其の弐 七不思議への招待状
「肝試し……ですか?」
「そう、肝試し、都内の高校でやるんだって、朔夜も参加しようよ」
終業式の終わったあと、雛子は、クラスメイトで親友の遠間朔夜を誘っていた。
そもそもの発端は、SNSで見た肝試しの招待状であった。
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【肝試しのお誘い】
「二宮金治郎の像を壊してはならない、壊せば、校庭の地下に眠っている侍の亡霊たちが目を覚ます」
こんな七不思議を知っていますか?
これは事実なんですよ。
3日ほど前、○×高校で、集団昏睡事件が起きたでしょ。
あれは、誰かが二宮金治郎の像を破壊したからなんですよ
もしかしたら、まだ侍の亡霊は潜んでいるのかも……
みんなで確認しませんか?
開催日 7月24日 24:00
集合場所 ○×高校 校門
主催者 タイラ―
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「ねえ、面白そうじゃん、行こうよ」
「…………」
誘う雛子とは対照的に、朔夜はあまり乗り気ではないようであった。
そんな朔夜の態度が雛子には不思議だった。
「どうしたの、朔夜? あなたオカルト大好きじゃない」
「え、そんな。私は特にオカルトが好きってわけじゃ……」
「ウソ! だって朔夜、みんながオカルト話をすると、すぐ食いついてくるじゃん しかも、いろいろ謎知識教えてくれるし」
おまじないや怪談話、そんな話をすると、いろいろと突っ込んでくるのが朔夜であった。
一見して、深窓の令嬢。
大人しく清楚な彼女であるが、オカルトな話には、普段の朔夜の様子からは信じられないほど、雄弁で持論を曲げようとしない。
「え、そうですか……」
きょとんとする朔夜の様子からすると、どうやら無自覚だったようだ。
「そうだよ、で、ね、行く」
「それは……」
朔夜は眉をひそめる。
「あ、もしかして門限があるの?」
「いえ、門限はないのですが……、その……」
言いにくいのか、しばらく躊躇っていた朔夜であったが、意を決し、雛子に話かける。
「その話、危険な感じがします。行くのをやめたほうがいいかと」
「えー、やだー」
「そんなこと言わずに」
「だって、朔夜は危ないっていうけど、それって朔夜の直感だけでしょ、大丈夫だって」
「…………」
あっけらかんとしている雛子と対照的に朔夜の顔は曇る。
「一人でいくわけじゃないし、SNSの様子だと50人くらいは来るみたいだよ、大丈夫だよ」
「でも……」
朔夜は困惑した様子で、ちらっちらっと自分の右隣を見る。
しかし、そこには誰もいなかった。
それは、雛子も気付いている朔夜の変な癖であった。
困った事があったり、戸惑ったりすると、朔夜は自分の右隣に視線を向けるのだ。
誰もいないのに。
あと一押しだと思った。
「ねえ、いこ!」
「いえ、その日は会合があって、一緒にいけないのです。ごめんなさい」
「あやまらなくていいよ、私がただ一緒にいきたいだけだし」
朔夜が頭を下げようとするのを雛子は慌てて止める。
「……じゃあ、独りでいくか」
「ダメですよ、危ないですから……」
その時、着信音が鳴った。
朔夜の顔に驚きと喜びの表情が浮かび、慌ててポケットから、スマートフォンを取り出す。
「もしもし、朔夜です。お兄様、どうしたんですか?」




