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アニマルゲノム  作者: 西玉
砂場の王
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訓練場にて

 平凡な女子高校生だったはずの朔間緑子は、女子高校生らしからぬ場所に呼び出されていた。警察官たちの鍛錬場、柔剣道道場だ。呼び出したのは、そんざいそのものが女子高生らしからぬ、飯塚京子である。

 獣の遺伝子を組み込まれた五人の女子高生のなかでも、飯塚京子は一部では知られた存在だった。並外れた運動神経を誇り、主に格闘技全般に渡り、超高校生級と目されていた。もっとも、高校において女子格闘技は盛んではない。年齢を無視して日本選手権などに顔を出すことも多かったが、いずれにしても立派な成績をあげていた。ただし、負けるときは反則負けが多かった。特に、噛み付きである。

 自衛官の身分になったとき、唯一飯塚だけが、自衛隊式の本格的な訓練を受けられるものと喜んだ。しかし、実際は訓練など行われず、変化したケダモノを倒すのは、飯塚等の能力だのみだった。飯塚は失望したものの、もともと格闘技が好きだったこともあり、警察の武術訓練に参加を申請し、承諾されたのだという。

「うわー……京子ちゃんて強いんだね」

 飯塚に誘われるまま訓練場に顔を出した朔間緑子は、素直に感嘆の声を発していた。飯塚が俵投げをくらわした相手は、質量にして倍はあるはずの男だった。

「相手の動きが鈍かったからな」

 乱取り、と呼ばれる集団での稽古を抜け、飯塚が歩み寄ってきた。相手の背後を一瞬で取り、投げ飛ばした技は、格闘技や武術にまるで興味の無かった緑子には手品を見ているようだった。

「さすが、ヒョウ娘といったところですわね」

 波野潤子も隣で眺めていた。二人とも柔道着に着替えていたが、全くの未経験者であることは動きで看破され、同様の恰好をした婦警に受身の指導を受け、一休みしていたのだ。

「なんで波野がいるんだ?」

「あ、私が誘ったの。習っておいた方がいいのかなって思って。美香ちゃんと華麗ちゃんも誘ったんだけどね」

「早房はこねぇだろ。自分から警察になんかくるもんか。あいつが来るのは、補導されたときだけだ」

 ニカリと笑った。波野が、黒ぶちの眼鏡を直した。

「わたくしが来たのは、朔間さんとあなたを二人きりになんできないと思ったからですけどね」

「妙な言い方するじゃねえか」

 汗を掻いたので上機嫌らしい。朔間からタオルを渡され、顔を拭きながら飯塚が応ずる。気分を害した感じではない。

「お前も来い。仕込んでやる」

 お下げ髪をした、朔間の腕をとった。

「だから、二人きりになんかさせられないんですわ。朔間さん、嫌だったらはっきりそう言うのよ」

「うん」

 朔間緑子は、基本的になんにでも興味を示した。手を引かれるままについていく。他の警官たちが訓練中なので、邪魔にならないように気をつけながら、飯塚に技の型を習い始めた。

「全く、言ってくれるぜ」

 突然、波野がいる場所で聞きなれた声がした。緑子が横目で見ると、波野が驚いてのけぞったところだった。飯塚は気づいていないようだ。波野が取り乱すのが面白かったのか、声の主は笑い声を立てていた。

「い、いつからそこにいたんですの?」

「今、だよ」

 茶色い髪に日焼けした同色の顔をした、早房華麗だった。いつもの特攻服ではなく、足首まで隠れるような、長いスカートのセーラー服を着ていた。

「あたしが、補導されるようなヘマするかってんだ」

 しきりに口を動かしているのは、ガムでも噛んでいるのだろう。

「ねえ」

「なんだよ」

 波野は、一人の男を指で示した。柔道着姿にまぎれている男である。周り中同じ格好なので、緑子も気付かなかった。飯塚には内緒で、聞き耳を立てていた。

「あの人、泉巡査長じゃありませんこと?」

「……誰だったっけ?」

「もう。キリン男を退治したとき、会ったじゃありませんか」

 早房ががりがりと頭を掻いた。

「ああ……確か、飯塚のお気に入りだっけか」

「そうですわ」

 育ちも性格も対照的で、あるいはかみ合わないと思われていた二人が、顔を見合わせてにまりと笑った。


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