わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百七回
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マヤコは、女将さんの店に座り込んでいた。
まだ、開店時間にはなっていない。
「まあ、長い時間が経ったねぇ。おたがい、いつの間にか違う道を歩んだけど、また協力する必要があるのかもしれないねぇ。」
女将さんが、しみじみと語った。
「そうだなあ。どうなんだろう。だって、ふたりとも『第1王女様』の援助を受けて、お店を持つことになっている。まあ、そこから言えば、すでに親会社の傘下に入ってるということだからなあ。いまさら・・・かな。」
「ふん。そうだねぇ、まあ、そう言えばそうだけどさあ。あんたは長い間、姿くらませてたし。」
「ふう・・。2憶5千万年ですよ。女将さん。それがどういう時間なのかって、一言じゃあ言えないけどもね。ふたりとも、恐竜時代から生きてるんだからね。本物のティラノサウルスなんか見てるんだから。」
「つい先日も、見たじゃないかい。」
「ああ、そうそう。あれはもう、びっきりしたわ。」
「『びっくり』だよ。びっくり。なまってるよ。あんた。」
「おほん。まあ、そういうこともあります。地球中を渡り歩いたんだから。で、何時に来るっていうのですか? あの宇宙警部さん。」
「もう来るでしょうさ。意外と時間に正確じゃないんだよ、あの人。」
「さかんに、調べ廻ってるみたいね。あっちこっち。」
「ああ、そうさね。それが仕事だからさ。」
「ビュリアさんに会いたいんでしょう? まだ。」
「うん。そうなのさ。未練がましいねぇ。」
「まあ、あたしたちがこうして生きているんだから、ビュリアさんがここにいたって、おかしくはないもの。」
「まあね。行方不明です。としか言えないじゃないか。まあ、実際そうなんだし。」
「うん。そうなんだけど。地球にいるのかなあ?」
「いや、あたしはね、いないと思うよ。きっと太陽系からも出てるね。」
「証拠は?」
「ないさね。そんなもの。」
「じゃあ。わからないじゃないか。」
「そうさ。勘よ。勘。」
「まあ、女将さんは、ビュリアさんのお母様だから。そりゃあまあ、勘もあるでしょうけどね。」
「いやあ・・・・そりゃあ、まあ、無理さ。」
「やぱり?」
「そう。それにしても、ウナはどうなってるのさ?あんたが一番の親友だろう?」
「それこそ、さっぱりですよ。まあ、だいたい『光人間』なんだし、アッと言う間に消えてしまう。もし、ここにいても、目には見えないときてる。」
「うん。でも、消滅はしないさね。」
「しないですね。しない。どこかには、いる。でも、タルレジャ王国の、王女様の神様以上に見つけにくいかも。」
「あんた、タルレジャ教徒やめたのかい?」
「いえ~~~。特にやめたとは思ってないよう。女将さんは?」
「まあ、『第1王女様』は、大事な資金援助者だよ。やめられないね。」
「ですよね。」
「あ・・・・来た来た。」
じわっと、大きな厚く重たい、店のドアが開いた。
「やあ、遅くなりました。失礼、失礼。」
この暑いのに、分厚いオーバーの襟を立てて、サングラスにカウボーイ・ハットでは、余計に目立ってしまう。
まあ、この、なんでもありの大都会では、文句を言う人はいないけれど。
「警部さん。あの、その、あつっ苦しい服、脱いでくださいな。ほら、お預かりいたしましょう。」
「そうですか、いやあ、女将さん。すいません。どうも、ぼくの人類形態の時の青い肌の色は、目立つらしくてね。」
「まあ、あなたくらいの高等技術がある人なんだから、どうにでもなるでしょうに。」
「ふむ。」
警部さんは、座りながら答えた。
「ぼくの、基本的人権なんですから。」
「そら、まあ、そうだね。ははははは。で、何か収穫がありましたか。」
「ここ、ニュース見てなかったですか?」
「いやあ、女二人、ぎゃわぎゃわしゃべってたからさ。」
「『第1王女様』の搭乗していた飛行機が落ちたらしいですよ。婚約者もいっしょだ。」
「はあ?そりゃあ、大事じゃないかい。」
女将さんは、巨大な画面のテレビをつけた。
まさに、どこの放送局も、そのニュースで、もちきりになっていたのである。
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「うひゃあ・・・落ちるか? こんなところで。通常考えにくい。一番落ちないあたりだ。」
シモンズは、うなった。
「お~い。アニーさん、どうなってるの。」
『アニーばっかりに、頼らないでくらだい。』
「よく言うなあ。協力するって言ったじゃないか。」
『あ、確かに。』
「ぼくの偵察機を出すには、ちょっとばかり遠すぎるんだ。どうなったの。生きてるのかい、あの化け物王女さまは。」
『ヘレナ自体は、まったく影響を受けません。』
「わかってるさ。弘子さんの体の方だよ。」
『生きております。アブラシオが救助に出た方が良いと思ったのですが。ヘレナがそれは拒否したんですよ。』
「そりゃあ、そうだよアニーさん、ヘレナは地球帝国から距離を置きたいんだ。あまりアブラシオさんには頼りたくはないんだろう。」
『まあ、理解できなくはないですけどね。合理的じゃあないです。』
