親友と女の子 [前編]
****―――
「えっ!?・・・だ、誰?」
―今日、隠し通すとかって決めたばかりなのに早速優望に見つかってしまった。
え~、この本を読んでる皆さん。
大変です・・・親友の優望に紅乃葉が見つかってしまいました。
ひ、非常にヤバいぞっ!
「っ・・・!?」
「おわっ!」
紅乃葉は瞳に涙を溜めながら迅聿の後ろに隠れた。
「どうした?(小声)」
「ひ、人が怖いのっ・・・(小声)」
納得。あー、でも後ろで「ぁぅ・・・」とか優望が動くたびに言わないで欲しい・・・。
い、嫌だぁ、違う意味の汗が出てくるんですけどっ。
「そ、そこ!私を置いてヒソヒソ話さないのっ!」
怒られてしまった。でも、優望の言い分だとヒソヒソ話さなければ良いのか?
ま、また怒らせそうだから考えないでおこう。
「はぁーっ・・・で?その子は、どこから連れてきたの?」
「なんで俺が誘拐したみたいな言い方すんの!?違うからっ!!他にもあるだろっ!」
今、違うからという言葉に対して「えっ?」という反応をしたのは気のせいだと願いたい。
「んー、」
ドキドキドキドキ。
もしかしたら、優望なら・・・
「あったっけ?」
「『あったっけ?』じゃねーよっ!ったく・・・・・・あぁ、それでこの子は、」
優望に紅乃葉をざっくり説明しようとしたら、紅乃葉が後ろから袖口を『くいっ』と引っ張ってきた。
「じんいち・・・うわき、だめっ」
「今そんな状況じゃないだろっ!?ってか知らない単語を言うなっ!」
「むぅ・・・浮気っ!」
「ドヤるなっ!そして俺は浮気しない性格だ!」
どうやら『浮気』という単語を知っていたらしい。
って奥さんを認めたわけじゃないのにぃ~!!!
「う、浮気・・・?
ひょっとして、二人って付き合ってるの・・・?」
「違うよね?」と言った彼女から何故か必死感が感じ取れた。
「んなわけないだろっ!な?」
これ以上優望に誤解を与えないためにも『な?』と言い、迅聿は紅乃葉に視線を送った・・・すると、彼女はこくこくっと首を縦に振った。
よ、良かった。優望に変な誤解を与えなくて済んだ。
―と安堵していると、、、
「私は・・・じ、じんいちの奥さんだからっ・・・そ、その付き合ってはないのっ!・・・はぅっ」
うん!予想外の展開だねっ!今すぐ逃げたい!!
言い切ったとばかりに満面な笑みを浮かべて、迅聿の背中に隠れた。
「なっ!?じ、迅聿っ!」
「はっ、はいぃ!」
「あなた、こんな幼い女の子に自分の奥さんだと洗脳しているの!?」
「してねぇーよっ!!」
「ダメだよ!こんな白いパレットみたいな女の子に、あんなことやこんなことをっ!!」
「話を聞けぇーーいっ!!」
一瞬でもちょっと妄想してしまった自分が恥ずかしい・・・すみません。
「迅聿」
「じんいち」
「な、なんだよ二人して・・・」
ジト目で迅聿を見つめた二人は『すぅっ』と深呼吸をして、まるで打ち合わせしたかのように・・・
「「うるさい」」
「理不尽だっ!!」
キレイに揃うとダメージって増すんだなと学習した瞬間だった。
「じ、じんいち・・・この人・・・誰?」
ふと、思い出したと言わんばかりに紅乃葉は迅聿の後ろで小刻みに震えていた。
「あぁ、やっと話せる。まとめて話すから、ちゃんと聞けよ?」
すると、紅乃葉と優望が「ん」・「わかった」と言い、俺は漏らすことなく二人に話した。
****――――
「ふがっ・・・じ、じんいちぃ・・・むにゃむにゃ」
どうやら紅乃葉は優望の名前を教えた後、眠ってしまったらしい。
それにしても、会って間もないはずの俺の名前を寝言で呼ぶってスゴいな。
「・・・なるほどね」
全ての話を終えると優望は頷いた。
「ごめんね、誤解しちゃって」
「まったくだ。というか、お前は誤解したんじゃなくて遊んでただろ」
「え、えへへ♪
あ!そうそう。寝る時間までまだあるなら、紅乃葉ちゃんとお話がしたいんだけど・・・」
「ん・・・私?」
『紅乃葉』という名前がでた瞬間、今まで幸せそうに寝ていた本人が起きた。
「そう♪」
「いやっ!
じんいちと離れたくないっ・・・!」
「あうっ、熱い愛を感じる・・・」
優望は「仕方ないなぁ」などと言い、俺に近づいてきた。四つん這いで寄ってくるもんだから、胸元が・・・お、落ち着け俺っ!!
