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其の肆 ミステリアスなアドバイザー

 その日の午後11時55分、招待状で指定された校門前に雛子の姿があった。

 Tシャツにショートパンツ、スニーカーという動きやすい格好であった。

 集合時間まで、あと5分ということで、雛子以外にも参加者らしき人が集まっていた。

 多くは雛子と同じ、10代の男女であったが、そうでないものもちらほら見える。

 雛子はスマートフォンを取り出すと、登録したしてあった電話番号をクリックし電話をかける。

『もしもしどんな様子かな、小森さん』

 スマートフォンから流れ出た声は、落ちついた感じの青年の声であった。

「なかなか盛況ですよ、お兄さん」

『それはよかったね、思い切り楽しむといいよ』

 電話の相手は、親友の兄 遠間零夜であった。

 昼間、朔夜からスマートフォンを借り、零夜と直接会話した結果、零夜がアドバイザーとして電話で参加するというものであった。

 

-------------------

『小森雛子さん。いつも朔夜がお世話になっている。さて、大まかなことは朔夜から聞いている。君は、その肝試しに参加して、ドキドキを楽しみたい、ということでいいのかな』

「そりゃ、そうでしょ」

『死の危険があるかもしれないよ』

 零夜の声に、雛子はゾクリとする。

 ただの肝試しに、死ぬような危険性があるはずがない。

 だが、零夜の声には、軽く否定できない重みのようなものがあった。

「そ、それは嫌だけど、面白そうだし、大丈夫でしょ!」

『……なるほど。聞いているとおもうが朔夜は大事な集まりがあって一緒にいけない、そして朔夜は君が一人で参加することが不安なようだ。朔夜はほんとうに君のことが心配なのだよ』

「……」

『朔夜が言っているかどうか、わからないが、私はオカルトにはちょっと詳しくてね、雑誌で記事も書いている。ただ、私も朔夜同様、用事があってね。そこで、スマートフォンからの助言という形でお手伝いしたいと思う。朔夜もそれならいいと言っている』

-------------------

 

 そんなやりとりで、零夜がアドバイザーとして電話で参加することになったのだが……

(電話で的確にアドバイスなんてできるのかな?)

 雛子はそんな疑問を抱いていたが、あえて無視した。 

「みなさーん、集まってください!」

 大学生らしい茶髪で眼鏡の青年の声が響き渡る。

 いかにも草食系の好青年であった。

「集まってもらいありがとうございます。主催者のタイラ―です今回は59名ものみなさんに集まってもらい感謝しています」

 タイラ―の説明では、この学校は、南校舎、北校舎があり、それぞれ4階建てになっており渡り廊下でつながっているようである。

 この学校の協力者により、南校舎玄関の鍵が開いており、2階通路により、北校舎にも移動できるようである。

「これは非公式の肝試しです。警察などにばれても捕まってしまうので、あまり騒がないように、それとあまり広めないようにお願いしますね」

 タイラ―の言葉に、一同が苦笑する。

 ネットで募集をかけた以上、噂は加速度的に広まっていくだろう。

 参加者のうち、何人かは、参加した感想をネットにアップするかもしれない。

 だとしても、学校の許可をもらってはいないのだとしたら……

(少なくとも非合法ではあるんだよね)

 ちょっと悪いことをしてしまう、その罪悪感が逆に雛子の好奇心を刺激する。

 タイラ―の引率で、校門を抜け、南校舎玄関に向かう一同。

 その途中に、上半身のない二宮金次郎像があった。

(本当に破壊されているんだ)

 その横を通り過ぎようとした時、零夜からの電話があった。

「なに、お兄さん?」

『そろそろ二宮金次郎像の前じゃないかな』

「え、なんでわかるの?」

 雛子の問いには答えず、零夜は言葉を続ける

『切り口をみてくれないか、凸凹なので、それとも平らなのか』

「……ちょっとまって」

 スマフォの明かりで、像の切り口をみて、さらに触ってみる。

「すごい、お兄さん、全然凸凹していないよ」

 てっきり叩き壊したと思っていたのに、ぜんぜん違っていた。

 これではまるで……

(鋭い刃物で切り落としたみたい)

 だが、金属でできた像を斬ることなんて可能なのだろうか

『予想通りだな、ちょっと待ってくれないかな』

「は、はい」

 零夜の指示に従い、雛子は銅像の前で、次の零夜の言葉を待つ。

 が、スマートフォンからは声が聞こえなくなる。

「おーい、お兄さん! 聞こえていますかー」

 だが返事はない。

「そこの人、早くしてください」

 一人遅れている雛子に、タイラ―が声をかける。

(ど、どうしよう……)

「ちょっとお兄さん、もう……」

『もういいよ、ありがとう』

 焦る雛子に零夜が声をかける。

「早くしてよね」

 そういいながら、雛子は通話終了のボタンを押し、肝試しの集団へと駆け寄った。


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