第六話 五十円玉二十枚の謎
五十円玉二十枚の謎というのがある。
ミステリー作家の若竹七海さんが、大学生のときに体験した奇妙な出来事である。
彼女がアルバイトをしていた池袋の書店では、毎週土曜日になると五十円玉二十枚を握りしめた男が現われて、千円札への両替を依頼するというのだ。
この謎に対し、多くの人々が挑戦した。作家はもちろんのこと、一般公募もなされて、その結果はアンソロジーとしてまとめられた。
もう、かれこれ二十年近く前のことだ。
おりしもその文庫を持って、通勤電車に揺られていたときのことだった。
有名受験塾の電車広告で、次のような入試問題が紹介されていた。
「コインが全部で15枚あり、その合計は750円です。またコインはすべての種類が含まれています。すなわち、500円玉、100円玉、50円玉、10円玉、5円玉、1円玉が少なくとも1枚以上あります。それぞれはいったい何枚でしょうか?」
それほど難しそうではないな、と思って、さっそく解いてみた。
(ここで【 】は途中の答え)
①500円玉は1枚を超えると750円にはならないので1枚。
【500円玉1枚、残りは14枚で250円】
②100円玉が2枚だと、残り50円玉1枚で、250円ちょうどとなってしまうので、100円玉は1枚。
【500円玉1枚、100円玉1枚、残りは13枚で150円】
③下の桁が0なので、1円玉は5枚ないし10枚となるが、かりに10枚とすると5円玉が2枚必要となり、計13枚の範囲で150円にできない。よって1円玉は5枚。
【500円玉1枚、100円玉1枚、1円玉5枚、残りは8枚で145円】
④145円から、50円玉は2枚以下だが、かりに1枚とすると残りの10円と5円、計7枚の組み合わせで95円になるという矛盾を生じる。よって50円玉は2枚。
【500円玉1枚、100円玉1枚、50円玉2枚、1円玉5枚、残りは6枚で45円】
⑤10円玉と5円玉合計6枚で45円となる組み合わせは、5円玉3枚、10円玉3枚。
答えは、500円玉1枚、100円玉1枚、50円玉2枚、10円玉3枚、5円玉3枚、1円玉5枚
どこかのミステリー好きが「五百円玉二十枚の謎」に言及するたびに、わたしはこの問題を思い出してしまう。
そして「五百円玉二十枚の謎」の真説が、あたかもこの数学の問題の解法のような明快さで、わたしの頭に浮かばないか、しばし考えをめぐらすのである。