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わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百十七回


  ************   ************



 『幸子さん』の結婚式は、『アヤ姫様』の主催により、着実に進行していたのだった。


 参加者全員によるダンスが、日本合衆国警察庁の異端警部を取り巻いた形で、延々と続いた。



        ***     ***     ***



 ジャヌアンが知っている歴史では、ここに彼女とアベックふたりを乗せた、滅んでしまった未来から脱出してきた『移動カプセル』が、地底から飛び出てくるはずである。


 しかし、それは起こらなかった。


 当然、ジャヌアンは現在自主的に拘留されている身だけれど、『取調官長』を連絡役にして、さまざまな情報を得ていた。


 起こるべきことが起こらないのは、予想はしていたが、やはり残念である。


 計画は、実行されるべきであることが、また証明されてしまった。



     ***     ***     ***


 

 長い長いダンスの時間が終わり、『アヤ姫様』が女神様たちの神、すなわち『女王ヘレナ』に対して、結婚の通告をする段取りとなった。


 そして、まさに絶好のタイミングで、ヘレナが現れたのである。


 それは、当然、絶好のタイミングになるように、ヘレナ自身が取り仕切っているのだけれど、事情がどうであれ、幸子さんにとっては、至福の瞬間になる。


「うあ~~~。女王様あ! 女王様が来てくださった!」


 幸子さんが叫んだ。


 警部は、『アヤ姫様』の強力な力で、そに時点で、完全に人間から『鬼』に作り変えられた。


 記憶は残したままで、身体と意識自体を『鬼』に変換させられたのだ。


 もはや、『人間』ではない。


 あえて言えば、それは『火星人』の、基本形態と同じ姿である。


 もっとも、通常の『火星人』でもなくて、『妖怪』と言われるような存在である。


 物体としての『生物』と、『幽霊』との境目にある、名状しがたき存在だ。


 『幸子さん』も同じである。


 もちろん『アヤ姫様』もそうだし、『池の女神様』たち全員が、同じ『存在』しない『存在』なのだ。


 ただし、ジャヌアンが、かつてダレルに渡した検知装置ならば、その存在は検知可能である。


「幸子さん、おめでとう! 田中警部さんも。いま、永遠の祝福を、おふたりに差し上げましょう。それから、贈り物も、どっさりとね。」


 幸子さんが大好きな、あの、お気楽饅頭と、お酒ぱっくが、山のように積み重なっていた。


「うああ~~~~!! すご~い!! 女王様、ありがとう!」


「女王様、ばんざ~~い! 女王様、ばんざ~~~~い。幸子さんおめでとう! 警部さんおめでとう!」


 女神様たちの叫びが、大きなアヤ湖のなかの島にある、『アヤ姫宮』に響き渡った。


 人間たちのなかでも、一部の感覚が鋭い人たちには、アヤ湖の中にある、立ち入り禁止になっている深夜の『御宮』で、怪しい大騒ぎが起こっているらしいことが、うっすらと見えていたし、その騒ぎが聞こえていた人もあったらしい。


 そこで、王宮事務所には、「なにか起こっているのか?」という問い合わせが、けっこうたくさん入っていたのだという。



  ************   ************



 長い『第1楽章』のあと、実に神秘的な『第2楽章』が終わり、曲は『第3楽章』に到達していた。


 『アレグロ』4分の3拍子。


 『どんどこどんどこ・・・・・・』


 と、いういささか原始的な感じのリズムに乗って、5小節目から独奏ヴァイオリンが、符点音符まじりの主題を、五線譜下の、『D』の音から弾き始める。


 最初は、わりと単純に。


 しかし、次第に音域が広くなり、激しく跳躍する音型になる。


 スケールと、跳躍を繰り返しながら、重音奏法も加え、5連符を通過し、やがてソロがついに頂点に達すると、こんどは管弦楽だけの主題が現れる。


 全曲中、もっともオケが目立つ場所である。


 しかし、ソロが休めるのは少しだけで、同じ主題を、難しい重音奏法を続けながら演奏する。


 同じ形の短いモティ-フを、ただ繰り返すだけのようだけれども、その間には、大変抒情的な雰囲気も醸し出す。


 シベリウス氏の作曲技法の、マジックである。


 『ヘレナ』の本体は、人間の視覚には通常反応しないし、その肉体を構成する物質にもまったく影響しない。

 

