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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第十三章 


 ミアの本名は、美亜子なのだけれども、いまどき「子」が付くのは古いと周囲から言われ、勝手に削除されてしまった。

 猫の子のようだけれど、本人が気に入っているので、問題はなかった。

 それを言えば「弘子」はやっかいだった。

 道子は「ミッチ!」で決まってしまったのだが・・・。

 「ヒロ」や「ヒロちゃん」では、男の子みたいだ。

 「ヒロポン」では麻薬のようだし、やはりかわいらしくない。

 「ひろっぺ」というのもあったが、大半の生徒は、恐ろしさが先に立って使わなかった。

 「島のおひろ」などという恐ろしい案もあったが、(実家がある場所は、昔から「広島」と地元で言われていたので)採用にはならなかった。

 王国での本名がよいのでは?という事から「ヘレナン」「ヘレちゃん」とか、呼ばれたこともあるが、どうもしっくりいかなかった。

 「王女様」は、本人が断固拒否していた。

 見た目がトロピカルな美少女で、いつも素足なので、結局「弘子」は「ヒロ・コ」でよいというところに落ち着いていた。


 この学校には、制服はあるが、着用は入学式とか卒業式の時など以外は自由であり、最終的には「買わない」自由も認められていた。必要な時には「レンタル」すればよい。それもレンタル料金は「寄付」であり、経済的、あるいは思想的な問題や異議がある生徒などは支払う必要も、強制的に着用する必要もなかった。

 まあ要するに、基本は「自由」という事だった。

 ただし、主張するなら、「はっきり言いなさい」、とされていたが。

 このあたりが、この学校の考え方の基本線なのだ。


 道子はめったにしなかったが、弘子は時たま派手な民族衣装で登校してくることがあった。

 これは、王国の「民族派」や「原理派」に配慮した行動なのだろうと言われていたが、本人は一切認めてはいなかった。

 意地悪なマスコミには、「フアッションですの。」と、答えていた。

 第二王女様は、どうしてめったに着ないの?などと聞かれると、道子(第二王女)は、『めんどくさいからですわ。』と、あっさり切り捨てていた。

 実際、道子はいつも地味なので、筋道は通していたのだが。


 話が長くなるが、この学校のクラス編成は、これまた変わったものだった。

 クラスによって、形態が違うのだ。

 普通のこの国の学校の様なクラスもあり、変わった格好の机を囲むクラスもあったし、先生が真ん中に入っているクラスもある。

 人数は、基本的に小規模教室だったが、最初しばらくは、本人が各クラスを回って「お試し」をする。

 それから、生徒、保護者、先生、さらに専門のカウンセラーが入って話し合いをし、本人に適した「クラス」を決めていた。

 上手くゆかない時は「配置換え」などというものも、ありえたが、そこにはそれなりの関門が設けられていた。

 要は、本人の学習状況や特性を生かしながら、さらに延ばす方向で、皆で考えるようになっていた。

 しかし、この国の社会状況には、あまりそぐわないという批判もあるにはあった。

 与えられた社会環境に、ぴっちり合わせられる人間でなければいけないという事からだ。

 この学校の卒業生は、個性的すぎて、生意気で、気に入らないという声も結構あった。

 しかし、最近はこうした個性を伸ばす教育が「有益」と見做す企業も多くなってきていた。

 この学校の卒業生からは、びっくりするようなアイデアが、多数飛び出してくるというのだ。

 何かと中学校では「落ちこぼれ」とか言われたような生徒が、ここで急成長するケースも多かった。

 

 一部のオカルト趣味の業界人からは、「宇宙人」が背後にいるのでは、といった根も葉もない、生徒を傷つけかねない、ひどい中傷が出てきたりもしていたが、まさか、本当に地球が火星人に征服されると考えていた人は、いなかったのだ。


「ミア、ごめんね、遅くなっちゃった。」

 弘子はミアに謝罪をした。

「もう、来ないかもしれないと思ってた。」

 ミアは、もう、かなり泣きそうな顔で答えた。

「とにかく、アンジの様子を見て。そうしたら、絶対普通じゃないことがわかる。」

「わかった、じゃあ、学校引けたら、喫茶室で。」

「うん。あの、普通に話しても、いいのですか?」

「はあ?当たり前です。」


 弘子は、いつものように洗い場で足を洗ってから、素足のまま学校に入った。

 王国では、こうした風景は普通である。

 学校に、裸足で行くのも、ごく普通のことである。

 熱帯のタルレジャ王国では、あまり無理のない自然な風景だったのだ。

 しかし、冬場のこの国では、ほぼ荒修行となる。

 これは、王女様だからではなくて、巫女様だからという事に尽きるのだったが。

 もっとも、冬場ではなくても、今のこの国では、もう普通の光景ではなくなっていたのだが、そこはみな事情は承知していたのだ。


 弘子のクラスは、「スタンダード・タイプ」である。

 アンジも同じクラスにいた。

 「アンジ」というのは苗字そのままである。

 「安司」さん、なのだ。

 町内では、松村家と並ぶ名門である。

 自宅は、松村家とは違って、平地に建つ豪邸である。

 古くからの商人の家柄で、彼女は、三人兄妹の末っ子だった。

 どちらかと言うと、まあ名門ではあるが、経済的には明治維新後に、やや危ない軍事産業も営みながら、(王国側に引っ張られたことも大きいが)ぐんぐん成長した松村家に比べて、古来格式の高い家柄とされてきた。

