わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百二十三回
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『へレナさんヘレナさん。』
「なあに、アニーさん、もうすぐルイーザの演奏が始まるんだから、後にしてよ。」
『来ましたよ。パブロさんが会いたいと言ってきてます。』
「だ・か・ら。後にしてよ。」
『あのお、なんでも警官隊を引き連れて来てますよ。』
「はあ?」
『あなたを、誘拐容疑で逮捕したいそうです。』
「はあ? 何を根拠に?」
『証拠があるんだそうで、それを根拠に。』
「あたくしを警察が逮捕できるなんて、王室と教会が承認しなければ不可能です。大体、パブロおじさんがなんで、警官を・・・ああ、『皇帝陛下』が命じれば、話は別かな? 帝国の臨時警察が来てるの?」
『そうです。初の大仕事とか。あなたに会って納得できれば、帰ると。』
「はあ、そうきたか。待つ気はないとな?」
『ええ。間もなくそこに、使者が行き着くかと。』
「まったくもう。応接ルームは使える?」
『もちろん。予約リストに入れました。』
「あ、そ。あたくしたちが入ったら、すぐに次元閉鎖しなさい。誘拐してさしあげましょう。」
『こあ~~~~! 了解。』
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帝国臨時警察隊のお偉方が、すぐに控室にやって来た。
「はいはい。行きましょう。応接室まで、ご案内いたしましょう。あなた、いっしょにいらっしゃい。」
「は! 恐れ入ります。『第1王女様』。」
ヘレナは先に立って、速足で控室から出て行った。
古風ないでたちの警官が5人、その後に続いた。
このくらいならば、ヘレナはすぐに倒してしまえるが、それは、まあ、止めにしたのである。
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時間同士の関連性と言うものは、まったくないわけだったが、彼はもうすでに100年はこの『白い家』に住んでいるように思う。
虚無の空間の中の一軒家で、近所付き合いなどは一切ないし、誰からも指示はされないし、危ない事は何もない。
食事は、あれが欲しいと言えば、何でも食べられるし、飲みもの同様である。
聴きたい音楽があれば、とにかくそう言えば、誰かがどこかで見つけ出して、素晴らしいサウンドで聞かせてくれる。
読みたい本があれば、それも言えば、すぐにいつの間にか応接間のテーブルの上に現れる。
ただし、テレビとかラジオといった類いのものはない。
パソコンとかスマホもないが、それは彼が住んでいた村にも、村長室にしかなかったから問題にならなかった。
ちょっと体調がよくないと言えば、どこからかお医者様がやってきた。
ムヤマ先生という女医さんで、いい人なのだが、ここのことについてはあまり話してくれなかった。
ただ、王女様たちのかかりつけ医であるということは分かった。
それが唯一、現世との繋がりを示す事項だと言えた。
しかし、彼自身は、別に不満ではない。
自分は、図らずもスパイ行為を働くこととなった。
やむ負えない事情はあったのだ。
けれども、それが『第1王女様』に対する反逆行為だったとすれば、自業自得である。
むしろ、なぜこのような『豪勢』な形で生きていられるのかが不思議なくらいだった。
ただ、さすがに、ここではやることがなく、多少は何か仕事をしたかったから、中空に向かってそう言ったところ、庭に広い畑が現れた。
もう90年も前のことである。
イモ類とか、野菜類をたくさん植えた。
収穫したものは、一定の場所に置いておくと、いつの間にか回収されていった。
王国の『ドリム紙幣』が代わりに置かれていた。
しばらくすると、収穫したものたちが、立派な商品になってやって来る。
子供たちの、疑似お買い物ゲームみたいなものだが、十分楽しかった。
売り手はいないが、清算機が一緒にやってきていた。
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100年経っても、彼は歳を取らなかった。
ある日、再び『第1王女様』が現れた。
「もう、いいでしょう。あなたは100年間ここに拘留されていた。もう、ここからは出ましょうね。退屈でしたか?」
「いえ、とくには。農作業もあったし。」
「そう。この後、あなたには、新しい村に入っていただきます。すぐ、その村に、パプロ議員が訪問してきますが、さて、いまここで、言いたいことがありますか?」
「え?・・・・いえ、特には・・・・・」
「そうですか・・・・・義理堅い方ね。まあ、いいわ。じゃあ、こことは永遠にお別れよ、忘れものはないですか?」
「ええ。特には。」
「ここはね、『浦島太郎』の『竜宮城』の、逆バージョンみたいなものよ。あ、知らないかな。」
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パブロ議員は、ようやく、『第1王女』を追い詰める手がかりを得たと確信していた。
多くの、北島における失踪者の特定を我慢強く続けてきた。
内部の協力者のおかげではある。
もちろん、彼らの安全は図らなければならないが、『帝国』の出現は実に好都合だった。
『第3王女』自身が、自らこちらの味方に付いてくれたようなものだ。
しかも、最高の権力を持ってだ。
これならば、『第1王女』を拘束することも可能だ。
しかし、まあ、そうは言っても、王国民の間における『第1王女』の人気はさっぱり下がらない。
これは、いささか不可思議でもあった。
しかし、そうは、そうなのだから、あまり無理は出来ない。
じっくりと行く必要がある。
そうして、この状況を逐一、王国民に公表してゆくのである。
さすがの王国民も、『第1王女』の恐ろしい正体に気が付いて来るだろう。
その『第1王女』は、演奏会用の衣装の上に、豪勢なガウンをまとった姿で現れたのだった。
タルレジャ・マフィアの、女ボスという風格である。
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