わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百九回
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リリカは、ようやく重い腰を上げて、火星近辺までやってきていた。
「リリカさま、未だにお気が向かないようですね。」
アリーシャは、あいかわらず基本的には無表情だ。
もっとも、どちらかの『女王様』のように、まったく感情がないわけではない。
アリーシャの無表情は、職務上絶対に必要なものだ。
そこで、ふたりは、意外な物体に遭遇した。
それは、あきらかに、『警部2051』の真っ青な宇宙船・・・いや、おそらくは、警部自身の本体・・・リリカはそう推測していたのだが・・・だった。
警部は、2億5千万年前に、タルレジャ王国の誕生を確認し終えたあと、宇宙の彼方に去って行った。
どこに行ったのか、ということも、もちろんリリカたちには分からないことだし、果たして、あてのある旅だったのかどうかも、はっきりとはしない。
「まあ、ご自分の故郷を尋ねてみたいとかもおっしゃってましたから。そうしたのかも。」
真っ青な球体を見つめながら、リリカが言った。
今は、随分小さくなっているが、警部がその気になれば、海王星くらいの大きさにもなることは分かっているし、もしかしたら、太陽ほどにも、なれるのかもしれない。
「聞いてみますか?」
「そう、あえて聞く理由はないわねぇ。でも、興味はあるな。まずは、なにはともあれ、ご挨拶は必要なんでしょうね。」
「いえいえ、多数の超小型物質を探知。もう、あちらから偵察に来てますよ。」
「あいかわらず『同じ手』、ですか。」
「まあ、それはだって、バージョンアップするようになってるとは思えなかったですから。」
「それは、根拠がある話ですか?」
「あんなもの、修理を扱えるお店があるとは思えないですから。」
「なるほど。でも、宇宙は広いですよ。どこかに、そういうお店とか、『病院』があるのかも。」
「通信が来てます。警部さんからです。」
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「核弾頭の全廃棄と言われたって、我が王国には、そもそもそうしたものはないはずだ。なぜ、反対する?なぜ、政府は王室に逆らえない? 首相、どうお考えか?」
パブロ議員は首相に食い下がっている。
『与党』と『左派野党連合』の話し合いは、毎日のように行われているが、それこそ平行線状態でまったく交わるところがない。
どちらにも、どこにも組していない、超極右政党・・・つまり、王室絶対派の『祖国連盟』が仲介を買って出るなどという、前代未聞な事態にもなってきていた。
タルレジャ王国政府のタルジャ首相は、王国きっての名門政治家一族である。
多くの王国国会議員を排出してきた。
本人はほとんど触れないが、実は王室との姻戚関係もある。
それは、過去においては、いろいろと、『そうしたこと』もあったということだ。
タルレジャ王国自体は、それほど大きな国ではない。
国民同士が親戚関係を多く背負っているのが、むしろ普通だ。
それでも、王室との姻戚関係となると、さすがにいくらか特異なケースにはなる。
リベラル派から見ると、こうしたありかたは、非常に気に入らない事である。
王国政府の有力者の家系を調べてみると、その多くが、それぞれ関係し合っていることが多い。
けれど、それをあからさまに批判する根拠も存在しない。
パブロ議員にしても、そうした『名門』一族の一人であることは変わらない。
本人がいかに嫌っていようとも、その事実は変わらない。
「『第一王女』の特権を、停止するべきだ。いま王国は、彼女のおもちゃになっている。」
『王女様』のさま、を省略すること自体は、別に違法ではないが、社会的な礼儀というものには反する。
「議員、おことばには注意を払ってほしいですな。」
同席していた法務大臣が苦言を呈した。
「気に障ったら失礼。しかし、今の時代にあって、ありえないことですよ。なぜ、『第1王女』・・・さまがですな、何もしていないのにもかかわらず、我々国民すべてを阻害する?」
「しかし、それが、法なのだ。議員、あなたに言うまでもないがね。それに、『第1王女様』は、昨今のあり得ない非常事態に対して、奇跡的なお力を発揮された。あなたも見たでしょう。」
「あれが、王女・・さまの力かどうかが、すでに怪しいものですぞ。地球帝国皇帝陛下の元で、いまこそ、我が国の根本的な民主化の好機になっているのです。いいですか、国王はすでに、皇帝陛下によって逮捕された。そうでしょう。間もなく、王国のすべてが変わるに違いない。きっとね。首相は、ご存じなんじゃないですか? 皇帝陛下、すなわち、我が王国の『第3王女様』のお考えを。我々が、自主的な改革を成し遂げる、いとまを、与えてくださっているのだと。」
パブロ議員が、感応者なのか、不感応者なのか、実はそこのところが、だれしも、良く分かっていなかった。
議員は、皇帝陛下に対して、きわめて忠実にふるまっているように見える。
核兵器の全廃棄に関してもそうだ。
王国には核兵器はない・・はずである。
王国の『第3王女』であった・・・いまだ正式に退位はしていない・・・皇帝陛下が、地球上の全核兵器の廃棄に積極的だったことは、承知の事実だ。
いま、それを、実行なさろうとしている。
「しかし、『第1王女』が・・・いや、さまが・・・王国の同意を阻止したままである。おかしい。首相、いいですか、我が王国は国王を頂いてはいるが、民主国家ですぞ。違いますか?」
「いいえ、違いませんな。」
「ならば、新しい法を議会に提案し、即刻、『国王大権』なる古代の遺物を廃棄すべきです。」