「んじゃ、迅聿くん(小声)」
耳元で囁かれるとくすぐったいと言うか・・・変な感覚だな。
「な、なんだ?(小声)」
とりあえず、冷静に優望と“ヒソヒソ”会話を始めた。
「紅乃葉ちゃんとの距離で少し悩んでることがあるんじゃないの?女慣れしてない迅聿のことだし(小声)」
「べ、別に・・・。それはそうと、女慣れはしない方が良いって言ったのお前じゃなかった?(小声)」
「それは・・・あはっ♪いろいろ事情があるのっ・・・で?話を戻すとどーなの?」
笑って誤魔化された・・・ってかどんな事情だよっ!
ま、いっか。話を戻すと、優望に言われた通りだった。紅乃葉が俺のところに来た理由はどうあれ、これから住むとなると若干の焦りがある。女性との経験は無いと言っても過言じゃないからな・・・。
だからせめて無言な空間は避けたい!
「ん・・・じゃ、俺は違う部屋に行くな」
「はぁ~いっ♪」
「っ・・・!?じ、じんいちっ!」
す、すまん紅乃葉!人が怖いならば克服するんだっ!
「Good luck・・・」
涙ぐんでいる紅乃葉に俺がそう呟いたとき、、、
「意気地無し、裏切り者」といった罵声を耳にした気がする・・・あ、あはは。
後ろから殺気を感じるのは俺が今、自意識過剰になったからだと信じたいっ!!
****―――
「なに話してんだろ」
あれからチラチラ時計を見ているんだが、まったく進んでいない。
優望のことだから5分は話すはずだ、となると俺は完全5分間・・・
「暇だぁぁぁああっ!!」
ドンッ!
「迅聿!!」
優望に怒られてしまった。でも、壁を叩いた方がうるさい気がするんだが・・・?
「さーせん。俺が悪かったですよ~だ」
『うるさい』と言えば、俺の隣に住んでる402号室の人、何してるか知らないが、たまにうるさいんだよなぁ。
これがさ、声がうるさいとかじゃないから困る。なぜなら、夜中とかにギシギシとかいう音が壁を通して聞こえてくるんだよな・・・。
いまだに会ったこと無いのが不幸中の幸い。だけど疲れてるときに聞くと一番、辛いんだよな。わかるだろ?仕方ないんだよ!!
「って、誰に言ってんだよ俺は・・・。ほんと、なに考えてんだろうな・・・。
はぁーっ、よしっ。気分転換しよう」
んーと、写真でも見ようか。こう見えて俺は写真をよく撮っているのだ!
知り合いにも元カノにも褒められてたから自信は多少ある。
ドヤりながら、自分が撮った写真を順に見始めた迅聿だったが・・・ある写真に切り替わった瞬間、スライドしていた手が止まった。
「っ・・・。」
ある写真。否、元カノとのツーショット写真は、迅聿の忘れられない思い出であって、最後の一枚であった。
なんで最後かって?
それは、優望に―・・・。
***――
―約6年前―
俺が高校3年生になって半年経ったか、経っていないかの頃。そんな時期に俺は彼女と別れた。
俺は別れたショックでしばらくボーッとしていた。
「じ~んいちっ!宿題の答え合わせでもしようよっ♪」
「・・・うん」
「(じーっ)・・・今日のお昼はどこで食べよっか?」
「・・・うん」
バシッ!!
「いって・・・なにすんだよっ!!」
「それはこっちのセリフですぅ~!バーカ!!
・・・ったく、人の話くらい聞かないとダメだよ?人生の半分くらい損しちゃうんだからねっ」
「んなもん、あいつを失うよりマシだ」
「っ・・・」
「しばらく、ほっといてくれよ」
「・・・それ貸して?」
「は?」
そう言って優望は、俺のスマホを半ば強制的に奪った。
「ちょ、まっ!」
「・・・やっぱり。
いつもいつも、スマホを見てため息ばっかりしてるから、まさかとは思ってたけど・・・」
「な、なんだよ」
「バカじゃないの?
元カノの写真ばっかり見て・・・!最近なんて授業中は上の空じゃない!!」
「お前には関係ないだろ?俺が、お前に害でも与えたか?」
「関係あるわよっ!害なんてここ数日与えられてばっかよ!!」
怒鳴った瞬間、優望は泣きながら、床に崩れ落ちた。
「ゆ、優望っ!?・・・大丈夫か?」
「大丈夫じゃ、無いわよ・・・。
こんなもんこうしてやるっ!!」
優望は俺のスマホに保存されていた元カノの写真を削除した。
「おまっ!・・・いい加減にしろよっ!!」
「それはこっちのセリフよ!
私は迅聿の為なら、鬼にでもなれるのっ!」
「俺のため?こんなことが?」
「そーよ!だって迅聿、別れてから全然笑わなくなったじゃんっ!
