わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百二十回
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杖出首相は、通常空間に戻っていた。
「まったく、なんてばかな話し合いだろうか。」
そう呟いてみたが、思い返すと確かにあり得ないような話の内容だけれど、ここのところ、間違いなくそうした光景を無理やりにでも見て、聞かされてきている。
地球人の科学力など、到底、児戯に等しいとしか思えないようなものばかりだった。
洗脳されてしまった地球人たちは、『火星人』の存在を当たり前に受け入れてしまっているし、『ダレル将軍』やら、『リリカ』という、ほとんど映像以外、実際には見たことがない『怪物』を、すでに崇めてさえもいる。
『火星の女王様』というものに至っては、ほとんど神格化されてしまっている。
『不感応者』である杖出首相には、そこのところは、ピンとはこない。
とはいえ、毎日多くの『不感応者』が、世界的な規模で、物理的な洗脳をほどこされ、結局のところ、『彼ら』の言いなりになってきている。
首相は、その政策を推進する責任者でもある。
「それにしてもだ・・・」
首相は思った。
『どうも、『第1王女』の立ち位置というものが、よくわからない』のだ。
彼女は、敵なのか、味方なのか、それとも、その、どちらでもない『独自』の存在なのか。
「おそらくは、『火星の女王』というのが、『第1王女』そのものの背後にいるんだろうな。国王は、そこらあたりは知ってるはずだが、はっきりとは言わない。まあ、そうだろう。自分の娘が『火星の女王』とつるんでるなんて、やはりおかしな理屈だよな。まあ、どうするかな。出来立てほやほやの『地球帝国』を乗っ取るかな? 悪くはないが、僕一人では3日も持たないだろう。地球を破壊するなら別として、だけど、な。ふうん・・・支配されるくらいなら、すべてを破壊してやる!・・・ そうした理論も、おおむかしには、我が国にもあったようには思うが。」
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「総督、あと、1回、時空ジャンプしたら、元の宇宙に出られそうです。観測機が証明しましたから。ただし、今回も100回に3回の確率で、空中都市が一部または全部、崩壊するかもしれないです。」
「そうか。まあ、長い時間がかかったな。ヘレナリアの宇宙では年を取らないようだったが、そのあとどのくらいたったのかな。」
「まあ、50年というところで、大したことはないです。」
「そうか、まあ、意外と早かったのかな。」
「そうですな。劇的に技術の進化がありました。キッチン少佐が残した研究資料のおかげですがね。」
「失った都市は、いくつだったかな?」
「35都市です。多いですよ。非常に。しかし、どこかにたどり着いて、生きてる者も、いるかもしれないですが。」
長官は、宇宙空間を眺めながら言った。
「そうだな。金星人は、火星人よりも、老化の速度がきわめて遅い。そこは、ありがたいと言えばありがたい。」
「そうですな。しかし、火星人は、あの時点ですでに『不死化』の技術を持っていたようですからなあ。最終的には、歯が立たないかもしれないですな。」
「当時、ひとりづつしか、適用できなかったと聞いてる。最初から、全員を処置する気もなかったようだしね。まあ、向こうも進化したかもしれない。誰が生き残ったのか、どうか。誰と会うのか、楽しみだね。」
「予想は出来ますよ。」
「言うな。面白くなくなるから。」
「はい。はい。総督。もう、いつでも、飛べますが。」
「じゃあ、行こう! 全員に告げよ。」
「了解。」
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キッチンは、用心して地球の周囲に、すぐには近づかなかった。
荒れ放題の火星を見てしまったのは、あまり精神的には良くなかったかもしれないが、『地球』が活発に活動していることは、沢山の人工的な電磁波が放出されていることから間違いはない。
『透明化』処置を機体に指示したから、簡単には発見できないだろう。
それに、地球から発出される情報を見る限り、また火星の状態から見る限り、『地球人』が活動しているとしても、さほど科学技術は進んではいないようだ。
念のため、小ジャンプして、『金星経由』で、接近してみよう。
『金星』は、やはり一目でも見ておきたかった。