「まあね。でも、生きてるならばいいけど、弘子さんの体自体は人間なんだ。どうやって助けるの?まあ、助けること自体は恐竜さんの事例から見ても簡単だとは言えるし、ヘレナ自体がやった方がより簡単なんだろうけど。」
『王国軍の新鋭秘密潜水艦を使うつもりです。』
「う、そんなのがありか・・・世界に公開すると? それもまた、今時、かえって危ないような。」
『そうそう。王国の実力を、帝国にまた見せつけるお考えであります。たぶん。』
「ふうん・・・・そりゃあ、第3王女様が黙ってないだろ?妹と戦争する積りかい?」
『まあ、そうですね。それも、実は、ありなんです。ヘレナの中では。ただし、ルイーザさんは、ヘレナが本国に帰国し次第、逮捕する考えでしょう。』
「それはそれで、いいのかい? 本当に王国と帝国が戦争なんかになったら、どうなるんだか。それって、この前の火星人対王国の再試合だろう。」
『ヘレナが良いなら、アニーさんは関知しませんよお。そういうことも、あり得ると言う事です。』
「おかしな関係だなあ。君たち全部。理解しがたい。でも、今度そんな戦争したら、全地球が敵になる。いくらなんでも、王国に勝ちはないさ。」
『ほんとに、そう思いますか?』
「ちがうかい?」
『はいな。全く違います。はっきり言って、ヘレナひとりで、アッと言うまに、地球は壊滅します。あっという間です。』
「ふうん・・・アニーさん、それじゃあ、全部終わるよ。ヘレナにとっても、いい事じゃないよ。《ぼくに何を期待してるんだ? あの娘。絶対に、何かを求めてるな。まてまて、どこかにメールとかが来てるに違いない。捜そう》」
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「おい、あれ、見ろよ、あの真っ黒なやつ。」
武が言った。
海はまだ穏やかだが、遥かな向こうに真っ黒な雲が出てきている。
「嵐がいるな。」
正晴が応えて言った。
「こういう場合は、まずは定番だよな。あらら、あの、海の中から出て来た、真っ黒なのはなんだい?」
武は、少し近眼がきつい。
王国に本社がある、マツムラ・コーポレーションの傘下である会社の、コンタクトレンズを常時愛用させられている。
「まてまて、ありゃあ、潜水艦だ! うわ、どかっと出たぞ。」
巨大な潜水艦が、1キロほど向こう側に浮上してきた。
「これあまた、異常に大きくないか?」
武が言った。
正晴は、隠れ武器マニアである。
あの、弘子のクラスにいる、ちょっと生意気なやつよりも、実は詳しい。
「うん。確かに大きい。日本合衆国防衛隊の『新型瓜生型』が84メートルあるが、大分大きいな。100メートル以上ある。110メートルくらいあるかも。形が変わってるね。全体が流線型でむしろ欧州連合の新型潜水艦に近いけど、もっとすっきりしてる。視界はよくなさそうだし、丸見えになるな。砲弾みたいだ。」
「海に沈んでる部分が大きいんじゃないの?」
「そうかも。まあ、弘子が作ったのなら、なんでもありだが。」
「こんなのも作るのかよ。あいつ?」
「極秘だとかは言ってたが、『軍艦も作るんだよねぇ~~~わたし。ふふふ。』とか。」
「おそろしや・・・・・道子でよかった。」
「道子さんは、小型の武器を作ってるらしいぜ。人間を瞬時に消滅させる光線銃とか・・・ま、弘子が言う事だから、どこまで本当かわからないが・・・・・」
「げ、絶対本当だよ。あいつは、君には嘘を言わないんだ。」
「そうかあ?」
「ああ。あ、ボートが来る。」
「助かったかな・・・・。弘子はあそこにいる。手を振ってる。うわ、海に飛び込んだぞ、なんだなんだ。」
「こんな外洋で泳ぐかよ! こっちに来るみたいだ。冗談じゃないよな。あんなのと結婚したら、歯がたたないぜ。」
弘子・・・『第1王女様』は、嵐が近づいて波が高くなった太平洋を、飛び魚みたいに猛スピードで泳いでくる。
信じられない速さだ。
あっという間に、彼女はゴムボートにすがりついた。
「きゃあ~~~。きちゃったわ、また、じいに叱られるわね。上げて、ほら、正晴さん。」
正晴は、弘子の手を握って引っ張り上げた。
「やったあ! やっと、握ってくれたわね。サンキュー。」
それから、彼女は正晴に飛びついて、猛烈なキスを贈ってきた。
「ぎょわ~~~。やめてくれ~~。」
「やれやれ、いなくてよかった。まあ、あいつはこういうことは、やらないからな。」
武が反対を向きながら、聞こえるようにつぶやいた。
「ふふふふ。代わりにしてあげましょうか、武さん。」
「いやあ、いいです。叱られますから。」
「ふん。そうか。まあ、いいわ。婚約者なんだからな。だいたい、そっちから来るべきなのよお、ちっとも来ないんだもの。」
「え・・・あ。そうなのかな・・・・」
「愛してるなら。命がけでも来るものよ。」
「いや、あの・・・すみません。」
「まあ、事態が事態だから、許してあげるわ。」
びしょびしょの弘子の姿が、ふたりとも、大変になまめかしく見えた。
「まあ、婚約の儀が済んだら、たっぷりとレッスンしましょう。正晴様。武さんは、ルイーザがみっちり仕込む約束だしね。」
「あの・・それあ、つまり・・・」
弘子=ヘレナは、さっと立ちあがって、潜水艦を指さしながら叫んだ。
「さあ、わが王室の、新鋭潜水艦、正式名称『TAー50』、愛称『ビーバー』くんに、ようこそ。まだ首相でさえ乗ったことがないんだから。」
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