表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/230

わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百十四回


  ************   ************



 『地球帝国皇帝ヘネシー』は、他には何も言わず、こんどは玉座に立った状態のまま、もとのロイヤル・ボックス席に後戻りしていった。


 「さぞかし、後ろ向きに動くのは気持ち悪いだろうな。いやあ・・・そうじゃないんだろうな。重力コントロールか。」


 シモンズはつぶやいた。


 「余計な演説は一切しなかった。珍しいタイプの独裁者だな。まあ、どこまでが自分の意志なのかが問題ではあるけどね。」


 そのロイヤル・ボックス席では、リリカとダレルが、お互いを検閲し始めていた。


 「あなた、どこにいらっしゃったの?」


 「良く言うよ。君の方が知ってたんじゃないのか?」


 「まあ、なぜ?」


 「女王から当然知らされていたはずだ。女王が僕を拘束したんだから。」


 「じゃあ、どうしてここに来れた訳?」


 「知らないね。もう一人の女王の助けが入った。それだけさ。」


 「もう一人の女王って、誰? 解放の条件は?」


 「知らない、そんなもの。どっちもね。」


 「あり得ないな。」


 「あったんだから、仕方ないさ。女王側の都合など、ぼくにはあまり関係ないけど、まあ解放されたことには、感謝してる。」


 「ふうん。大体、ずうーずーしくも、よくも、ここに来たものね。あきれてしまう。」


 「しかし、君もそうだけど、我々火星側から見たら、そこらあたりは、特に気にする必要がないことだろう。我々の目標は、引き続き『地球の管理』。火星の再興のためにね。それも、遥か昔からずっとやっていたものを、ただ、地球人に自覚させるために、わざわざこんなお芝居をやってるんだから。地球側の内紛は彼らの勝手。女王の都合は女王の都合。彼女の目標は、『火星の再興』とは違うところにあるんだ。ご自分の故郷の発見とか。まあ、それは、ぼくらの邪魔にならなければ、なにやったって、特には問題ないんだ。はっきり言って、2億5千万年まえから、何も変わっていない。地球人が多少進歩したから、新しいステージを用意してやるだけなんだ。」


 「なるほど。じゃあ、あなたの『復讐』は?」


 「復讐?」


 「そうよ。『復讐』。あなたは、自分の母に復讐したい。でも、女王が複数存在することが、明らかになってきた。いったい、どの女王が復讐相手なのかが、よくわからない。違うかな?」


 「まったく見当はずれの、こんちきち~だよ。『女王』に復讐なんかできると思ってない。」


 「いいえ。そうじゃない。あなたは『不感応者』の『欲求不満』の甘えん坊だから。『お母様』に、相手をしてほしいの。それこそが、あなたの個人的な欲求だもの。でも、それが叶わないと見て、ばかな『復讐』を企んでる。火星の『再興』という大義名分の陰でね。自覚はしてないかもしれないけど、それはあなたの心理に深く潜在している欲求よ。」


 「よく、そこまで言った。じゃあ、ぼくは地球の監督なんて降りる。君がやればいい。」


 「そうは行かないわ。これは、あなたの『仕事』だもの。組織上は、このリリカが、あなたに指示する立場であることは変わっていない。」


 「じゃあ、正式に辞任する。その自由はあるだろう。」


 「ない。火星の女王様のご意志により、火星復興特例法に基づいて任命されている。女王様のご判断が必要だ。『火星評議会』の認可もね。」


 「じゃあ、もらうだけさ。『辞任』は当然可能と解釈すべきだ。創設式典が終わったら、ぼくは辞任する。」


 「ふん。もとからそのつもりだったんでしょ。」


 「無視!」


 『皇帝』は、ふたりが言い合いをしている中で席に戻ってきたのだった。


 「ダレル様。なにか問題がございましたか?」


 「いや、陛下、気になさらずに。政策上の議論です。」


 「そうか。」


 リリカは、特に発言はしなかった。



   ************   ************



 『第2王女』は舞台から上手に降りた。


 オーケストラと、指揮者、それに『第1王女』が残ったのである。


 コンサートの頭から、『協奏曲』が演奏されると言うケースは、かなり特異なやり方である。


 しかし、今日の主役は、ふたりの『王女様』であって、指揮者もオーケストラも重要な脇役なのだ。


 とはいえ、『第1王女様』が演奏しようとしている、『ジャン・シベリウスのヴァイオリン協奏曲』も、後半に予定されている、『カール・ニルセンのヴァイオリン協奏曲』も、管弦楽にかなりの比重が置かれている、しかも、ソロにも極めて高度な技法を要求してくる、この分野屈指の名曲である。



  ************   ************



 もと、王国の『日本合衆国大使』は、このほど解任され、王国の外務省に戻ってきていた。


 あれ以来、まったくぱっとしない日々が続いた。


 それでも、帰国後、なぜか少し昇進した。 


 しかも、彼の元には、『第1王女様』から、きちんと入場券が届いていた。


 家族の分も含めてである。


 音楽は、あまり解さない彼ではあったが、これだけは、行かないわけにはゆかないと考えた。


 妻は、音大出のピアノ教師である。



  ************   ************



 まったく、表向きはあきらかに単なる裏役で、王国政府の幹部になどには絶対になりっこない『取締り官長』は、かなりのクラシック音楽おたくである。


 その知識は、彼の上役たちには、遠く及びもつかないものだが、それ自体は、なにも職務の役に立つものでもない。


 ただ、『王女様』おふたりが、天才音楽家であるということが、その真面目な中堅役人の上司たちには、いささかやっかいであった。


 彼女たちが演奏する曲について、役立たずの『取調官長』(役職名は偉そうだが、要は現場の主任であることを意味するだけにすぎないのだが。)が持つ知識には、まったく歯が立たないからである。



 しかし、なんの権限も持たない、怪しい囚人であり、『スパイ』であるアリム(踊り子ジャヌアン)から、新しい政府の要職を提示されていた(実は、あまり信じてもいなかったが。)彼は、当然自費で、ちゃんとこの演奏会にもやってきていた。



   ************      ************



 

 第1楽章、『アレグロ・モデラート』


 『第1ヴァイオリン』と『第2ヴァイオリン』が、それぞれ二部に分かれてニ短調の分散和音を神秘的に奏でる。


 ソロ・ヴァイオリンは、4小節目の真ん中から、Gの伸ばしの音で入って来る。


 『dolce ed espressivo』


 2分の2拍子 メゾ・フォルテ。


 『第1王女』は、薄い美しい褐色の腕を、愛器の弦に滑らせた。


 信じられないような、かつて誰も、聞いたことがないような、つん、と透き通った音が、途端に聴衆の心をつかみ取ってしまうのであった。





   ***************   ***************
















  










 


 
















 


 






























 














































評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