わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百六回
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「核兵器の全廃に関しては、一切の例外を認めないということで、日本合衆国は同意したわけですが・・・」
事務総長・・・初代地球帝国首相・・・は杖出首相に言った。
杖出首相は、電話会談というものがあまり好きではなかった。
まあ、というよりも、電話という仕組み自体が嫌いだったのだ。
本来彼は、政治家になんかに、なるつもりはなかったが、親友がタルレジャ王国国王に収まってしまったのと同様に、長男・・兄、が先立ってしまったため、父の築いた『地盤』というものを、継承せざるを得なくなったわけである。
政治家として世間に出る前は、自室の電話機は押入れの中に隠していたし、携帯電話というやっかいな代物も持っていなかった。
「ま、堕落したもんですなあ。」
首相は、日本語で軽くつぶやいた。
『はあ? なんれすか、それはあ?』
日本語に堪能な事務総長が、いぶかしそうに言った。
「ああ、失礼、貴方は分かるんでしたな。ははは。いや失礼。まあ、そうですなあ。」
『しかし、タルレジャ王国は、いまだに承認していないのです。非常に問題だ。』
「まあ、王国の首相さんは、もちろん認める気があるが、国王がうんと言わないとかですな。」
『あの国は、民主国家のはずでしょう。』
「国王大権が発動されたままですよ。この状態では、国王がうんと言わないと、進まないですな。」
『国王など、顔も出したことがないんですよ。はたして、存在しているかどうかも分からない。』
「ああ、その点は、間違いなく存在しております。」
『なんで、断言出来るのですかな?』
「そりゃあ、親友だったし、最近も話したから。あれれ、あなたには、お話したような気がしますが?」
「確かに聞いたよ。」
「信用できないと?」
「私は、信用してますよ。でも、『南北アメリカ自由統一国』は疑いを持ってる。『ロロシア』もそうですな。かなりの国がそうです。あなたが国外に出た記録もない。電話にも出ることが出来ない環境だと聞くのに、どうやって話をしたのかも、秘密にされたままですから。いや、私は、疑ってはないですよ。実権があの『第1王女様』にあることは分かってますよ。彼女が並の人間ではない事もね。しかも、半分日本人だと言う事もね。我々には無いコネクションが、貴方にはあるだろうとも。しかしながら、我が偉大な『皇帝陛下』は、実の姉上ではあらせられるが、間もなく『第1王女様』を逮捕するご意向です。『婚約の儀』が終わった直後に。絶対に秘密ですぞ。あなたの地球帝国『副首相承認』がなくなりますからな。」
「いやあ、別に言うつもりなんかないですな。しかし、それは危険ですなあ。」
「そう思いますか?」
「ええ、絶対に危険です。が、まあ、皇帝陛下のご指示であれば、いた仕方ないですな。」
「もちろんそうです。絶対にそうです。あああ。『ちょと待てくらさい』・・・・」
事務総長は、日本語で言った後、電話の向こうでなにやら話しているようだった。
杖出首相の手元にも、メモが来た。
『第1王女の専用機が落ちたようです。』
「ああ~~、あなたのところには、情報が来ましたか?」
「来ましたよ。このことですかな? 『第1王女、さまの』飛行機が落ちた。らしい、と。」
『はい。それれぇす!ああ、あとで掛け直しましょう。』
「解りました。」
首相は、電話機を置いた。
官房長官が言った。
「太平洋上で、行方を断ったようですが、まだ現場は特定されていません。どうやらしばらく前からレーダーからは消えたままだったようですが。」
「通信は?」
「通常高度にいた時は、連絡が来ていたようです。その後、急速に降下したらしいと。」
「はてな。ああ、『緊急安全保障会議』を開催しましょう。他はキャンセルね。」
「了解。」
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深い海の上である。
見渡す限り、それ以外には、なにもない。
「よくもまあ、こんなところに落ちたもんだ。」
機長が言った。
「沈みますよ。すぐに。」
「乗客の救助は?」
「もう始まっています。行きますか?」
「ああ、行こう。これ以上の不名誉は御免だからね。」
海上すれすれで、機体は大きく二つの固まりに折り曲がっていた。
大きなゴムボートが4つ、機体の両側に出されて、脱出用のシューターが、どわんと出ていた。
幸いお天気は良い。
波も、外洋にしては、それほどでもなかった。
「王女様、降りてきてくださあい。」
王宮でのお付き女官のトップである、『侍従補長』が叫んでいる。
「あのふたりの 無事を確認しなさい!!」
「了解ですから、先に、降りてくだあさい。」
「先に確認。あたくしは、こんなの問題じゃないから。」
「はあ・・・『こちら、AI、各班確認。フィアンセお二人は、無事か。すぐ確認。』」
すると、少し間が空いてから、無線が入った。
「『は~い。こちらAJ。お二人ともご無事で収容済み。特におけがもない模様。』」
「よかった。王女様、ご無事が確認されました。」
「おっしゃ。じゃ、降りるわ。」
『第1王女』は、海上のボートに滑り降りた。
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タルレジャ王国の極秘潜水艦、通称『ワンダフル1』がすでに現場に到着していた。
これは、通常のディ-ゼル機関でも、原子力潜水艦でもない。
エネルギーは、あの軍艦3隻と同様に、海水から得ている。
おまけに、日本合衆国の『新幹線』並みの速度で、海中を走行する。
その技術は、極秘事項だけれど、遥か昔の火星の技術から受け継いでいる『技』である。
「艦長、現場直下です。」
「ちょっとずつ上がれ。ぶつけるなよなあ。王女様あたりにぶつけたら、こっぴどい目にあうぞお。少しずつ浮上だ。合図を出せ。」
「了解。小型ブイ上げます。」
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「ふん。事務総長も、なんだかんだと言いながら、ぼくをお疑いのようだな。」
他の閣僚たちを集めている間、杖出首相は新しい秘書兼『スパイくん』に、ぶつくさ言っていた。
「嫌がらせに近いやり方ですねぇ。」
「まあ、ね。仕方ないよ。」
「『第1王女様』周辺に、情報は伝えますか?」
「いやあ。やめとくよ。今は無理だろう。『今の心配事より先のもめごとが大事。』だからね。」
「どこの、諺ですか?」
「ここのことわざ。」
「はあ・・・・ああ、じゃあ、ぼくは、情報収集に回りますから。」
「ごくろさん。」
入れ違いに官房長官が入ってきた。
「集まりました。」
「ふん。早い方ですな。野党のみなさんは?」
「まだ大人しいです。記者さんの一部が動き出してます。」
「早く会議室に入ろうぜ。」
「そうですな。」
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