表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/230

わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第十二章 


 洋子の部屋に侵入するなどということは、まず人間には不可能だ。

 もちろん、ブリューリに関しては当然警戒していたし、新型の抗ブリューリ薬も屋敷中に散布していた。

 ブリューリは、意外に単純なPTFEを透過出来ない。しかし、力がものすごく強いので、しっかり作らないと意味がない。

 可能な限りの措置はしていたのに、なぜ・・・

 もしかしたら、もともと罠かもしれない。

 洋子は乗っ取られているのではないのかもしれない。

 弘子はじっと考えながら、病院のベッドから、自宅の中を探っていた。

 

 電話が鳴った。

 道子は、最高の個室に入れた。

 自分は当然の差を付けて、小さな隔離用の個室だ。

「はい、弘子です。」

『洋子です。』

「ああ、お姉さま。」

『昨日は御免なさい。お約束しました通り、電話いたしました。お目にかかりたく思います。』

「まあ、お姉さま、わたくし入院中ですのよ。聞いていらっしゃらないのですか? マムル先生が診てくださっていますの。『宇宙風邪』ですって。」

『もちろん、退院してからで結構ですよ。でも、あなたに申し上げておきたくて。』

「ああ、わかりました、お姉さま。お姉さまは、お体に問題ないですか。」

『おかげさまで、ここなら何も起こりませんよ。』

「そうですか。よかった。では・・・」

 弘子は電話を置いた。

『ふうん。どこもおかしくはないな。ううん。アニーさんの報告を待ちますか。』


 すぐに、また電話が鳴った。


「はい、弘子です。」

『ぼくだよ。』

「まあ、これはこれはシモンズさま。いかがですか?状況は?」

『ああ、臨時給料はたっぷり入ったよ。もらい過ぎの気もする。なんだか、女王様のスパイの気分だな。』

「だって、そうじゃない。」

『二重スパイでもかい?』

「それは、最初から分かってるって言ったでしょう? で、どうなのかな?」

『そうだね。まあ、やはり月の裏側は怪しいな。ぼくの偵察衛星からのデータを見ると、人工の信号が、定期的に行き来している。時々、不定期のがある。発信元はタルレジャ王国。内容はわからないが、少なくとも今の技術じゃない。研究所に降ろした衛星の粒が感じた信号を分析したところ、火星人の脳をばっちり制御できそうだな。地球人の脳では、感度が悪すぎてあまり効かないだろう。君たちの場合は、まだ分からないけど、感度自体はよくないだろうから、効かないんじゃないかな。明らかに火星人用だね。』

「あ、そう。それもまた、不思議な事だなあ。その信号、邪魔出来ないかしら?」

『先に犯人を確保した方が良かないかな?』

「犯人は分かってるし、すでに逮捕されてる。ただし、逮捕した側が謀反をしてるみたいね。」

『ふうん。じゃさ、ぼくが逆にコントロールしてしまおうか?』

「そんなことができるの?」

『まあ、あれだけ報酬もらったら、やらないわけにはゆかないな。』

「さんきゅー。だから、あなたは有益なのよ。わたくしの切り札その一だもの。」

『あらら、じゃあ、その二は誰なんだい?』

「弘志よ。決まってるじゃないの。」

『ほおお・・・』


 ************   ************


 スイート隔離ルームなどという、ありがたくない部屋だけれど、並のホテルのスイートルームなど問題外の立派な部屋だ。もともと、皇室や王室の利用が目的なので。しかし、もちろん一般人もお金さえ払えて、スケジュールが開いていれば利用は可能だ。一泊、五〇〇〇〇〇円かかるが。

 道子は決して気位が高い訳ではない。爆発すると何を言い出すかわからない弘子と違って、安定性が高くて、いつも頭が低く、相手を思いやりながら発言し、行動する。しかし、その根っからのお嬢様スタイルが、なんとなく別世界の人らしく見せてしまう。一方弘子は、気が強くて負けず嫌いで、ちょっと怖そうだが、実はいたって普通である。本来どうしようもなく優しいのだが、時々中身の「それ」が悪さをする。