しかし、長居は必要ないようだった。
それから、キッチンの宇宙船は、地球のたったひとつだけの『衛星』の裏側に侵入した。
そこで、彼は油断していたと確信せざるを得なかった。
何者かに捕捉されてしまったらしい。
機体の自由が利かなくなった。
何かの力にがっちりと、捕らえられてしまったのである。
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キッチン少佐を見つけて、拿捕したのは、外ならない『アニーさん』だった。
地球人の飛ばした衛星などは、自由に行動させているが、こいつは、実に怪しい宇宙船である、と『アニーさん』はすぐに確信したので、躊躇なく拿捕したのだ。
『びゅわ~~~~。探査中・・・・・。びゅわ~~~~。探査中。・・・おお。これは、なんと、『メイド イン 金星』ではありませんか。しかも、2憶5千万と何年か前の機体です。そりゃあ、大変だ。ヘレナさんに連絡しなければ。』
アニーは、すぐに、ヘレナに通信を出した。
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「来たか。でも、アニーさん、一機だけ?」
『そうなんですよ。『空中都市』の姿は、どこにもないです。斥候かもしれないです。それにしても、乗員は1名のみ。ちょっと大胆過ぎます。航跡を辿ると、少し前に『金星』、その前には、『火星』にいたのは確認できますが、その先は、まったくないです。アニーさんが、ここまで気が付かなかった理由は、ジャンプして来たせいでしょう。どうしますか?』
「ない? じゃあ、やはり『空中都市』の片割れでしょうねぇ。それか、仲間割れかな? まあ、空間ジャンプして来たんだろうけど、アニーさんの不注意はあったかもよ。まあ、そうした技術は、きっと新規に開発した訳よね。そうだなあ・・・あなた、その人をリリカさんの研究所に回収して、尋問なさいませ。ちょっと怖そうな声と、あの威嚇的な、金星の『軍隊調』でね。軍人時代の『カタクリニウク調』が良いかも。それと、身元を調べなさい。昔の、金星のデータよ。『月のリリカ』さんは、今、ちょうど地球に来てるから、話しはしておくわ。負けないでね。」
『了解。不注意なんて、もうしません。アニーさんの辞書には、『負け』の文字はない!」
「はいはい。多少不注意が起こるところが、アニーさん長所だから。気にしないの。」
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********** ふろく **********
・・・・・・続き
「洋子さんは、実は主人公候補だった、わけですね。」
幸子さんが、あい変わらずお饅頭を頬張りながら言いました。
「ええ。そうなんです。ですよね? やましんさん?」
「ああ・・・まあ、そうですなあ。弘子さんも弘志君も、小学校3年か、4年ころの雑誌の表紙絵が、大きなモデルでした。これは今でも押し入れの中にあるはずです。洋子さんも、だから、同じように雑誌の表紙写真がモデルでしたが、これは、かなり派手な姿でしたね。宝塚のスターさんか、そのあたりだったのでしょう。これは、前に言ったように、いとこの家の階段に置かれていた雑誌でした。」
「へえ・・なんで、それが、怪物みたくなったんですかあ?」
「ぶ!」
幸子さんは、正直に表現するので、しばしば、びっくりします。
洋子さんは、でも、顔色一つ変えません。
「そこは、比較的最近の発案です。このお話を実際に書くことにあたって、決めたキャラクターです。いくらかその前から考えてはいたんですが。いつもお部屋に籠っている謎の美女。天才なのに、人知れず不幸を背負っている。しかも、いつも、畳の部屋に座っている日本調の美女。とてつもない能力を持ってるらしいが、はっきりしない。」
「うん。洋子さんって、まだこのあと、大変身しそうだもんね。」
「やはり、そうなんですか? 顔だけ背中にくっ付いてる怪物とか?」
うわ! そう言われますと・・・・
「ううん・・・・・いやあ、まだ秘密です。」
「なんだ、考えてないんだ。」
幸子さんは、ズバッと来ます。
「わたくしといたしましては、気にはしませんから、ご自由にどうぞ。」
「なんと、お心の広い!」
さすが洋子さんです。
「こらこら、あたしは、なんで、呼ばないの?」
そこへ乱入してきたのは、明子さんでした。
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