 ただし、松村家はタルレジャ王国の王家とのつながりが昔から深かったという特別な事情があったが。


 アンジの席は、いつも一番前である。

 無口で、滅多に表情を出さないアンジが、なぜ常に先生の真ん前なのかは、一種の「なぞ」とされていた。

 これにはこれで、事情があったことは事実なのだか、先生方以外には、知られていない「個人事情」だった。生徒たちには、少し視力が良くないので、とされていたが。

 実は、本人にとっては、この場所が一番良かったのである。

 つまり、前方には、人がいない方が彼女は安心ができ、精神的な安定も確保できたのだ。


 弘子は、アンジが悩みを打ち明けられる唯一の存在だった。

 王女様だからということは、関係がないこともなかった。

 巫女様だから、と言った方が良い。

 確かにアンジの両親は、真面目なタルレジャ教徒だった。アンジもそうだ。

 このあたりの、両家の歴史的な事情と言うものも、実は、あまり簡単ではない。

 難しい「いきさつ」というものが、実際あったのだけれど、それは、子供たちが立ち入るような問題でもなかった。


 アンジはよく、教会の相談室に来ていた。

 弘子は・・・第一の巫女は、基本的には話を聞くのが仕事であり、あまり沢山なことを教示したりはしない。言ってもせいぜい一言か二言だ。それも、精霊が語るところの言葉である。

 けれども、第一の巫女の存在感は、信者にとっては抜群である。

 東京に居ながらにして、本来は王国にいるはずの「第一の巫女」に直接触れられるのは、奇跡に近い事だった。しかも期間限定である。

 アンジは、そう言う意味では恵まれていたともいえるのだった。


 この建物は、非常に天井が高い。明るい光が、天窓から入って来る。

 アンジは、もう席に着いてた。 

 いつも、朝一番に来て、いつの間にか、いなくなってしまう。

 弘子は、アンジの横に来て、声を掛けた。

「アンジ、長い間御免なさい。今夜、来る?」

「・・・・・8時に。」

「わかった。」

 会話はそれだけだった。

 

 弘子の席は、一番後ろである。

 これは、指定席ではなくて、席替えで普通に移動して行った結果である。

「弘子様、あの、話しかけてもいいですか? 陛下に、殺されたりしないですか・・・」

「はあ?そりゃあもう、大丈夫です。」

「・・・あのね、アンジはかなり異常だからね。超常現象が起こるの。」

「はあ?なんだそれは?」

 となりの席の「くっこ」が言った。

 国友こずえ、なので、「くっこ」である。

 ミアは、アンジのすぐ後ろに座っている。 

「まあ、見ててごらんなさいですよ。みんなビビってるんだから。弘子様が来るのを、待ってたんだから。」

「なによ、それ?」

 

 そこで、担任の山鹿先生が現れた。

 彼女は、実は帰国子女であり、アメリカ国で高校の途中まで教育を受けた人である。

 この国の教育には、どうしてもなじめず、大学は、また国外に出てしまった。

 だから、本人自身が、色々学校では苦労した経験を持っている。

「おはようございます。お、なんと、弘子さんが来てますね。」

 大きな拍手が起こった。

「『宇宙風邪』でやられてる人は、もう他にはいないかな?」

「いたら、来てませんよ、先生。」

「まあ、そうね。じゃあ出席取ります。儀式!」

「はあーい。」

「やめたらどうだ。クイ。」

 三癖くらいありそうな男子が叫んだ。「クイ」とは山鹿先生のあだ名である。

「儀式と言うものは、きちんとやって、初めて意義が出るのです。赤浦さん。」

「はい。」

「安司さん。」

「は、い。」

「内友さん・・・・・・」


 超常現象が起こったのは、すぐその後だった。


 ************   ************


「ぎょわー! あ、あ、あ、ひ、弘子様・・・・・!」

 くっこが悲鳴を上げた。

 それから、クラス中の女子が叫びだした。

 男子の多くは立ち上がって、弘子の上を凝視している。

 山鹿先生は、教壇から降りて、弘子のところに駆け寄ってきていた。

「どうしたの?皆さま?うん?」

 弘子は、全員の視線を受けて、頭の上を見上げた。

『ぎょっ!』

 全長二メートルくらいの物体が、彼女の頭の上で逆立ちしていた。

 高い教室の天井から、ぶら下がっているような感じだ。

「核爆弾だ!」

 タカシ・・・さっきの男子だが・・・が言った。

 彼は武器マニアである。

「うそだろう?・・・幻覚、だよな。アメリカ国の核弾頭だ。」

 弘子は、そっと意識の手を伸ばして、その物体に触れた。

 明らかに実体がある。

『本物だわ。どこから持ってきたのかな・・・しかし、ここで爆発させるわけには行かない。くそ、起動してるわ。ちょっと下がったら、すぐ起爆するな。しかたがないか。片付けるしかないか。』

 弘子は、爆弾をはるかな宇宙空間にまで、放り上げた。

 前の席で、アンジがほほ笑んだように見えた。

「消えた・・・・」

「あらま、皆さまどうなさったのですか?」

 弘子がこともなげに言った。

「あなた、大丈夫・・・ですか。」

 山鹿先生が、ぽかんとしている。

 無理もない。

「あはははは。もう先生、みんな、どうしたのですか? 何かわたくしの顔に、付いてますの?」

「超常現象よ。これが。」

 くっこがうなった。


 ************   ************








 




















  






 

 

  

 

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