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第二話 -消去法- 窒素には味がある

 空気の組成。

 空気はほぼ窒素と酸素の混合気体で、それぞれの割合は四対一である。そのほか二酸化炭素やアルゴンなどの気体を含有しているものの、これらはごく微量に過ぎない。つまり非常に雑駁な物言いをすると、空気はおおよそ窒素でできているわけだ。それほど身近な窒素だが、日ごろ耳にする回数は相棒の酸素に比べてはるかに少ない。二酸化炭素より劣るぐらいである。しつこいイボを切除するのに液体窒素を使う羽目になったとか、お菓子のビニール袋の隅のほうに窒素充填の文字を見つけたとか、そんなことでもなければ意識にのぼらないほど、ホント、空気のようなヤツである。

 ともかく、万事派手好みの酸素とはえらく違う。

 小学生の理科の実験で、作り方を習ったときから、すでに影が薄かった。

 酸素は二酸化マンガンと過酸化水素水をまぜて、化学反応させて生成する。水素なら、電気分解。

 どちらもフラスコの中で、ぶくぶくするわけで、理科の実験の醍醐味が十分味わえる。

 それにひきかえ、窒素は悲しい。作り方はこうである。

 まず、広口ビンの中に石灰水を少し入れ、ろうそくをセットする。次にそのろうそくに火をつけ、口をふさぐ。しばらくすると炎が消えるので、そうなったら軽くビンを振る。たったこれだけだ。

 ようするに、邪魔な酸素を燃やして二酸化炭素にし、それを石灰水に溶かし込んでしまえば残りは窒素となる、そういう消去法である。つまり、作り方と言っても、現象が地味、そのうえ窒素本来の特性を利用しないで、他力本願の結果得られた残りかすが窒素というわけである。そんな眉唾な作り方では子どもがワクワクしようがないではないか。


 ところが、娘の教科書を懐かしみながらぱらぱらめくると、まったく正反対の思いが込み上げてきた。

「ふむむ、味なまねを。カッコいいじゃん!」と。

 ハッとするような現象の華麗さはどこにもないが、論理的な手順の美しさにじんわり。それに、慎ましやかな道具立てにも好感がもてた。どこか落語オチのようなしゃれっ気もいい感じである。

 ミステリーにもそんな消去法を使った作品がある。

 派手やかな一発トリックもいいけれど、純粋なロジックでありながら、どこかピントをはずした消去法を操って、ふと気づいてみれば犯人が浮き彫りにされている、そんな作品も面白い。言うなれば大人のミステリーである。

 

 窒素には味がある。

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