わたしの永遠の故郷をさがして 第四部 第百三回
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杖出首相は、『第一王女』と握手を交わしながら言った。
「よい旅を。『地球帝国』が護衛機を飛ばすそうですな。なんでも、火星人提供によるU.F.Oとか。」
「まあ、存じませんでしたわ。またまた、あの『新・防空観察隊』の攻撃が予想されるのでしょうか?それとも、宇宙怪獣かな?」
『第一王女』としては、多少の皮肉も加えた積りである。
首相は、そこには頓着しないという感じで答えた。
「まあ、さすがに、前回のような事は起こらないでしょう。」
「わたくしは、タルレジャ王国の王女ではありますが、『地球帝国』には関わっておりませんもの。」
「まあ、皇帝陛下、また総督閣下におかれましては、あなたは大切な存在です。」
「まあまあ、あたくしは、おふたりの『僕』としての誓いを立てましたのよ。もしも、死を賜るとおっしゃるのであれば、従わなくてはならないのです。ま、今のところ、そうしたご指示はありませんけれども。」
「まさか。現代において、あなたが切腹するようなことは起こりますまい。」
「首相様は、思い切った事をおっしゃいますね。まあ、そこがあなたの良いところなのです。まあ、失礼。あたくしとしたことが。ほほほほほ。」
「がははははは。いやいや。・・・ああ、いいですかな・・・」
首相は声を潜めた。
「何と言いましても、いま、この地球上で本来の自らの意志を維持している政治家は、ごくわずかであり、しかも、不感応者は次々に排除されております。だいたい、こんなこと言ったとたんに身が危ないのですからな。しかし、こと、貴方に対してだけは、なぜか大目に見られているらしい。」
「危ない実験をしてはダメですよ。首相さま。お気をつけあそばせ。わたくしだって、いつどうなるか、実際のところは、わからないのです。実を言いますとね、すでに最新の全地球監視装置が稼働し始めておりますの。それは、わたくしとは、直接関係のないところで作動しております。地球上のすべての人類が、いま、まさに何を話したか、即座にタルレジャタワーの最新コンピューターが解析し、『対処』することが可能なのです。必要ならば、その場で、即処刑、だって、簡単ですわ。ま、それは、やろうと思えば、ですわよ。皇帝陛下か、総督閣下がね。ただし、わたくしの周辺は、空間が加工されていて、読み取ることはできませんの。攻撃も、多分できないはずです。だから、今のあなた様は安泰なのですわ。しかし、まあ、今回のお空の旅でも、何も起こらないはずが、ありませんのよ。」
「はあ? やめてくださいよ、そんな不気味なこと。それは、予知能力とか、ですか?」
「まあ、そうですわね。そう言ってもいいでしょう。きっと、何かが攻撃して来る。当然なのですわ。今は、まだ、一部のミュータントさんたちや、過激な不感応者さんたちが、現状をよく理解できずにいらっしゃるのです。誰が自分たちのひ味方になるのかも、分かってはいませんから。ま、もっとも、あたくし相手に攻撃をやっても、無駄ですの。『む・だ・』。ね!」
「ね。と言われましても、困る。そりゃあ、大事でしょうに。」
「ほほほ。まあ、見ていてください。まずは、相手が、わたくしを攻撃しても、『無駄』だ、と、悟る必要があるのです。まだ、いくらか見くびっている方がいらっしゃるのですわ。ね、首相様、貴方が、あたくしを裏切らないかぎり、あたくし個人は、あなたを支持し、援助します。・・・あらあ、また、『日本合衆国』ほどの大国の首相様に向かって、タルレジャ王国のような小国の王女が、なま言って、ごめんなさい。ほほほほ。じゃあ、行ってまいりますわ。あたくしは、『婚約の儀』が済んだら、すぐにいったん、ここに戻ります。そこで、また首相様とお話しできると、ありがたいのですが。まあ、まずは、世界がどう動くか、あなたはよく観察をしなくてはなりませんことよ。あら、また失礼。」
「はあ。そこは、よしなに。。。。でも、ほんと、大丈夫ですか? 無用な戦争は、困りますぞ。」
杖出首相は、ぎろっと『第一王女』を睨んだ。
普通の政治家には、いまや、できないことだ。
「ほほほほ。大丈夫ですわ。でも、面白くなりますわよ。」
首相は、王女の、実際半分くらいは隠されていない、だんだんと近寄って来る大きな胸からは、極力顔が離れるようにしながら答えた。
「もう、十分、訳が分からなくなってますよ。」
「ほほほほほ・・・」
『第一王女』は、手を振りながら首相から離れて行った。
