上空より
『犯人は、現在首都方面に向かって進行中。指示願います』
波野潤子を拾い、メンバーが揃ってからしばらくヘリコプターに乗っていると、すでに朔間緑子には自分がどこにいるのかわからなかった。日も落ち、景色も見えなくなって飽きてきた頃、操縦席の無線から聞き覚えのある声が流れてきた。
それぞれに音に敏感な五人は、同時に互いの顔を見回した。誰の声か、すぐに解ったのだ。真っ先に口を開いたのは緑子だった。
「今の、泉さんだよね? よかったね、京子ちゃん。元気になったみたい」
「でも、ヘリコプターで移動していると、お会いすることができせんわね。今度、直接会いに行ってらっしゃいよ」
穏やかで、美しく、毒のあることを言うのは波野潤子だ。飯塚京子が牙をむくかのように反論する。
「だから、あいつのことはどうでもいいんだよ。別に、俺となんかあったって訳じゃねぇだろう」
「これから、なんだよな」
早房が何本目かのタバコをふかしながら、軽く口を挟んだ。
「ああ……いや、早房、なに言わせんだ。おい、篠原、笑うな」
「まあまあ、落ち着いたらいかが。それより、今はオオカミ男のことですわ。どうせ、変化してから意識はないんですわね?」
「……うん」
波野が話を切り替え、ようやく事件の話に入れると活きこんだ中谷を無視して、篠原美香が迷わず反応した。中谷には発言の機会すら与えられず、少女たちの間で作戦が決まっていった。
「では、戦いやすい場所に誘導いたしましょう」
「でもあれ……戦車だよ。戦いやすい場所に誘導したら、逆に危なくない?」
当然のことのように言う波野に、緑子が口を挟んだ。目標が大きく、交通封鎖されているため、はっきりとわかる。通常の道路上を、戦車が走っているのだ。波野が首をかしげる。言ったのが飯塚か早房だったら、即座に反論しているだろう。波野が緑子の言うことを考える前に、篠原が結論付けた。
「……戦車を選んで乗ったわけじゃないみたい。元は……自衛隊の隊員だったと思う。たまたま、近くにあった乗り物が戦車で、運転手もいたから、強引に運転させたみたい。今は……自分が命令したことも理解していないかな。戦車と戦うことにはならないと思う。止めさせれば……外に出て暴れるはずだよ」
篠原は目を瞑ったままだった。オオカミ男の意識をかなり深くまで探っているのだろう。
「なら、強引に止めちまえばいいんだな。運転している奴は、オオカミ男に人間の意識が残っていないって、知らないんだろう」
一人だけ制服ではなく特攻服を着込んだ早房は、タバコを捨てながら笑った。普段から凶悪な笑い方だと囃し立てていた飯塚の笑顔に、よく似ていた。
「そういうことで、よろしく」
緑子が、結論だけを中谷に押し付ける。
「戦いやすい場所って……どこだ?」
全員の視線が、薄く眼を閉ざしたままの篠原に向かった。
「……いま……高速道路に入った……」
「高速道路か。ちょうどいいじゃねぇか。封鎖しちまえよ」
「堪え性がありませんわね。待ちきれないだけじゃありませんの?」
相変わらず皮肉を言う波野に、飯塚は満面の笑みで答える。
「だそうだぜ」
早房が篠原を見つめると、黄色い髪の少女は無表情に首肯した。
「決まりだね」
緑子が手を打ち鳴らす。ごくありふれた小さな拳だが、鉄骨さえへし折るのだ。
「わかった。封鎖する」
中谷警部補は、広い輸送用ヘリコプターの五人の客のために、操縦席に向かった。