 

 二人は、それぞれ部屋のベッドの上に居ながら、話し合いをしていたのだった。

 その声は、誰にも聞こえない。

『あなた、人間に戻れたかな?』

『ええ、多分、そうだと思います。あれは、何だったのですか?』

『まあ、まだはっきりは言えない。研究所で徹底的に分析するけど、おそらく、ブリューリの一部を取り出して、適度なお料理をほどこしたものでしょう。』

『つまり、わたくしは、ブリューリになっていたのですか?』

『まあ、疑似ブリューリと言うことは可能なんじゃないかと思うわ。』

『なんという、恐ろしい事でしょう。では、わたくしは、もうすぐ、人を食べるようになるところだったのですね。』

『ああ、そこは、わからないわよ。そういう性質を持ってたかどうかはね。特にあなたの場合は、区別がつかないかも。おわかりかしら?』

『あの、まだ、儀式が済んでいないので・・・』

『そうね。そこは、まあ、しばらく保留ですわ。』

『ハイ。それにしましても、お姉さま。』

『なあに。』

『核廃絶と化学兵器類の廃絶は、やはり絶対にすぐ実行ですわ。』

『わかってるよ。そんなこと。ただ、まずはお父様を納得させなくてはならない。なんで急に言い出したのかが、まだはっきりと分からないのよ。確かに、一つは「箱」の問題なのは確か。ママが教えたに違いないもの。でも、それだけじゃあなさそうだ。火星の軍事力の事を考えて言っている可能性も高い。見た目は平等で地球優位でも、まる裸では、明らかに地球は奴隷に見えるわ。実際そうなんだけどね。少し修正は必要じゃないかな。総督閣下?』

『そうですね・・・考えます。杖出さんのこともあるし。でも、「箱」というのは、実際何なのですか?』

『「箱」のことは、まだ少し秘密。まあ、そうよね。力で圧倒するのはたやすい。あなたなら、アッと言う間に消せるんだから。でも、それじゃあつまらないわ。』

『国連に、一定の武力を確保させるのはどうでしょう?』

『いいけれど、誰が管理するの?』

『うまい仕組みが必要ですね。皆さんで考えてもらいましょうか?』

『そうね。それなら、そのように頭を誘導させてあげなければ。』

『はい。』

『いずれにしても、皇帝はダレルの言いなりであることは変わらない。かわいそうだったけれど、これは作戦の内だからね。でも、ダレルを言いくるめないと進まないわよ。どうせまた、ろくでもないこと考えて来るんだから。それと、最大の難関で、計算外はブリューリ本体よ。たぶん、東京のお家の中にいる。』

『え?お家ですか?』

『そう。いい、気を付けなさい。向こうも、今は簡単に手は出せないはずだけどね。アニーが探ってるわ。リリカ様たちの問題は、シモンズさんがうまく片付けそうだから、大丈夫だと思う。まあ、あなたは、偉そうにして居なさい。わたくし、早めに釈放してもらって、きちんと学校に行くから。あなたは学校で挨拶したら、早めに王国に帰りなさいね。ただそのまえに、洋子姉さまに会うのよ。二人でね。』


