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アニマルゲノム  作者: 西玉
砂場の王
13/28

出撃! までの難関

 本来であれば犯人を護送するためのワゴン車が、緊急の作戦室となった。朔間緑子と四人の獣人も、既に制服に着替えている。

 制服、というのは、正義の味方を気取ったおそろいの衣装ではなく、それぞれの学校の指定学生服である。ほとんどがデザイン違いのブレザーだったが、早房の学校だけセーラー服だった。早房はセーラー服が気に入らないらしく、特攻服を取りに行くから家に寄れと喚きたてたが、仲間達に押さえ込まれた。担当警部補の言うことなど、聞く少女等ではない。

「いいじゃない。セーラー服、私も着たかったな。中学まではそれだったのに」

「朔間さんが言っているのは、普通のセーラー服ですわよね」

 波野は、早房の長いスカートを摘み上げた。最近は高校の制服すら丈が短くなる傾向にあり、くるぶしまで隠すのは、反逆心の顕われと解されている。

「うん」

 緑子はこっくりとうなずいた。飯塚も不満があるらしく、自分の着ているブレザーをまるで汚いものに触れるかのように指で摘んだ。

「なあ、迷彩服着させろよぉ。俺達、自衛隊の所属だろ?」

 とりあえず、ワゴン車は既に出発して現在は移動中である。後部の座席を取り外し、作戦会議室と化していた。中谷警部補は、会議を始められないのを、辛抱強く腕組みをして待っていた。

「迷彩服って、そんなに恰好いいかな?」

 首を傾げる緑子に、飯塚はにっかりと笑いかけた。台詞を奪ったのは波野だった。

「朔間さんには似合いませんわ」

「なんで?」

「飯塚さんの体格なら、さぞかしお似合いになるでしょうね」

 格闘技を趣味とする赤毛の少女は、同世代の男子生徒などよりはるかに逞しい体つきをしている。

「なんだよ。ゾウに言われる筋合いはねぇぜ。お前が遺伝子のせいで、こんな体になるのが楽しみだ」

 大仰に両手を広げる。

「おっしゃいましたわね!」

 明らかに激昂していた。スタイルの良さは、波野の自慢らしい。美人でスタイルが良いので、まず美女と評していいだろう。さぞかし同性の反感は買うだろうが、気にするような神経は持っていないようだ。

「おう。言ったがどうした。勝負するか」

「おい、お前等いい加減にしろよ。あたしのセーラー服の話はどこ行ったんだよ」

 早房が不満そうに割って入る。

「今、それどころではありませんわ」

「そうだ。今日こそ決着つけてやるからな」

「ちょっとぉ、普段別に仲悪くないじゃない。美香ちゃん、なんとかしてよぉ」

 緑子に急に話を振られ、髪を黄色く染めた少女は面食らったような顔をしていた。

「……なんとかって?」

「このままじゃ、殺し合いになっちゃうよぉ」

 深い考えは無く物騒な物言いをした緑子の発言を受け、飯塚と波野がいきりたった。

「おう! 上等だ! 血祭りにあげてやる」

「面白いですわ。受けて立ちますわよ!」

 移動する車の中で、二人は立ち上がった。早房が冷静に評した。

「朔間、お前、あおってないか?」

「……えっ?」

 緑子は早房の指摘が理解できず篠原に助けをもとめたが、篠原は黙って腕時計型の機械を腕に巻いていた。電源を入れる。額に手を当て、指を、波野と飯塚に向けた。二人とも急激にへたりこんだ。慌てて朔間が受け止めると、意識が飛んでいた。

「……これでいいの?」

「美香ちゃん、乱暴だよぉ」

「お前が頼んだからだろうが」

「だってぇ……」

 飯塚と波野の体をやすやすと受け止め、緑子は早房と篠原を振りいた。二人とも特に責めるように表情はしていない。緑子はひとまず安心して、飯塚と波野を横にした。

「そろそろ、事件の説明をさせてもらえるか?」

 ずっと黙っていた中谷が、ついに口火を切った。我慢の限界に達したようだ。しかし、その決断も報われなかった。

「駄目だよ。二人とも気絶してるもん」

「起こしてくれ」

「可哀相だよ。きっと、疲れているんだよ」

 緑子はまじめに言った。篠原の力で寝たことにはしたくなかった。篠原の責任にすれば、引きこもりの少女に罪を着せることになる。もちろん、誰にでも通じる手ではない。この場合、誰にも通じなかったともいえる。

