棚は語る【御題短編小説】
西山博信、15歳はゴミも混じり取り散らかった部屋の中で物色を行っていた。
別離していた父が死に、その後片付けに来たのだった。
母は父がどれほどダメな男であろうと、自分を愛してくれるのであれば絶対に離れはしないと昔はいっていたものだったがどうして別離をしたのか博信達には話してくれなかった。
父の住んでいた家はかつては博信、妹の里奈、母と四人で住んでいた父方の実家だ。
妹の里奈は習い事の為、母が迎えにいっている間に博信に必要な物だけ取って来いというのだった。
そういう理由で今、博信は父の個室にいるのである。
掃除嫌いだった父の部屋は普段使ってない所には埃が溜まっており、煙草も吸っていたのもあって埃は茶色に変色していた。
博信が物色していたのは主に机の引き出しの中や押入れの中、もしくはベッドの下であった。
そう、彼は15歳である。
大人の同姓の部屋を物色していいとなれば思いつくのは一つだけであった。
が、父の部屋を探してみたものの目的の物のエの字もみつからない。
ただ、埃だけが舞い上がるのみだった。
博信はついに諦め他に欲しいと思う物、高価そうな物を探し始めた。
とはいえ机の引き出しも見た後である。
残るは…。
父の部屋には似つかわしくない棚である。正方形に四つに区切られた棚の三つにはフィギュアが並べられ
右下の部分には本が何冊か納められていた。ソコから下は引き出しになっている。
もしろんすでに物色済みである。
しかたなく、博信は棚のフィギュアに手を伸ばした。
が、あることに気づきアルバムへと手を向けた。
他が埃まみれだというのにアルバムだけは誇りが積もっていないのである。
そのほかの本も廻りに比べれば綺麗なのである。
アルバムを開くと、よほど見ていたのか跡が残っており、少し開いただけで父がよく見ていたと思われるページが開かれた。
そこには満面の笑みでビニールプールの中で全裸で嬉しそうにカメラを向いている博信が写っていた。
これはまだ自分が幼稚園に入る前の写真だろうか。
父も母もこの頃が一番可愛かったと口癖のように言っていた。
父は自分を愛してくれていた。
「ありがとう」
ポツリと呟き目を潤ませながらアルバムを元の場所に直そうとする。
が、その後ろにさらに本があるのが目に入る。
背表紙には『ギャル達の淫らな私生活』と書いてある。
「ありがとうっ!!」
先ほどより元気な声を上げ、潤んだ瞳はどこへいったやら。
残りの本を引き拭き床に投げ出すと隠された大人向けの、主にコミックがズラリと並んでいた。
アルバムに写っていたのと違い邪念塗れの満面の笑みで持参のバッグにお宝をドサドサと投げ入れていった。
全部のお宝をバッグに入れれば、さらに奥に隙間があることに博信は気づく。
そこから少し箱が見えている。
まだあるのか、期待に胸を膨らませイソイソと箱を取り出す博信。
が、途中で棚の枠に引っ掛けてしまい箱が開いてしまい中身が床に散らばり落ちてしまう。
誰もいないというのに慌ててしゃがみ拾おうとする博信だったが途中で動きが止まってしまった。
父の秘蔵のお宝。
恐らく間違いないのであろう。
だがどういうことなのだろうか…?
表紙に大輪の真っ赤な薔薇が咲いている。
それだけならばまだいい。屈強な男達が逞しい肉体を見せ付けるかのようなボーズをとり、身につけているものはビキニパンツだ。
だが、博信を混乱に陥れたのはそれだけではない。
フリフリの可愛らしいワンピースに身を包んだ子供がスカートをたくし上げ、女の子向けのショーツから可愛らしいモノが覗いているのだ。
「なんだよ、これ…どういうことだよ。わけわかんねぇよ!!」
きっと何かの間違いだ!預かっていたとかそんなのだ!
博信は自分に言い聞かせるように父が自分を愛してくれている証拠であるアルバムを掴み家から飛び出そうとした。
同時に一つの疑惑が博信の心を支配していった。
普通、そんなにアルバムなど見るだろうか。
どうして・・・俺の幼い頃の・・・全裸の写し・・・、
気がつけば家の外、玄関で博信は膝を抱えて蹲っていた。
手にはアルバムは持っていない。
「父さん…愛し方を間違ってるよ…」
しばらくして、母の車が家の前に到着した。
よろよろと立ち上がり、心そこに在らずとばかりに歩き助手席に乗り込む博信。
その様子を見て母は察したのか黙ってエンジンをかけながら声をかけてきた。
「だから私は別居したのよ」
博信は何の反応も返さなかった。
ゆっくりと車が動き出す。
「あとバッグの中のお宝は帰ったら燃えるゴミにだすからね」
博信は声を押し殺して、泣いた。
お題を頂僅かな時間で練り上げ執筆するという修行目的の作品。
出来上がってみればなんて作品。
勢いだけで書きました