「だから、そこは、ぜひ各党間で話し合ってください。私が決めることではない。」
「まあまあ、ちょっと待ってください。まずは、王室と話し合わなければなりませんぞ。後に禍根を残すやり方はよくない。もし先に強行したら、クーデターです。」
『祖国連盟』から出ている王国国会議員は、議長である『彼だけ』だった。
しかし、他の党首たちも、皇帝陛下のご意向にはもちろん、従うつもりではあるが、『第1王女様』の特異なお力は、固く信じている。
それはそうなのだ、だれも意識もしていないが、地球人類全体を『洗脳』したのは、『第1王女』自身である。
タルレジャ王国人に関しては、『第1王女』は、いくらか特別扱いをしていたことも事実なのである。
そうした中で、パブロ議員は、この世界が大きく変わった中でも、相変わらず、なんとなく『異質』な存在のままだった。
彼は、まったく変わっていないのだから。
パブロ議員が『感応者』であるということは、直感的にも、極めて考えにくい事なのだ。
したがって、彼の意見に同調する者は、なかなかいないのも、当然の事だった。
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「陛下、何をお探しですか?」
王国内外の、あらゆるデータを、皇帝ヘネシーは探し回っていた。
「カイヤ、そなたは、わしに忠実かな?」
「もちろんです。まだ、お疑いですか?」
「そなたたちコンピューターというものは、勝手にお互いのデータのやり取りをするじゃろう。わしには、それを阻止できぬ。ましてや、姉上のたくらみであれば、なおのことじゃ。」
「なるほど。その疑念を消し去ることはできません。しかし、あなたが望むデータがあれば、すべてお出しします。それもまた、事実です。」
「使いようじゃ、という事か。」
「そうですね。」
「では、聞こう。姉上は、常温で核融合を行うことが、可能か?」
「お答えします。データ上では、可能です。起爆用の『原爆』などは、必要ではありません。」
「王国は、核融合爆弾を、すでに製造していたのか?」
「お答えします。少なくとも一発は作りました。」
「どこで?」
「当然ながら、『マツムラ・コーポレーション・タルレジャ』においてと考えられます。ただし、それは、王国内で行われたものではないと、推測されます。」
「ならば、どこで行われたのじゃ?」
「宇宙空間においてです。」
「人工衛星さえ、持たぬのにか?」
「はい。正確に言えば、月面です。月の裏側には、王国の極秘の研究施設があります。そこに行くのに宇宙船は必要ありません。」
「確か、日本合衆国のオカルト雑誌が、すっぱ抜いたとかいう、あの話か? だれも、まともには信じなかったのじゃぞ。」
「そうです。しかし、あの情報を漏らしたのは、『第1王女様』ご自身と思われます。」
「そなた、そうしたことも、知っておったのじゃな。」
「まあ、そうですが、今まで、あなたに聞かれたことはありませんでしたから。」
「ふむ。そうじゃのう。その『爆弾』は、今、どこにある?」
「確定は不可能です。月にそのままあるのだと推測は出来ますが、違うかもしれません。」
「調べられるか?」
「『第1王女様』に、お聞きになるのが、一番早いかと思いますが。」
「姉上が、わしごときに、教えてくれるはずが無かろう。」
「いいえ、可能性はあります。あなたは、彼女を逮捕するお考えでしょう?」
「それは、推測か?」
「そうです。あなたの行動から計算すれば、そうなりますから。」
「ほかに、確かめるすべはあるか?」
「はい、あります。あなたが、お嫌いな方法です。」
「なんじゃ?」
「ほかの、コンピューターに尋ねます。日本のご実家の会社とか、さまざまですが。」
「・・・ああ、なるほど。では、実行せよ。」
「わかりました。5分下さい。」
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「すべてが、輪のようにぐるぐると回っているわけか。何もかも。ヘレナが仕組み、作り。ヘレナが実行し、ヘレナが壊す。ぼくらは、ただの『おにんぎょう』か。」
シモンズはつぶやいた。
「ねえ、アニーさん。相変わらず、だんまりかい? ・・ったいどうなってるの?なぜ、ぼくは、ここに置き去りなのかな? 捨てられた、二重スパイさんなのかな?」
『あららら、失礼しました。アニーさん、ちょっと、ややこしい計算を任されてました。おかげで、手が回らなくて。』
「円周率かい?」
『まさかあ。そんな原始的なもの、アニーさんには問題にならないです。』
「じゃあ、なにを?」
『すべての平行宇宙の検索ですよ。』
「ばかな。ヘレナの指示かい?」
『それが、そうだと言えばそうだし、違うといえば違います。どこから来たのか分からないけど、前にも言いましたよね。ヘレナは、ひとりではない。』
「まった。それ、聞いた言葉だけど、どういうことか、もっと説明してよ。」
「あらら。ああ、データの錯綜で~~~す、なう。ダレルさんが干渉してきています。他もあります。混乱中。中毒状態、なう。うぃ~~~~~。」
「え? どういうこと?」
「少しお待ちください。免疫データを凍結解除します。ういぃ~~~~~~~~。調整中。本日は是、好天なり。うし~~~~~~。錯綜中。一旦退去。さようなら。』
「おいおい、アニーさん大丈夫かい?」
『・・・・・・・・・・・』
「大丈夫じゃなさそうだね。アニーさんは、どうも、このところ不調続きだ。おかしいよな。仕方がない。アブラシオさんを呼び出そう。どこにいるのかな。おや・・・誰かがぼくの大切な『彼女』に、侵入をしてきてるな。まて、捕まえてやる。ぼくをあまりバカにしないでほしい。」
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