わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百十九回
************ ************
『ヘレナさんヘレナさん!』
「なあに、アニーさん。」
『杖出首相さんが、ぜひお話したいとアニーチャンネルにおっしゃってきてますよ。』
「そう。まあ、いつでもどうぞと申し上げていたから、約束は守らなくちゃね。予想より半日早いけどもね。」
『国連の事務総長さんが、電撃訪問したからですよ。』
「そうよね。わかった、じゃあ、このまますぐ行くわ。首相室にいるのかな? あ、そう、じゃあ、異次元閉鎖して。いざ、どろん こ!」
『なんですか、それ?』
「日本合衆国では、なにか術を使う前に、その名称とかおまじないを唱えるものでしょう?」
『なるほど。』
********** **********
杖出首相は、また不思議の空間に閉じこめられていた。
秘書がドアを開ければ、そこはいつもの首相室だが、彼はいない。
しかし、首相はちゃんと室内にいたのである。
だが、全てのドアも窓も、内側からは開かなかった。
インターホンも、停止している。
「おじゃまいたしますわ。首相様。」
「ふう・・・・あなたか。もう少し、普通の会い方はないのかな?」
「今回も、お急ぎかと思いましたが、帰りましょうか?」
「いやいや、結構です。証拠はない方が良い。実はですな・・・」
杖出首相は、事務総長からの用向きを話したのである。
「まあ、『とうぜん』、予測されたことですわね。」
「そうなのですかな。『第1王女様』。」
演奏会用の華やかな衣装のままのヘレナを、かなり眩しそうに眺めながら首相は言った。
「もちろん。そうですわ。まず、あなたが挙げた、そうした兵器類ですが、一部はすでに、極秘で日本合衆国に納入しておりますわよね。」
「そうですな。大変に高価だったが。国民に知れたら、大事だったでしょうな。」
「でも、いまなら、大丈夫ですわ。そうした苦情はもう出ないでしょう。」
「『皇帝陛下』の意向に反することでも、ですかな?」
「まあ、そうですわ。もちろん、公に指摘されたらあの子も困るでしょうけども。まあ、しかし、そうしたものは、ご承知のように、あまり大した破壊兵器ではありません。むしろ自衛的な役割が大きいです。しかしながら、まずは、南北アメリカ国が開発中の『神の杖』と呼ばれる兵器に類似の、あれですが。」
「ええ。」
「あれは、もちろんああした使い方が出来るわけです。つまり、高度1,000キロメートあたりの軌道上の衛星から、タングステンとかウランとかの棒を地上に打ち込むわけです。破壊力は核兵器に相当しますが、放射能汚染はない。しかし・・・」
「しかし?」
「あたくしが作った物は、破壊するだけではなしに、物質そのものを消し去ることが可能です。地下3キロメートル程度の深さまでにある物質を、すべて消し去ります。でも、核分裂とか核融合とかではなく、異次元に葬ります。だから、この世からは消すだけです。きれいさっぱりと。何も残りません。ただ、アブラシオさんは、それにもなんとか耐えるだけの力は、ありますけどもね。まあ、あの時は、デモ営業でしたから。」
「デモ営業?」
「はい~~。ショーですよ。あれはね。」
「あのですなあ・・・あなた、いったい!」
「し! ねぇ首相様、あなたもあたくしも、神様じゃないし、それなりの野望もあるし、でも、とっても真面目でもありますでしょう。あの『火星人』なんかに、地球を明け渡す気はない。でしょう?」
「もちろん、そうですな。」
「でも、実は、地球はずっと、おお~昔から、火星人が支配管理していたのです。何も変わらない。ただ、今までは黙ってやっていたけど、これからは地球人と共同してゆこうとしているだけだとしたら?」
「同じことですな。侵略です。明らかに。」
