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その1

 某○○学園在学の1年生、鏡野かがみアリスは重大な任務を担任から承り、図書室でひとり特別任務を遂行中であった。

「まったく何でアタシが図書室の本の整理なんかしなきゃいけないの!?」

 それは彼女が図書委員だからだ。

 今日の彼女の運勢は最悪だった。TVの占いもそう示唆していた。いや、忠告していた。

 本来ならば彼女は今ごろ友人の音咲おとさきあおいと学校近くに新しくできたチョーおいしいと女子高生に人気のケーキ専門店でチョーおいしいケーキをおなかいっぱい食べていたハズなのに……。

 キーッと歯を食いしばりながら彼女は午後のひと時のことを思い出した――。


 彼女はいつも通り葵ちゃんと一緒に昼食を摂ろうとしていた。ただひとつだけ違っていたのは担任の先生に声をかけられたくらいだった。しかし、それが彼女の今後の運命を大きく変えようとは誰しも予想だにしなかった……。

「おい鏡野、今日の放課後図書室の本の整理頼むな」

「はっ!?」

「ほら、もうすぐ冬休みだろ。だから在庫チェックがどうとかこうとかで放課後図書室に来て欲しいとさ、伊原いばら先生に伝言を頼まれた」

「なんであたしが!?」

「だってお前図書委員だろ?」

「……あっ」

 そうだった、自分は図書委員だった……。いつももうひとりの図書委員の星川ほしかわくんに任せっぱなしで忘れてた。で星川くんは……今日は学校をお休みらしい。彼はたまに研究がどうとかこうとで学校をサボることが多々ある。

「じゃあ頼んだぞ」

「は〜い」

 取り合えず返事はしたが、その返事にはやる気が砂ひと粒のカケラも無い。

 そんなアリスを見かねて葵はぎゅっと握った拳を自分の胸の前に持っていき、がんばってポーズを取って真剣な眼差しで言った。

「がんばれアリスちゃん、私は応援してるからね」

「応援だけ?」

「じゃあ、アリスの分もケーキ食べてくるよ?」

 葵はジョーダンやいじわるで言っているのではない。彼女は真剣にアリスの為だと思っての発言だった。

「それはありがと、死ぬまで食っておいで」

「うん、私アリスちゃんのために精一杯がんばるから」

 にこやかに純粋無垢な眩しい、眩しすぎる笑顔をバラバラと振り撒き散らす葵。

 この日の午後、某○○学園の1年生の女の子が学校近くのケーキ専門店でケーキの食べすぎでぶっ倒れ救急車で運ばれたらしい。意識を失い救急車で運ばれるその女の子の顔は満足に満ち溢れた春爛漫のような笑顔だったという。もちろん誰かさんが言ったように死にはしなかったけど。

 ――と、そんないきさつがありアリスは放課後しぶしぶ図書室に行ったのだが、そこで待ち受けていたのは?

「アリスちゃん、良くぞ参られた!!」

 両手を大きく広げ今にもアリスに抱きつきそうな女性――あだ名は『ベルバラ』。あだ名の由来は髪の毛の色と髪型が某ベルバラに登場するオスカルに似ているから。何もしなきゃキレイなのに、その言動と行動は変だった。

「カワイイぞアリスぅ〜、その金髪のツインが特に魅力的だ!」

 ベルバラはアリスの身体をガシッと抱きしめハグハグしようとした。が、両手は空気を抱きしめた。大いにからぶったのである。

 スッと移動し、ベルバラの攻撃を交わしたアリスは明らかに冷ややかな目をしていた。この目は自分より下等なモノを見る目だ。アリスはベルバラを見下していた。

「先生、セクハラで訴えますよ」

「ひどい、ひどいわ。セクハラなんて……愛情表現なのに……ぐすん」

「そんな愛情いりません」

「ガボ〜ン」

 床に手を付き膝を付き、大粒の涙をぼろぼろ流し、黒い陰で全身を押し潰されそうなベルバラ。アリスのひとことは彼女の胸を貫き、絶望という名の淵へと叩きのめした。

「先生、早く帰りたいので用件を」

「はっ! そうだったわ」

 ベルバラはバッとスッと立ち上がった。背筋はピンと伸び遠く彼方を儚い眼差しで見つめている。そして右手は意味もなく前に伸ばされ『ああ、愛しい恋人ひとよ……』と言った感じのポーズを取っている。そう、このポーズは宝塚っぽい。

