日常の疑問
シアンはあの日、あの女を殺してから毎週のように殺人を犯していた。
シアンにとってそれは、もはや日課だった。
外に出るとき、肌が出ないように手袋や帽子をかぶっていたので証拠はうまい具合に消えていた。
一般世間は、この事件を「水曜の夜に現れる殺人鬼」としてひどく恐れた。水曜の夜の街は、人が消え、店も休みになり、まるでホラーゲームや映画に出てきそうなじめっとした空気が漂う、昼間とはまるで違う街になっていた。
これはシアンにとってはいい迷惑だった。一週に一度の楽しみが減りかねない。
最近、シアンの中で刺殺ブームが来ていた。刺した時のあの呻き声、抜いた時に飛び散る赤い血、血を垂らしながら力なく倒れていく人間の無様な姿、死んでたまるか、と必死に手を伸ばし地面に這いつくばる虫のような動き。全てが素晴らしかった。
シアンにとって殺人は芸術だった。週に一度、芸術鑑賞をして満足して施設に戻る。すばらしい日課だった。
ある日、シアンはいつものように人を殺して施設に戻り、血のついた手袋を洗濯機に放り込んで奥の方に隠し、平然と部屋に戻った。
上着を脱ごうとしてボタンをひとつ外した時、部屋に先生が入ってきた。
「今日はどうだった?なにか新しい発見はあったの?」
と優しい笑顔を見せてシアンに問いかけた。
「う、うん!…そういえば、最近街が暗い気がするの。」
「そう、そのことなんだけどね…」
シアンは上着を脱ぎ終え、椅子の背もたれに上着をかけた。
「シアン、」
言葉が途絶えた。
先生はシアンの方を見て言葉を失っていた。
シアンの首筋に、茶色っぽい染みのようなものと黒っぽいカスが付着していた。
血痕だ。
先生の頭は真っ白になった。やっぱりそうか。いや、まさか、でもそうとしか考えらられない。頭の中で戦争が起きた。
殺人鬼が目の前にいる。私と話している。いっきに全身に鳥肌が立った。
「先生?どうしたの?」
「えっ、あ、いや、なんでもないの!ごめんね。あ、お、おやすみ。」
先生はそそくさと部屋を出た。
部屋の外で先生は少し考えた。
これからどうすべきだ?私はどうしたらいいのだ?そもそもこれは現実か?夢か?ああ、もういい。
先生はおぼつかない足取りで自室に帰っていった。
部屋の中でシアンは少し考えた。
どうして先生はあんなに焦っていたんだ?そもそもなんで街は暗くなったの?…ああ、もういい。
シアンは複雑な気持ちでベットに入った。
暗闇の中にいるだけの不思議な夢を見た。
少し怖かった。
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