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この子は全く泳げないのに、なぜかボートに乗りたがるのだ。
二人でボートを漕ぎ、湖の真ん中あたりまで行った。
そこで私はなんのためらいもなく、妹の背中を押した。
水に落ちた妹は一瞬水面から顔を上げたが、なにかを言う暇もなく再び水の中に沈んでいった。
帰ると母が聞いてきた。
「あれ、美穂は?」
私は人事のように答えた。
「一人でボートに乗っているわ」
母は心配そうな顔をしたが、それも一瞬のことだった。
ボートには毎年乗っているのだから。
片付けが終わって食事の用意のとき、母が言った。
「美穂を呼んできて」
「はーい」
私は桟橋からボートを蹴って沖に流してから、湖の近くでしばらく時間をつぶした。
そして帰って言った。
「美穂がどこにもいない」
母が血相を変えて湖へ走り出した。
そして沖を漂う無人のボート見つけて叫んだ。
「美穂――――っ!」