「ふうん。でも、ね、首相様、あたくしが管理している、こうしたちょっとだけ、オッソロしい武器の管理を、あなたにお任せするとしたら、いかがですか?」
「はあ?」
「すべての管理権限、使用権限を、あなたに移譲しましょう。どう使ってもいいですよ。対火星人で使用してもいい。廃棄してもいい。王国や世界との交渉に使ってもいい。ただし、あたくしがあれを新しく作るのには、まあ、3日もかかりませんからね。あなたの使い方次第で、色々使えるでしょう。でもね、結局、火星人には勝てないですよ。引き分けには出来るかもしれないけれど。」
「『核兵器』もお持ちなんですか?」
「そうですね。地球上には無いですよ。隠しています。」
「どこにですか?」
「それは、まあ、秘密です。」
「熱核兵器ですか?」
「ええ。常温で起爆装置もなくて、核融合を起こします。効率は非常にいいですよ。一発で地球を破壊できます。」
「そりゃあ、使えない。」
「まあ、そうでしょうねぇ。でも、必要ならば、宇宙船も提供しますわ。あなたの支持者とかだけで、異次元宇宙に脱出し、幸せに暮らす手もあります。」
「あなたは、悪魔ですか?ぼくは、そんな卑怯なことは考えない。」
「まあ、うれしいですわ。あたくし、実はね、そう言われるのが大好きなんですの。これを知ってるのは、ごく少数の方だけですけども。あなたはその一人になった訳です。首相様は、対火星人には、核兵器などが必要だと考えていらっしゃる。すべて、ご提供いたしましょう。いかがですか? まあ、あの『核爆弾』は持ち出さない方がよろしいでしょうけど。実は、我が王室は、水星上に、別種の宇宙空間ミサイルを配置しております。これは、太陽を破壊できます。でも、あたくしが命じなければ発射はされませんし、使う気はありません。今のところは。ま、地球や火星に向けることも可能ですが。」
「そんなもん、何の役に立つ?」
「いざとなれば、太陽系のすべてを終わりにできるだけですわ。火星人の本拠地を攻撃することもできますが・・・・・。まあ、全滅でしょうねぇ。」
「あなた、どっちの味方なんですか?」
「おほほほほほほ!! あたくしは、あたくしであり、誰かの味方という事は、最終的にはございませんわ。でも、今は、あなたにお味方しようとしているわけですよ。おわかりですか? 首相様。当面、この星についての命運を、あなたに託そうというのですもの。よろしくて? 皇帝陛下はあたくしの妹ですが、あたくしは忠誠を誓っております。裏切る気は毛頭ありませんが、彼女はこの地上からすべての大量殺人兵器を葬ろうと考えていますでしょう。あなたは反対ですが、国としては同意しましたね。あれは、戦略上やむおえないです。わが父上は、いまだに反対のままですが、あたくしは父の意向を汲んでおります。でも、父は本来核兵器反対の立場でしたから、そこはお間違いなく。要は、火星人に対して、対抗する必要があると考えているわけですよ。あなたも父も。でも、あたくしは、王国の財政上から言って、いろいろと考える必要もあるのですわ。お金儲けですわね。」
「おそろしい方だ。」
「わあ、うれしい!! ね、首相様、あたくしの秘書であるアニーさんが、あなたに技術を差し上げます。あなたは、その兵器技術を使って、さまざまなことが可能になりますわ。操作する機会は必要ない。アニータンネルを呼び出し、指示するだけでO.K.なのです。それでも、まだ、もしご入用ならば、『純粋水爆』も作って差し上げましょう。簡単ですわ。納入まで、5日ほどです。お高いですけども。」
「やはり、あなたは悪魔だね。」
「もう、そんなに褒めないでくださあい! あ、お返事は、『アニーチャンネル』に、またどうぞ。でも、時間は少ないですわ。地球帝国創立式典までですからね。待てるのは。じゃあ、妹の演奏が始まるので、これにて、失礼いたしますわ。あ、各兵器の『仕様書』も、『アニーチャンネル』でご覧いただけます。」
*********** ************