「そうだ、そうだった。私はアリスに特殊任務を与えねばならなかったのだ。そして私は行かねばならぬ!!」

 しゃべり方も宝塚っぽかった。

「その任務って何ですか?」

「逃げた図書委員を私が地の果てまで追いかけている間、独り本の在庫チェックをして欲しいのだ」

「はっ!? ひとりで?」

「そのとおり。今回図書委員の1年全員に召集をかけたのだが、いつもどおり奴らはこなかった。いつも来るのは本を愛する努力家の星川くんだけだ。が、しかし、今日は星川くんは休みらしいじゃないか……(泣)。そこで今日という今日は1年の図書委員を全員とっ捕まえて血祭りに上げてくれようではないか! 私はどこまでも、どこまでも、地の果てまで奴らを追いかけ追い詰めてくれる、は〜っはははは!!」

「…………」

 ――イッちゃってる。

 よかったちゃんと来て。そうアリスは心の底から思った。もしちゃんと来てなかったら絶対地球の裏側――いや、宇宙の果てまで追いかけられていたに違いない。そしてこんな目やあんな目にあっていたに違いない。考えただけでも恐ろしい。

 ベルバラは闘志をメラメラ燃やし拳をぎゅっと握っていた。こいつは敵に回してはいけない女性だ。なんたってこの学校の狂師四天王にその名を連ねる教師だ。

 変人教師の多いことが地元でも有名なこの学校には四天王と呼ばれる選りすぐりの変人狂師がいる。そう、それはまさに君臨!

 まず最初に名前を挙げられるのは、日頃から奇妙奇天烈な実験を学校のどこかにあると噂される学校非公認の『妖弧ちゃん研究室』で行っているらしい白衣のセクシィー科学教師(本人は何でも可能にする可学教師だと言っている)玉藻たまも妖孤ようこ先生。陰陽師のサイドビジネスをし、式神と呼ばれる謎の生命体を操り、時として悪いことをした生徒のワラ人形を作り呪いを架け、玉藻先生のことをキツネの妖怪だと言って成敗しようとしている古典教師の阿倍野あべの聖明せいめい先生。全てが謎に包まれ、その存在すら確認されていない謎の学園長。そして、ベルバラことフェイシングが得意な体育教師の伊原いばら尚美なおみ先生。

 この変人狂師四天王に逆らっては楽しい学園生活を送ることはできない。

 ベルバラは何処からともなく1輪の薔薇(造花)を取り出すとアリスにプレゼントした。いつでもベルバラは薔薇の花を携帯している。がそれをどこに隠し持っているかは不明。

「そんなわけで行ってくるよアリスぅ〜」

「さっさと行ってください(=さっさと消えてください)」

「…………」

「……?」

 ベルバラは何かを求め、待ち望んでアリスをあつい、あつ〜い眼差しで見つめている。――こんな目で見られると恥ずかしい。

「何ですか先生?」

「行ってらっしゃいのチュウは?」

「そんなのありません」

 きっぱりさっぱりはっきりとアリスは断言した。普通は断る。

 無言でこの地を後にするベルバラの背中はどこか哀愁漂い物悲しく見えた。


 ――とまあ、そういう理由でアリスは独り図書室で特殊任務を遂行中であった。特殊任務と言っても図書室の本の整理と在庫チェックなのだが、がしかし!! 特殊任務というのにはある理由があったりする。この仕事は特殊任務と呼ばれるような特殊で大変な仕事だったりする。

「本なんか読まないアタシがなんで図書委員なんかやってんだろ?」

 それは彼女が押し付けられたからだ。

 たまたま学校をサボって行かなかった日にクラスで委員決めが行われたらしく、誰もやる人がいなかった図書委員を押し付けられてしまったのだ。

 2学期も、もう終わろうとしているのにアリスは図書委員の仕事をしたのはこれが初めてだった。

 他の1年の図書委員に至っては星川くん以外は今まで一度も仕事をしていないというのだから、この学校の図書委員は人気が薄いことが伺える。図書委員の人気が無いのは”この“図書室にも問題があるのだが……。

 人気が無いのは図書委員だけでもない、図書室もあまり人気がない。――というかこの学校の生徒は本を読む生徒自体が少ない。だが、しかし!!

「図書室の中に入ったのはこれで2度目だけど……あり得ない」

 そう、この学校の図書室の広さと在庫数はアリスの常識外、あり得なかった。そして図書館は中にあらず、外にある。つまり、その大きさが国立図書館以上の大きさを誇ってしまっているこの図書館は学校内ではなく、別館として独立した建物として建てられていた。そして、この図書館は24時間運営で一般の方々にも解放されて、職員も雇われ――もはやこれを学校の図書室と言っていいものか?