 ************   ************


「ふうん。これでいいかな。ちょっと信号が微妙に強いかな。けれど、これくらいなら相手には気づかれないだろう。やってみますかな・・・」

 シモンズは、信号を送った。リリカ二人がいる居間の中からだ。ここにはアリムの機械はないはずだ。

 効果はてきめんのはず。少し眠くなるだろう・・・・・・



 二人は、うつらうつらし始めている。

「よしよし。上手くいってる。これで、頭の中に抵抗力を植え付けてしまう。自分たちが、なにやってたか気づいてもらわないとね。ほら、データ出力と。よく見てね。」



「あらら、うとうとしてたみたい。」

 リリカ(本体)が言った。

「ほんとね、少し疲れたか。お薬は順調に製造して地球に送っている。」

「そうね、あら、このデータ、なにかな。うん? これは、なんの記録かしら。」

「どれどれ、ふうん。なんだろう。こっちは、なにこれ、あたしの脳のデータじゃない。こっちはあなた。

なんだろう、何かに影響されてるみたいね。おかしい・・・」

 二人のリリカは顔を見合わせた。



 ************   ************



 三日後、アムル先生から、やや無理やりではあったが、退院許可が出た。

「もう、感染はないけど、体力が戻ってない。無理はダメですよ。いくらあなたでも。」

「了解、了解先生。道子は明日まで置いといてね。わたくしは、学校行ってくるから。」

「ああ、許可したくないけど。科学的に許可できない理由がないわね。」

「そうでしょうとも。じゃね。」


 病院玄関前まで、吉田さんが自動車を持ってきた。

「お嬢様、どうぞ。」

「はいはい。久しぶりねエ。学校って。」

「まったくでございます。楽しいですか?」

「そりゃまあね。でも、急いだのは、心配事があるからなの。」

「心配事、ですか?」

「そう。とってもね。」

「アンジさんのことですな。」

「よく知ってるわね。」

「そらまあ、何度も電話が来てましたし。」

「そうか、普通の携帯止めてたからなあ。」

「でも、気を付けてくださいよ。一部不穏な動きがあります。」

「もう?」

「はい。地球人は、脳の感度はよくないが、その反面、繊細ですな。」

「ふん。ふん。なるほど。」


  **********   **********


 弘子の通う高校は、これもまた実家が経営する学校法人が運営していた。

 理事長は、明子である。

 ただし、めったに顔は見せない。

 実質は、外部から来てもらった校長先生が握っている。

 なかなか、おもしろい、良い人である。


 なにしろ、曰くつきの生徒さんが多いのが、特徴だ。

 芸能人のたまご、もと、または現役の不良さん。中学校時代は不登校だった生徒さん。親の姿がない生徒さん、わがままいっぱいのお坊ちゃまとお嬢様。母国に溶け込めない帰国子女たち。さまざまな苦しみ悩みをたくさん抱えている生徒さん・・・。外国出身者も多い。

 まあ、一筋縄では行かない生徒さんたちが多かったのである。

 弘子、道子も、そのうちの最有力の二人である。

 なにしろ、二重国籍で、南海の王国の第一王女と、その妹である。妹は、なんと、このたび地球帝国の総督閣下となった。傀儡ではあっても、地球の「絶対的」君主の次の人である。

 ただし、姉こそが実は本当の「ボス」だということは、誰も知らないが。

 しかも、二人は天才音楽家で、半月以上は、家にいない。 

 ただ、道子は、地球帝国の総督閣下になった事で、王国の高校に転出することが決まっている。

 あともう少し、ほんの2~3日は、こちらに顔を見せる予定ではあったが、伸び伸びになってきている。


 弟の弘志も、ここの生徒である。

 姉二人ほどの派手さはないが、それでも、国王の指名さえあれば、すぐにプリンスに早変わりすることになる。

 

 弘子の乗った適度に巨大な自家用車が学校前についた。

「ああー、弘子だ!」

「弘子、来た!」

「まあ、弘子様だわ!」

 さっそく、生徒の人だかりが出来ていた。

 ドアが開く。

 裸足はだしのままの弘子が降りてくる。

 ごたごただった生徒たちが、両側に、二列の筋を作った。

「おはようございます。弘子様。」

 情報を聞いて、生徒会長が駆けつけて来ていた。

 この学校の生徒会長は、ばかにならない力がある。

「おはよう、惟子。元気だった?」

「それはもう。まるで百年ぶりのようですね。世の中がすっかり変わりました。」

「でも、わたくしは変わらないの。同じですわ。もう、何でそんなに整列していらっしゃるの、皆さま?」

「皇帝陛下の、お姉さまですもの。」

「まあ、でも、おかしいわよ、これは、ほら、解散、解散!」

「うわー!」

 という叫び声と共に、みんながバラバラになった。

 バラバラになったその先に、ミアが立っていた。


 ************   ************






 

 

 

 





































 


 





 





  


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