 大きさも形も不定形で、地球全体を包み込むことも簡単だし、『ここだけ』、に集中することもまた、簡単なことだ。


 それは、実際にはありえない、ヘレナの意志によるものだが、なぜ『意志』が生じるのかは、本人にも理解が出来ていない。


 本来は、この宇宙のどんな物質にも、まったく関与しないのに、生物の『意識』には取りつくことが出来るし、その気になれば『物質』に直に関与することも可能になる。


 ヘレナは、『第1王女ヘレナ』の肉体に、わずかな『支配の手』を残したまま、ホールの客席から、その演奏を聞いていた。


『ううん・・・絶好調じゃないの。この『天才』は、弘子さんのものであって、あたくしのものじゃないけど、これを生み出したのは、あたくしですもの。素晴らしい!』


 音楽は、最後になって、さらに感動的な盛り上がりを作る。


 まさに、『素晴らしい』時間が経過する。


 弘子=ヘレナのソロは、『完璧』だった。


 作曲者は、この曲の演奏について『完璧でなければならない。』と発言していたようだが、まさに完璧そのものであった。


 この曲では、管弦楽との間で、小さな乖離が起こることは、『まれ』ということはない。


 けれど、そうした瞬間さえも感じ取れなかったのだ。


 

 『双子』の、ヴァイオリンのお師匠様である、クークヤーシスト女史は、中村教授よりも、はるかに完全主義者で、その生徒にとっては恐ろしい存在である。


 にもかかわらず、弘子と道子という存在は、彼女にとっても、まさに自慢の弟子であり、誇りでもあった。


 ところが、確かにもともと、このふたりが『王女様』という宿命を担っていることは承知していたし、それは断ち切れないものだとは分かってもいたが、それでもこのような歴史的天才を、『王国』という塀の中に閉じ込める事には、どうしても納得が出来ていなかったのだ。


 そこに、降ってわいた『地球帝国』である。


 中村教授と彼女の共通点は、明らかに、共に『不感応』である、ということだ。


 もっとも、これは偶然ではなかったのだ。


 あえて、『不感応者』を師匠に選んだのは、他でもない、ヘレナ自身だからである。


 『感応者』は、扱いやすいが、移ろいやすい存在でもあるからだ。


 こと音楽に関する限り、頑ななほどの『不感応者』が良い、と、女王ヘレナは判断していた。


 それは、長い地球人類とのお付き合いの中で得られた結論だった。


 ヘレナからしても、このふたりは、自分が生み出した『最高の人類』であり、誇りだったのだ。


 クークヤーシスト先生は、厳しい顔のままで、弘子=ヘレナの演奏を聞いていた。


 一番最後にある『15連符』の上行下降を繰り返した後、突然、いったん踏まれたブレーキから解放された自動車のように、ソロ・ヴァイオリンは勢いよく駆け上がり、終結する。


 楽譜上は比較的単純だが、演奏は決して簡単ではない。


 それでも、何の苦もないように、弘子=へレナは、軽々と弾き切ったのである。


 女性ヴァイオリニストは、音の大きさでは、男性になかなか勝てないとも言われるが、弘子に関しては、そうしたことはまったく感じられない。


 素晴らしくも、豊かな音を発揮する。


 今日もまた、そうだったのだ。


 テクニック的には、最後まで、完璧だった。


 クークヤーシスト女史であっても、すでに、もう歯が立たないと認めざるを得なかったのだ。


 面白くない部分もある。


 若いころなら、きっと、これに対抗できたと思う。


 首を左右に振りながら、周囲の猛烈な拍手に、彼女も加わった。



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