 今日は在庫のチェックをするために閉館され、人は誰一人いない。けれど普段は地域住民の方々にはご愛用されている。だがなぜこんな図書室を学校が建設したのかは不明だ。謎の学園長の単なる趣味で作ったとの噂もあるが、真意は定かではない。なんせ謎だから。

 腕組みをし、足を肩幅よりも大きく広げ本棚を睨みつけるアリス。

「こんなの独りじゃ無理に決まってんでしょ!」

 こんな仕事を押し付けやがって、ベルバラのヤロウただじゃおかねぇぞ。あたしが怒ると恐いのよ、でもねあんたほうがよっぽど恐い。仁王立ちをするアリスの表情はそんな感じだった。

「どっから手をつけていいのかわかりゃしないじゃないの!」

 在庫チェックをしろだと? そのチェックの仕方ぐらい教えていけよセクハラ教師。とアリスがそう思っているかはわからないが、彼女は近くにあった本棚を思いっきし蹴飛ばした。

 このキックはちまたでも有名な『アリスの左だ』!! 何で有名かというと、アリスは昔から頭に”チョー“が付く美少女としてちまたでも有名で男の子の人気ははなまる印だった。そのお陰で彼女はよく野郎にナンパされることはしょっちゅうで日頃から困っていた。そして事件はある日の夏の昼下がりに起きた――。

 その日アリスは夏休みを利用して、友人と海に海水浴に来ていた。当然のことながらアリスはそこで下心丸出しの二人組みの男にナンパをされた。

 いつもどおりあっさり断るアリス。そして立ち去ろうとするアリスの腕を男が掴んだ。

「何するの、話して」

 ガンを飛ばして男を睨むアリス。その行為が男たちを逆上させた。咆える若い狼。

「んだよテメェ! このメスブタ!!」

 これは決して言ってはいけない一言だった。

 次の瞬間アリスの左足が男たちの股間に連続ヒット。股間を押え今にも死にそうな顔をしてうずくまる男たち。それを見て楽しそうにあざ笑うアリス。横にいた友人――葵は驚きもせず、うんうんと頷いている。この葵はアリスのことを昔から良く知っている幼稚園からの幼馴染で、アリスの凶暴性についても熟知していた。アリスは幼稚園のころから男の子を力ずくで従わせていたのだ。

 何も言わず立ち去ろうとしたアリスたちに男たちが狂った獣ように襲いかかった。砂浜が赤く染まった。やられたのはもちろん……。

 見るも無残なほどにボコボコにされた男たち。それを見ていた周りのギャラリーたちはアリスから円状に距離を作り、男たちは何故か全員股間を押え蒼ざめ、子供づれの母親は子供を強引に引っ張りどこかに消えた。真夏の白昼夢。悪夢だった。

 この話は今もなお某海水浴場に伝説として語り継がれている。がアリスの名前はその話には出てこない。なぜなら謎の権力が働き事件は見事に改ざんされたらしいからだ。

 警察沙汰にはならなかったが、アリスがこの事件に関わっていたのではないかという噂があっという間に広がり、『アリスの左』はちまたで有名になってしまった。

 ちなみに謎の権力とはいったい何なのか気になると思うが、言ってしまったら謎ではなくなるのであえて言わないでおこう。

 蹴飛ばされた本棚はグラグラと揺れに間にも倒れそうだった。

「まさかね……」

 人間以外に思ったことが現実になってしまうことが多い。アリスの予感は的中した。

「きゃあーっ!!」

 本棚が大きな壁となり、あられもない声をあげたアリスに襲い掛かる。まさにアリスピンチ!!

 と言ってるヒマもなくアリスは本棚の下敷きになってしまった。アリスは無事なのか!!


 ――まぶたの上に温かい光を感じた。

「あと5分、5分したら起きるから……」

 腕を伸ばしながら、

「ううん……」

と アリス色っぽい声を甘い吐息とともに出した。そしてふと何かに気付いたようにバッと目を覚ます。

 ――数秒の間を置いて彼女は叫んだ。

「ここどこよ!!」

 辺りは新緑の森に包まれ、歌うような小鳥のさえずりが聴こえ、風に揺れ音を立てる木々の間から差し込む木漏れ日。アリスがどこだというのも無理もなかった。

 起きたら突然森の中、果たしてここはどこなのか……?

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