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時を止めて。
午後十一時五十八分。
つい3分前、仕事が終わったから今から行くとメールをしたとこだ。
ハッピーバースデーは自分の声で言いたい。
予め十一日に届くように頼んだケーキはちゃんと食べてくれただろうか。
ヒールが痛いがそんなの構ってられない。
必死に足を動かす。
家につき急いで靴を脱ぎ、リビングへ走った。
ヘトヘトになりながらドアを開け掛け時計を見る。
「過ぎちゃった………?」
しかし時計は動いてなかった。
十一時五十八分から動かない、まるで時が止まっているようだ。
「…おかえり、母さん。ギリギリだよ?間に合わなさそうだったし、俺が時計を止めておいたから!」
時人は得意げに、そして優しく笑って見せる。
あぁ、そんなとこがマサくんそっくり。
「よかった、間に合って…時人、誕生日おめでとう。」
愛しい。
我が子が愛しい。
堪らず大きく、不健康そうな身体を抱きしめた。
「…ケーキさ、とっておいたから一緒に食べようよ。」
「うん…うん…」
私はしばらくの間背中に回された手の温かさにひたり、止まった二人の時間を過ごしていった。
そんな、時計の音がしない静かな夜だった。