わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百二十八回
************ ************
王室から提出された(歴史上初となる快挙であった。)個人データとの詳細な検証には、いくらか時間がかかるということで、また、結果が出たからと言って、すぐにすぐ何かが決まるわけではない。
しかし、ここまで大掛かりにやって、『問題なし』となったらば、議員の政治家生命は危機に瀕することになるだろう。(秘密にすれば話は違うかもしれないが、それでは議員の立場を根底から覆すことになりかねない。)
『第1王女』は、政治に口出しできないのが建前ではあるが、今は『国王大権』が発動されたままであり、やろうと思えばなんでも可能だ。
唯一の歯止めは、『国王自身』と『皇帝陛下』である。
国王は、皇帝が拘束して『超軟禁状態』になっている。(秘密の場所に押し込めているのだから。)
実際のところ、これほど、易々と協力姿勢を示した以上、『第1王女』には自信があるのだろう。
ある意味、この資料の『分析』をどこまで追求できるかが勝負になるかもしれない。
パブロ議員は、思い切った方法を秘かに実行していた。
『皇帝陛下』じきじきに、『検査を指導していただけるように』と、直訴したのである。
議員自身は、『火星人』なんてほとんど信用していない点では、杖出首相と変わらないくらいだったが、少なくとも、彼らが超越的技術を持っている事だけは事実だと判断していた。
『皇帝陛下』とはいえ、議員にとっては幼少時代から知っている仲である。
その主張から言っても、王室の中では、異例の議員の『シンパ』ともいえる存在だった。
彼女の後ろには、『火星人』がいる。
なかなか面白い検査結果が出てくる可能性だってあるだろう、まあ、いくらか、そう期待してもいたのである。
ただし、この突発的な事態を、公表するかどうか、議員はいささか迷った。
もし、すべてを公表したら、『第1王女』の神秘性を、タダで高める手助けをしてしまうだろう。
しかし、隠してしまったら、自分のやって来たことは何なのだ?いったい? と、なるだろう。
結果が出てからにするか?
警部は、『慎重に扱います。皇帝陛下の権威を傷つけるようなことにはできないから、そこんとこ、よろしくお願いしたい。』と、あえて公表を急がないようにと要求してきていた。
「ふうん・・・・しかしだなあ・・・」
警部は、即公表、も、十分視野に入れていたのである。
そのほうが、もし失敗しても、最終的には自分が有利になるだろう、という読みも、実はあったのである。
もっとも、ふたりとも、どっちにしても、これらの技術全てが、実は『第1王女=火星の女王』に由来するものだと言う、肝心なことを見落としていたが。
********** **********
もう、くたくた状態でカタクリ教授がホールに戻った時、演奏会はまだ休憩時間中だった。
「むむむむ。あり得ない事だ。絶対にありえない。私は、あそこに半日以上いた。で、この休憩時間内に帰ってくるわけがない。時差があるはずもなく、光速に近い速度で飛んだわけでもないし、それじゃ話が逆だ。」
教授の奥さんは、不思議そうに尋ねてきた。
「あなた、どこにいらしたの? 急にいなくなるから、びっくりした。誘拐されたかと。電話も通じないし。警察に言おうかと思っていた。冗談じゃなくてよ。」
「まあ、拘束されていたことは事実だよな。ただし、『第1王女様に』だがね。」
「ええ~~~!! 『第1王女様』?」
「ああ、アムル先生といっしょにね。」
「まあ、アムル先生とですか。はあ・・・なら安心した。ひとこと言ってくだされば、こんなに心配いたしませんものを。」
「いや、すまん。急だったから。」
「まあ、そうでしょう。王女様とアムル先生ならば。」
教授の立場はよくわかっている奥様のことなので、それ以上は尋ねなかった。
************ ************
『第2王女=総督閣下』は、休憩時間中に、いったい何が起こったのかということについて、『姉ヘレナ=第1王女』からの意識による通報を受け取っていた。
「ま、お姉さま、ご勝手な行動をなさいますわねぇ。困ったもんだ。でも、あたくしは、今は演奏が第一ですわ。」
会場を覗き込んでみれば、『第1王女』がボックス席に帰ってきている。
何がどうなったのかは、まったく連絡がない。
ルイーザは、あえて尋ねると言うことは、ここではしなかった。
雑念は、頂きたくなかったからである。
「総督閣下! 準備はよろしいでしょうか?」
舞台監督が尋ねてきた。
「『第2王女』でけっこうです。今日は。」
「あ、では『第2王女様』スタンバイ願います。」
「はいはい。」
「おや、珍しく緊張気味ですかな?」
大指揮者殿が、ニタニタしながら、ルイーザをからかいに来た。
さすがは、大物である。
『第2王女』も『総督閣下』も関係なしであった。
彼の頭にあるのは、『音楽』だけである。
「はい、入ります。」
監督のゴー・サインだ。
「よっしゃ。」
大指揮者殿は、壁を叩いて「どうぞ」と言った。
ルイーザは、大切な楽器を抱えて、舞台に上がって行ったのである。
大指揮者殿は、それに続いた。
************ ************
************ ふろく ************
「ねえねえ、やましんさん、カール・ニルセンさんは、実在の作曲家さんですよね。シベリウスさんも。」
幸子さんが言った。
「はい、そうです。どちらも1865年生まれの、北欧最大の2大作曲家さんです。フィンランドのシベリウスさまの『ヴァイオリン協奏曲ニ短調』は、シベ先生唯一の『協奏曲』作品ですが、一方、デンマークのニルセン先生は、『ヴァイオリン協奏曲』のほかに、『フルート』と、さらに『クラリネット』のための協奏曲も書いています。非常に完成度が高く高度な技法を要求しながらも、音楽の安定性が強いシベ先生に対して、ニルセン先生は、割と進歩的で当時の新しい音楽の在り方を開拓していました。一番前衛的なのは、たぶん『クラリネット協奏曲』で、『フルート協奏曲』は、わりとロマンティックです。『ヴァイオリン協奏曲』が、その中間どころかな。でもこの曲のソロ・パートの楽譜を見たら、やましん、脱走したくなりますよ。」
「むっつかしい、ということ?」
お饅頭をむしりながら、幸子さんが言います。
「まあ、そうですよね。楽譜だけから見たら、ニルセン先生の方が、恐ろしい!」
「鬼のように?」
「ふうん・・・当たらずも遠からず、かなあ。」
「ふうん・・・・・幸子も聞きに行こうっと。・・・お話の中に入りまあす!」
「こらあ! 勝手に入るなあ・・・・・あ、いっちゃった。」
************ ************
「