思い出を大切にするのは良いことだけど、捨てなきゃいけない思い出だってある!そーでしょ?」
「それが、この写真だって言うのかよ・・・っ」
優望は俺の袖をさっきから握っていたんだが、力がだんだん入ってきた。今は『握り締めている』感じだった。
そして、優望の言葉が心に刺さってくる。
「私は、迅聿が・・・笑ってる迅聿が大好きなのっ!」
「・・・優望。ふっ、ははっ」
「・・・じ、迅聿?」
「ありがとな」
「な、なっ!?」
「へへっ」
****―――
あいつ・・・か。
削除するなら全部しとけよ。
「・・・画像消すか」
ふと思い出した出来事に懐かしさとかを感じていたら、タイミング良く優望が来た。
「ふふっ♪」
「どうした?」
優望は急に笑いだした。はっきりいって嫌な予感がする・・・。
「さ、紅乃葉ちゃんが説明してっ♪」
「ん・・・。じ、じんいち」
「は、はいっ」
紅乃葉は少し緊張しているのか?表情は俯いていてよく見えないが、もじもじしている気がする。
「明日、仕事休み・・・でしゅ?」
噛んだ。噛んだな今。
し、仕方ない。本人は自覚あってか、顔が真っ赤なのでスルーしてやろう。
「ああ、休みだが?」
「デート!」
「は?」
突然の紅乃葉の言葉に戸惑いが隠せない迅聿に、誤解を与えないため優望が間に入った。
「んー、3人だとデートって言わないよ?」
「詳しく教えろっ」
1人だけ置いてきぼりにされてる気がした迅聿は優望に説明を求めた。
「ぇと、3人で明日おでかけをしようかなと提案したんだよっ♪計画は私が立てるからさぁ~、ね?」
「金は?」
「「うるうるっ」」
「うっ・・・」
「「うるうるっ」」
ぐむっ、あとで覚えとけよっ!!
「わかった!俺が払うから全員分!!
だからそんな顔で俺を見るなっ!」
「いえ~いっ♪」
くそっ!ハイタッチしやがって!俺の給料が・・・。
ま、いっか。どーせ、優望が俺と紅乃葉のために考えたんだしな。
「優望」
「ん?」
振り向いた優望にドキッとしながらも、俺は今の気持ちを彼女に伝えた。
「ありがとな」
ぽんぽんっ
「っ!・・・誰かと遊びたかった気分だったからいーのっ♪」
・・・り、理由ってそれじゃないよな?
そー言えば、さっき2人は何を話していたのだろうか・・・、2人の仲が良くなっている理由が知りたいっ!
「んじゃ、あとでメールするから楽しみにね~」
「もう帰んのか?」
「うんっ!計画立てなきゃだからっ♪」
「楽しそうだな」
「人の笑顔は大好きだからね」
優望は、『へへっ』と照れくさそうに呟いた。
笑顔が好き・・・か、優望らしいな。
「ばいば~い、またね紅乃葉ちゃんっ♪」
「・・・ん」
恥ずかしかったのだろう、紅乃葉は俯きながら優望に手を振っていた。
バタン
「泊まって欲しかった・・・な」
優望が帰った後、ぽつりと紅乃葉が呟いた。
「やめろ、お前は俺の精神力を勘違いしていないか?」
「?」
俺の言った意味がわからなかったのだろう。
だが、さすがに2(女):1(男)は死ねる。ただでさえなにも知らない女の子と同居してんのに頑張って平常心を俺は保ってんだから・・・!
「ふー・・・優望も帰ったし、寝るか」
「ん・・・」
寝室に向かおうとしたら、急に紅乃葉が足を止めた。
「ん?紅乃葉・・・?」
「おっ・・・」
紅乃葉は、“もじもじ”しながらも“ぎゅっ”と自分の服を握り締めている。
「お?」
俺が聞き返したら、耳まで真っ赤に染めた紅乃葉が俺を真っ直ぐに見つめた。
そして、ゆっくり口を開いた。
言葉も体も震えていたが一生懸命、俺に伝えようとしていたことは伝わった。
「お、おや・・・おやすみなさいっ・・・!」
俺は安心した。あまりにも真剣な顔をしていたから大事なことでも聞かされるかと思った。
でも、一生懸命に言われたら、それに答えなくちゃな。
「うん。おやすみ、紅乃葉」
「っ・・・!?」
バタンッ
「こっ、紅乃葉!?」
な、なんだろう・・伝わった明日のおでかけが急に心配になってきたな。
明日大丈夫かな?
優望の計画に賭けるしかないか・・・。
あぁ、神様。
無事に明日の休日が終わりますように!!!
『俺の可愛い奥さん。』を読んでくださりありがとうございます!!
今回、回想シーンが特にわかりずらかったと思います。
これから頑張って、できるだけ分かりやすく書けるよう努力を致しますのでよろしくお願い致します。