「……違うと思うぞ」

 早房はあっさりと裏切った。中谷が顔をしわだらけにしながら口を開いた。

「そろそろ現場に着く頃なんだが」

「着いてからじゃいけないの?」

「一刻を争うんだ。既に、犠牲者が出ている」

 白目を剥いていた飯塚が飛び上がった。話は耳に入っていたらしい。

「早くそれを言えよ!」

「現場に行く前に言えば、同じことだと思ってな」

 中谷は言い訳するかのように声を落とした。

 波野も起き上がった。

「だったら、サイレン鳴らしたらいかが?」

 話は聞いていたらしい。

「これはパトカーじゃない。護送車でそんなことしたら、大事件の犯人みたいに思われるぞ」

「それはやだなぁ」

 緑子は素直に述懐した。

「……ヘリコプターは?」

 篠原が静かに言い。四人が同調した。

「そうだ。そのための自衛隊だろう。俺達をヘリで運べ。今すぐ!」

「飯塚さんは乗りたいだけですわね。でも、急ぐならそうすべきでしたわね。今からでも、遅くありませんわ」

「着きました」

 運転席の男が声を上げた。勢い込んでいた飯塚は、機先を制された。だが、それ以上に、飯塚の動きが静止した。運転していたのは、中谷の部下である泉巡査長だったのだ。その様に、篠原以外の少女達が笑い転げた。

「お、お前等が、変に意識させるからだろうが!」

 顔が真っ赤になっていた。

「もういい。外で説明する」

 中谷は、絶望的な表情で肩を落とした。

「京子ちゃん」

 車から降りるときにかけられた声に、飯塚が振り向いた。

「なんだ、朔間」

「さっきの、可愛かったよ」

 飯塚の白い顔が、瞬間で上気した。


 降りた所は、既に現場だった。日はまだ高い。午後三時ごろだろう。地面に広げられた地図に、多くの大人たちが額を寄せている。青いつなぎを着た警官達と、保健所の職員と思われる男達だ。

「ニュースで知っていると思うが……」

 中谷の前置きは、五人全員が否定した。

「訓練中でしたもの」

「お前、いつ訓練したんだよ」

 波野に飯塚がすばやく突っ込む。

「しましたわよ。なかなか、泉さんの寝技は巧みでしたわ」

「波野さん!」

 緑子が泣きそうな声を出すと、さすがに波野も顔色を変えた。もっと変えたのは、中谷だった。

「……頼むから、話を聞いてくれ」

「泣くんじゃねぇよ。みっともねぇ」

 言いながら、早房はタバコをくわえた。中谷警部補は、大きく深呼吸する。

「大田区西蒲田の一帯に、戒厳令が敷かれている。動物園から虎が逃げ出し、専門家が捕獲作戦を行っている。虎が捕獲されるまで、一切外に出ないように。というのがその内容だ」

「虎かぁ」

 同じ猫科のライバルとでも思ったのか、飯塚が拳と手の平を打ち合わせた。

「いや、虎というのは表向きだ。それくらいの猛獣でなければ、野次馬が集まってきかねない」

「ふんっ」

 面白くさなそうに鼻を鳴らす飯塚を、波野が制した。

「で、本当は何が逃げ出したっていうのかしら」

「逃げた、んじゃねえだろ?」

「じゃあ何?」

 緑子が尋ねたが、一緒に稽古場にいた五人が知っているはずもない。視線は中谷に集まった。

「潜伏しているんだ」

 なんとか脱線せずに、中谷は話を戻した。

「何が潜伏しているかについては、篠原君に聞くのが一番だろう。とにかく、奴は銀行強盗事件を起こし、逃走中に姿が変形した。犠牲者は銀行強盗の仲間だ。一人は首を切り落とされ、もう一人の死因は、解剖の結果が出るまでわからない。目撃者はいるが、それがなんなのかは判断できなかった。最後の目撃者が出てから、二時間以上が経過している」

 中谷が中断されずに話し終えたのは初めてかもしれない。緑子をはじめとする五人の顔色が、明らかに変わった。迫り来る、戦闘に向けて。

「どう? 美香ちゃん、わかる?」

 朔間緑子が見つめる黄色い髪の少女は、額に手を当てている。

「……ううん……何も」

 中谷の眉が寄った。変化したケダモノについては、精神感応力を持つ篠原美香が頼りだったのだろう。本来のイルカがそのような能力を持っているのかどうかは不明だが、イルカの遺伝子を組み込まれた篠原は、どういった作用か、かなり強力な感応能力者となっていた。

「スイッチ切ってあるじゃねぇか」

 飯塚が篠原の左手を掴み上げた。

「……さっき切った」

「なぜ?」

 早房の問いに答えたのは、緑子だった。

「きっと、みんなと一緒にやりたかったのよ。だって、私達仲間だもん」

 篠原は肯定しなかった。ただ、四人は互いに見つめあった。見つめあい、そのうちの三人は、苦笑いを浮かべた。つい先日までは、ただ反発しあっていただけだったのだ。ちなみに篠原は、決して朔間緑子以外の他人とは視線を合わせようとはしなかった。

「では、参りましょう」

「波野、てめぇが仕切るなよ」

「頑張ろうよ」

「やれやれだな」

「……行こう」

 五人が、同時に覚醒した。


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