お付きの護衛官たちが、再び彼女を取り巻いた。
「聞くところでは、あの連中全部が襲い掛かっても、王女には勝てないらしい。ふん。」
首相は、自分の護衛を引き連れて、帰路に就いた。
この人たちに襲われたら、自分はひとたまりもないな、と思いながら。
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正晴と武は、別の入口から搭乗していた。
『地球帝国』の幹部たちは、あまりタルレジャ王国の『婚約の儀』だけが突出して、世界中の帝国民の関心になることを望んではいなかった。
その後に予定されている、『地球帝国』の、創立式典こそが大切なのだ。
しかし、いまだに、火星のダレル司令官が姿を隠したままなのは、地球帝国の官僚たちにとっては、かなり気がかりだった。
リリカは、まだ宇宙の彼方に行ったままで、そこに留まっている。
もっとも、『皇帝陛下』と『総督閣下』は、きちんと激務をこなしていた。
いまだ、15歳の皇帝陛下は、けっして『飾り』ではなかったのだ。
彼女は、あまり、タルレジャ・タワーから外に出ることはなかったが、的確な指令が、毎日たくさん出されていた。
実際に、地球全体を動き回っているのは、『総督閣下』である。
火星人が提供したとされる、いわゆる『U.F.O』は、10分もかからずに、地球のどこにでも飛んでゆくことが可能だ。
タルレジャ・タワーのコンピューター『カイヤ』は、次第に、その能力を拡大しつつあった。
この名称の由来が、はるか古代の『ド・カイヤ集団』にまで遡る、などということを知っているのは、『第一王女』と、わずかな『不死』の人たちだけである。
それは、王国の『ババヌッキ社』についてもそうだったけれども。
正晴と武は、大人しく、広い座席に、向かい合って座っていた。
『まもなく、離陸いたします。もう一度、ベルトのご確認をお願いします。』
アナウンスが入った。
実のところ、このくらい大きな飛行機に乗るのは、ふたりとも初めてなのだ。
松村家の『小型自家用機』には、乗せてもらったことがあったけれど。
第一王女様は、例によって、後方の、がっちりと仕切られた個室のなかにいるらしい。
ちゃんと乗ってるんだかどうかさえ、ふたりには確認できなかった。
飛行機が、ゆるゆると動き始めた。
「なんだか、ごとごと動く棺桶みたいだな。」
武がつぶやいた。
「ば~か。縁起でもないこと言うなよな!」
正晴がたしなめたが、その間にも、大きな機体は、しずしずと、滑走路に侵入していた。
やがて、ぴたりと止まり、ひと呼吸したあと、飛行機は本気で滑走を始めた。
びっくりするくらい、猛烈な加速である。
大きな揺れもなく、その巨大な機体は、そのまま、ふわっと宙に浮かび上がった。
慣れているビジネスマン達や政治家には、毎回、同じことだろうけれど、このふたりにとっては、珍しい体験である。
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タルレジャ王国のアヤ湖では、幸子さんの結婚式が始まっていた。
「どうしよう・・・女王様は、来てくれないのかなあ。きと、いそがしいしなあ。・・・幸子、少し寂しいな。」
幸子さんの結婚相手は、日本合衆国の『中央警察』警部である。
幸子さんの、一目ぼれだった。
本来は普通の人間だけれど、アヤ姫様の魔術で、すでに『鬼化』されてしまっていたのだ。
もう、『人間』とは言えない。
そうでないと、『幽霊』であり『鬼』でもある幸子さんとは、結婚できないのだから。
しかし、いまは、まだ二人とも、人間の姿のままである。
ここには、いまや世界中の『池の女神様』たちが集まっていた。
コーラス隊は、彼女たちが自ら勤めていたのである。
『この世の見極め』と呼ばれる、古い『祝い唄』が始まっていた。
アヤ湖には、かつて見たこともないような、深い霧が立ち込めていた。
そうして、妖しい鬼火が飛び交い始めていたのである。
この時間に、観光に来る人は少ないとはいえ、『三王女』人気で、いまや王国は、観光地として脚光を浴びていた。
また、このお池は、神秘的な現象がしばしば起こる『心霊スポット』として人気が高まっていた。
とは言え、湖畔の大部分は北島側にあるので、観光客は入れない領域が広い。
それでも、アヤ岬からは、全体が見渡せる。
この夜のアヤ湖は、かつて見せたことがないほど、怪奇現象が多発することになったのである。
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