逃げちゃったらいいでしょう。後は弘子さんに任せて。』


「ふうん。そうね。ところがね、困ったんだなあ。」


『何が困ったんですか? ヘネシーさんは、きっと、あのままでは自決しますよ。アニーは、そう見ました。』


「それは、させないつもり。絶対ね。でもね、ダレルちゃんは、そんなこと先刻わかってやってる。何を、企んでるんだろう。どうも、そこの最後のところが、まだ読めないんだ。しかも、誰かが邪魔に入ってる。・・・実はね、なんだか、この体から抜けられないんだなあ。」


『はあ?・・・・・そんなこと、あり得ないでしょうに。この宇宙誕生138億年、そんなことはなかったでしょう。』


「まあね。そう思っていた。ねえ、アニーさん。」


『はいはい、ヘレナさん。』


「あたくし、偽物かもしれないわ。」


『へ?』


「自分ではホンモノと思っているだけの、間抜けな分身だったのかも。」


『いやあ、それはないですよ。アニーはずっとあなたを補佐してきている。まあ、基本的には、あなたの分身の命令にも従いますがね、それでも分身かどうかは分かりますよ。あなたは、分身じゃない。』


「いやあ、そういうレヴェルのお話じゃあないんだなあ。これが。」


『いやあ、わからないですよお。何、言ってるんだか。大体、脱出できないというのは、アニーの理解の範囲外です。あなたは、通常の物質に意志の影響は与えられるが、その物質自体の影響は受けないのが基本です。ありえないですよ。あなた、どっちかと言うと、人間よりも悪霊に近いんだから。』


「まあ、ありがとう。褒めてくれたんでしょう?」


『じゃあ、仕方ないから、弘子さんごと移動させましょう。武さんもついでに。』


「そうね。いったん、雲隠れと行きますか。あたくしの部屋に運んで。」


『了解・・・・・あれ? ・・・・・あらら・・・・・・』


「どうしたの、アニーさん?」


『上手くゆきません。なぜだろう? あり得ないです。妨害されてます。まったく未知の力です。対応不能。こりゃあ・・・・・・あきらめてください。必ず探し出しますから。』


「はあ・・・・まあ、ダレルちゃんと話してみるわよ。どうせ、いやみを言いに、出てくるでしょうから。」


『ああ、それと、『紅バラ組』が、戦争を始めそうですよ。穏健派が突如、好戦派に変身です。これも、誰かが影響を与えています。やはり、それが誰かは不明ですね。』


「ふうん・・・・可能性があるのは、まずは、あのふたりね。」


『だれですか?』


「洋子お姉さまか、あたくしの分身さんか・・・・他にも、まだ知らない誰かさんを、見過ごしている可能性はあるわね。」


 ヘレナは、実は万能ではない。


 アニーは、珍しく、そこのところの計算が、さらに必要になってきていた。


 フル稼働しなければならない。


 アニーがフル稼働すれば、その本体である太陽系の惑星には、それなりの大きな負担がかかるけれども。


 このようなことは、ビューナスの出現以来のことである。





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