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其の陸 闇のからくり  

 雛子は逃げる

 とはいえ、人間ずっと走り続けられるわけがない

 呼吸は荒くなり、足が重くなる。

 時には歩き、時には隠れ、時には引き返し、武者の追跡を逃れ、今は体力を回復するために2階の教室に潜んでいた。

 雛子はなんとか武者から逃げのびているが、他の参加者たちは違う。

 次々と武者の凶刃に倒れていっている。

 彼女がまだ倒されていないのは、彼らの犠牲の上に成り立っているとも過言ではなかった。

 電話越しとは思えない零夜の的確な指示に従い、逃げていった雛子であったが、指示の中にはわざと他の参加者の近くを通り抜けるという行為も何度かあったのだ。

「ごめんなさい……」

 生き延びるためとはいえ、他者を犠牲にしていることが雛子には後ろめたかった。

『この絶望的な状態なら仕方がないことだよ。ここはもう君たちが普段生活している”表”の世界からは隔絶された”闇”の世界、弱肉強食の世界なのだから。それに君が見捨てたのではない、俺が判断したんだ』

 零夜が慰める。

『それに彼らは死んだわけじゃない、あの霊刀により術力、わかりやすくいうと生命力のようなものを少し奪われただけで、死に至るほど吸い尽くされたわけではない』

「ほんとに!」

 殺されたと思っていた雛子が驚きの声をあげる。

『本当だ。もしも、初対面とはいえ、同じ参加者が死ぬような状態では、ここを脱出できても君が立ち直れないだろ?」

「……よかった」

 逃げ出し始めてから、心の中に溜まりだした黒くドロドロした思いが消えていく。

「……でも、どうしてこんなことに」

「原因は君もわかっているだろう、二宮金次郎像の破壊。それが原因だ、破壊されたことによりあの像が封じていたものが甦ったのだ」

「あの武者が封じられたものの正体なの?」

『間違っているが、正しくもある。なぜならば、あれは、金次郎像が封じていた力を使って術者が顕現させた式神だ』

「それって、どういう意味?……」

 雛子には式神というものがわからず、想像できないでいた。

『オカルト的なロボットみたいなものだ。ただ、あのロボットを破壊する必要はない、なんとか結界を崩せばいいだけだ』

「どうすればいいの?」

『それは……』

その時、遠くのほうから絶叫が聞こえてくる。

『……まずいな、想像より早い』

 零夜の声にかすかだが焦っているかのような響きがまじる。

「え、なにがあったの」

 不安になり雛子が尋ねる。

『君以外の参加者がすべて倒された。誰かを犠牲に逃げることはできない。武者の目標は君一人だ』

「え?」

 零夜の言葉を理解するよりも早く、背筋がぞわりとする。

『立て、そして走れ!』

 雛子は再び走り出した。


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